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私はイザベル、カステロ伯爵家の長女だ。ジョシュア様のお母様、エリヤ・アラベスク侯爵夫人は、私のお母様の姉でひと月前に病死した。元々病弱なエリヤ伯母様であったけれど、アーチー・アラベスク侯爵様はとても悲しみすっかり気落ちしてしまう。それ以来田舎に引きこもり、エリヤ伯母様の死を悼んでいる。
アーチ・アラベスク侯爵様の跡を継いだジョシュア様は、若くして当主になり私にプロポーズしてくださった。彼は私の婚約者となり、結婚を1年後としお互いの屋敷を行き来している。なぜ1年後の結婚かといえば、ジョシュア様は私が王立女子学園をきちんと卒業することを望んだからだ。
「イザベルは誰よりも大事な女性だよ。だから今は私よりも学園を優先し、学生時代にしかできないことをたくさん経験してほしい」
そうおっしゃったジョシュア様は銀髪でアメジストの瞳。長い睫が頬に影を落とし、繊細な顔立ちは彫刻のようだ。
大好きなジョシュア様はいつだって私のことを思ってくださる。だから私は、こんなにも素敵な男性と婚約できた幸運を神様に感謝した。
王立貴族女子学園での休み時間や放課後は、女子達の恋バナ大会だ。
「この間の休日はね、婚約者と王立記念公園に行って来ましたわ」
「私は王立博物館と水族館ですわ」
「水族館は定番ですわね! ところで、デートの帰りにすることと言えば?」
「うふふ。キスでしょう? そっと抱きしめられてからのキスですわ!」
「そうそう。キスですわ! この間なんて彼が舌をいれてきて・・・・・・」
「「「きゃぁーー!! 」」」
「私なんて胸を・・・・・・」
「「「えぇーー!! それで、それで・・・・・・」」」
「あら? イザベル様は全然お話しなさらないけれど・・・・・・婚約者はあの素敵なジョシュア・アラベスク侯爵卿でしたわね?」
「えぇ、そうですわ」
「だったらなにかお話なさいませ。ファーストキスはどこでしたの? 卒業してすぐの結婚が決まっていらっしゃるのなら、もうしちゃってるのでは?」
「え? えっと・・・・・・なんにもしておりませんわ。・・・・・・手を繋いだり、髪を撫でられたりだけですわ」
「「「えぇーー!!」」」
一緒に恋バナをしていた女子達のほとんどが驚きの声を出す。この世界では婚約者ができると、結婚を待たないで妊娠する女性も4割ほどいる。私のようにキスもまだと言うと、バカにしてくる女子も少なくない。
「それって本当に愛されているのかしら? 男性って我慢できない部分があるって聞きますわ。誰か他の女性がいらっしゃったりして・・・・・・あっ、ごめんなさいね、そんなはずはないですわよねぇ」
私の父方の従姉妹ポピー・メンデス男爵令嬢が遠慮がちにそう言った。黒髪の巻き毛をもてあそびながら、大きなくりくりとした瞳で可愛らしく小首を傾げるポピー。彼女のお父様は、私のお父様の弟だ。
「そんなこと・・・・・・ないって思う。ジョシュア様は私を愛しているからこそ大事にする、っておっしゃったわ」
「あぁ、そうよね。きっとそうだと良いですわね。まぁ、あまり魅力を感じない女性に対しては触れたいとは思わないのかもしれませんし・・・・・・」
とポピー。
「魅力を感じない?・・・・・・」
私はジョシュア様を信じているけれど、キスはほとんどの女の子達が経験している。私だけ取り残されたみたいで寂しい。
「私だけがキスもしていないのですよ? 今日は帰りにキスをしてくださいませ」
ジョシュア様とのデートの際に、私は女の子達の会話を引き合いに出しキスを強請った。
「私は君を心から愛しているよ。だからこそ今は手を繋ぐだけで充分だ。こうして抱きしめたり髪を撫でたりするだけで充分なんだよ。君を大事にしたいからキスはやめておこう」
またいつもの言葉が返ってくる。
(信じているけれど不安だわ。ポピーの言葉が気になる。私に魅力がないのだとしたら・・・・・・)
その3カ月後のこと。
「イザベル様に、誰にも聞かれたくない相談がありますわ」
ポピーが思い詰めた顔でそう言った。
「相談? 学園では言えないことかしら? だったらカステロ伯爵家にいらっしゃいよ。私のお部屋でお話しましょう」
私は暢気にそう答えてポピーに微笑む。
ポピーが私の部屋を訪れ放った言葉は、
「私妊娠してしまいましたの。父親はジョシュア・アラベスク侯爵卿ですわぁーー! どうか許してちょうだい。可哀想なイザベル様」
アーチ・アラベスク侯爵様の跡を継いだジョシュア様は、若くして当主になり私にプロポーズしてくださった。彼は私の婚約者となり、結婚を1年後としお互いの屋敷を行き来している。なぜ1年後の結婚かといえば、ジョシュア様は私が王立女子学園をきちんと卒業することを望んだからだ。
「イザベルは誰よりも大事な女性だよ。だから今は私よりも学園を優先し、学生時代にしかできないことをたくさん経験してほしい」
そうおっしゃったジョシュア様は銀髪でアメジストの瞳。長い睫が頬に影を落とし、繊細な顔立ちは彫刻のようだ。
大好きなジョシュア様はいつだって私のことを思ってくださる。だから私は、こんなにも素敵な男性と婚約できた幸運を神様に感謝した。
王立貴族女子学園での休み時間や放課後は、女子達の恋バナ大会だ。
「この間の休日はね、婚約者と王立記念公園に行って来ましたわ」
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「「「きゃぁーー!! 」」」
「私なんて胸を・・・・・・」
「「「えぇーー!! それで、それで・・・・・・」」」
「あら? イザベル様は全然お話しなさらないけれど・・・・・・婚約者はあの素敵なジョシュア・アラベスク侯爵卿でしたわね?」
「えぇ、そうですわ」
「だったらなにかお話なさいませ。ファーストキスはどこでしたの? 卒業してすぐの結婚が決まっていらっしゃるのなら、もうしちゃってるのでは?」
「え? えっと・・・・・・なんにもしておりませんわ。・・・・・・手を繋いだり、髪を撫でられたりだけですわ」
「「「えぇーー!!」」」
一緒に恋バナをしていた女子達のほとんどが驚きの声を出す。この世界では婚約者ができると、結婚を待たないで妊娠する女性も4割ほどいる。私のようにキスもまだと言うと、バカにしてくる女子も少なくない。
「それって本当に愛されているのかしら? 男性って我慢できない部分があるって聞きますわ。誰か他の女性がいらっしゃったりして・・・・・・あっ、ごめんなさいね、そんなはずはないですわよねぇ」
私の父方の従姉妹ポピー・メンデス男爵令嬢が遠慮がちにそう言った。黒髪の巻き毛をもてあそびながら、大きなくりくりとした瞳で可愛らしく小首を傾げるポピー。彼女のお父様は、私のお父様の弟だ。
「そんなこと・・・・・・ないって思う。ジョシュア様は私を愛しているからこそ大事にする、っておっしゃったわ」
「あぁ、そうよね。きっとそうだと良いですわね。まぁ、あまり魅力を感じない女性に対しては触れたいとは思わないのかもしれませんし・・・・・・」
とポピー。
「魅力を感じない?・・・・・・」
私はジョシュア様を信じているけれど、キスはほとんどの女の子達が経験している。私だけ取り残されたみたいで寂しい。
「私だけがキスもしていないのですよ? 今日は帰りにキスをしてくださいませ」
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またいつもの言葉が返ってくる。
(信じているけれど不安だわ。ポピーの言葉が気になる。私に魅力がないのだとしたら・・・・・・)
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「相談? 学園では言えないことかしら? だったらカステロ伯爵家にいらっしゃいよ。私のお部屋でお話しましょう」
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ポピーが私の部屋を訪れ放った言葉は、
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