(完結)「泥棒猫の寄生虫!」と罵倒されましたが、それはあなたの思い違いです。

青空一夏

文字の大きさ
上 下
11 / 15

9

しおりを挟む
 私が16歳になったその日、侍女長のイリスが私にひざまずき驚きの事実を私に告げた。

「シャルレーヌ皇女殿下。これよりマッカルモント帝国からお迎えがまいります。マッカルモント帝国のエルネスティーヌ女帝陛下がシャルレーヌ様のお母様です」

「・・・・・・嘘でしょう? 私は身分が低いのかと思っていたわ」

「それは、このエズルバーグ侯爵家のダミアン様がシャルレーヌ様にそう思い込ませていただけです。あの方はでくの坊ですからね」

「それにしてもちょっと心が追いついていかないわ。両親は亡くなったと言われながら育ってきたから、すぐに気持ちは切り替えられないかも。どんな事情があったかも知らないし」

「ごもっともですわ。詳細な経緯は、エルネスティーヌ女帝陛下から直接ご説明があるはずです。女帝陛下はこの日をどんなに心待ちにしていたか、私どもも感無量です!」

 私は迎えに来た護衛騎士に大切に守られて、祖国マッカルモント帝国に向かうのだった。







(ダミアン視点)


 マッカルモント帝国から来た護衛騎士は500人、リーナビア王国の民達はこれから戦争でも起こるのかと震えた。エズルバーグ侯爵家に到着したマッカルモント帝国大隊長は、真っ先にシャルレーヌのいる離れに挨拶に行きひざまづき、なんとシャレルーヌに臣下の礼をとった。

「ちょっと待てよ。ここはエズルバーグ侯爵家だぞ。まずはわたしの両親に挨拶するべきだろう」

「は? マッカルモント帝国とリーナビア王国の力の差を学園でお勉強なさいませんでしたか? つくづく残念な方ですね。この状況を見てもシャレルーヌ様の身分がわからないとは・・・・・・このお方はマッカルモント帝国の皇女殿下で、次期女帝になられる尊い身分の方ですよ」
 
「まさか・・・・・・シャルレーヌがわたしより身分が上だったなんて・・・・・・父上、母上、なぜ教えてくれなかったのですか?」

「普通考えればわかることを口にはしない。それを察せないようならそれだけの資質ということだ」
 と父上。

「まぁ、そういうことになるわね。最後まで気がつかないなんて絶望的ですよ。私達もそれについては反省しています。育て方を間違ってしまったわ」
 と母上。

「え? ・・・・・・それは無理ですよ。あのリシャール殿下だってわからなかったではありませんか?」

「ですから、リシャール第2王子殿下はこれからそれ相応の罰を受けるでしょうね。マッカルモント帝国人は売られた喧嘩はきっちりかいますし、徹底的に潰すことをモットーにしております」
 シャルレーヌの侍女長と専属執事は悪い笑みをちらつかせた。





 シャルレーヌはわたしの両親と抱き合って感謝の気持ちを表していたが、わたしにはそっけなかった。

(皇女殿下だってわかっていたらあんな言い方はしなかった。もっと敬っていたし、違う対応になっていたはずだ。本当のことを言ってくれなかったシャルレーヌも悪いよ)

「なぁ、シャルレーヌ。君がわたしに本当のことを言わなかったのが酷いと思わないか? わたしが勘違いしていたのを楽しんで笑っていたのか?」

「? なんのことでしょうか? 楽しんで笑っていたことなどひとつもありませんわ。私の身分が低いと思うとダミアンお兄様に聞かされた時はそれを信じていましたし、皇女だと知ったのは先日のことです」

「だったら側近が悪いよ。もっと早くに本人に教えておいてもなんの支障もなかったはずなのに、なにをもったいぶって・・・・・・」

「控えよ。皇女殿下の御前であるぞ! 愚息が大変見苦しい発言をしました。シャルレーヌ皇女殿下、どうかお許しを」

「もちろん許します。今まで育てていただいたご恩は決して忘れませんわ」
 シャルレーヌはわたしの両親に抱きつき、感動の別れの場面の続きが繰り広げられている。わたしだけ置いてけぼりだよ。あんなに可愛がってやったのに!








 それからしばらく経って、父上は伯爵に降爵になり領地も減らされ、筆頭侯爵家から転落した。エズルバーグ侯爵家がいったい何をしたと言うんだ?

「お願いします、国王陛下に謁見を望みます。後生です。お願いします」
 わたしは王宮に出向き、謁見を申し出る。 

「いったいなんの騒ぎだい? 父上に謁見なんて無謀なことはやめたほうがいいよ」
 冷たい口調に振り返ると、クリストファー第3王子殿下が腕を組んで立っていた。

(この王子はオーギュスト王太子殿下より苦手なんだよな。神童ともてはやされ口の利き方がまるで大人で、ぞっとするほど美しい)

「シャルレーヌが皇女様なら皇女様を今まで育てたご褒美こそあれ、なぜ降爵なのです? おかしいと思います。領地も減らされ、冷遇されるなんて。マッカルモント帝国は恩知らずです」
 年下のクリストファー第3王子殿下に、不満をつい漏らす。

「だから、ダミアンはダメなのさ。降爵になったのは君の愚かさのせいさ。あのパーティーでシャルレーヌ様を侮辱しただろう? 今までもきっと迂闊な発言をシャルレーヌ様の側近達の前でしていたはずだよ。これはシャレルーヌ様が判断して下した処分じゃないよ。側近の話を聞きマッカルモント帝国の女帝がどう思うかを配慮し、僕の父上が下した判断だ。父上はダミアン達を男爵にしようとしたのを、シャルレーヌ様が意見して伯爵でとどまったと聞いた。余計なことを言って男爵にされたいのなら、取り次いであげよう」

「そんなぁ・・・・・・あの状況で身分が低いと思ってもわたしに悪気などないのに・・・・・・」

「ここには来なかったことにしてあげるし、さきほどの発言も忘れてあげるよ。少なくとも僕にとってはダミアンは好ましい人物だからね。だって君が賢くて分別のある男だったら、最もシャルレーヌ様を手に入れやすいポジションだものね? シャルレーヌ様に望まれれば、多分身分差は乗り越えられたはずだよ。きっと女帝陛下は、長い間離れていた愛娘を溺愛するだろうからね。シャルレーヌ様がどうしても夫にダミアンを望めば喜んで認めただろう。愚かでいてくれてありがとう! それにシャルレーヌ様を大事にしていたことには変わりない。僕からもお礼をいうよ。君の愚かさは別にして、とても感謝しているさ。ありがとう」
 クリストファー第3王子殿下はまるで大人のような口ぶりでそう言うと、踵を返して去って行った。あれでわずか10歳? あと5年もしたらどうなるんだ?

(生まれつき持っているものが違いすぎる。それにしても・・・・・・あぁ、バカだった。もう少しうまくやれば、あのクリストファー第3王子殿下の言うように恋仲にもっていけただろうに・・・・・・時間よ、戻れ! 戻ってくれよぉおおおーー)

 あの美しい女神を手に入れ損ねたマヌケなわたしは、その場にしゃがみ込んで涙に暮れた。もちろん、王家の騎士達から鬱陶しがられ外に放り出されたのは言うまでもない。

(ちっくしょおぉおおおーー無念だ・・・・・・) 
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

かわいがっているネズミが王子様だと知ったとたんに可愛くなくなりました

ねむ太朗
恋愛
伯爵令嬢のアネモネは金色のネズミを見つけ、飼う事にした。 しかし、金色のネズミは第三王子のロイアン殿下だった。 「頼む! 俺にキスをしてくれ」 「えっ、無理です」 真実の愛のキスで人間に戻れるらしい…… そんなおとぎ話みたいな事ある訳ないわよね……? 作者おばかの為、設定ゆるめです。

彼女(ヒロイン)は、バッドエンドが確定している

基本二度寝
恋愛
おそらく彼女(ヒロイン)は記憶持ちだった。 王族が認め、発表した「稀有な能力を覚醒させた」と、『選ばれた平民』。 彼女は侯爵令嬢の婚約者の第二王子と距離が近くなり、噂を立てられるほどになっていた。 しかし、侯爵令嬢はそれに構う余裕はなかった。 侯爵令嬢は、第二王子から急遽開催される夜会に呼び出しを受けた。 とうとう婚約破棄を言い渡されるのだろう。 平民の彼女は第二王子の婚約者から彼を奪いたいのだ。 それが、運命だと信じている。 …穏便に済めば、大事にならないかもしれない。 会場へ向かう馬車の中で侯爵令嬢は息を吐いた。 侯爵令嬢もまた記憶持ちだった。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

王子の恋愛を応援したい気持ちはありましてよ?

もふっとしたクリームパン
恋愛
ふわっとしたなんちゃって中世っぽい世界観です。*この話に出てくる国名等は適当に雰囲気で付けてます。 『私の名はジオルド。国王の息子ではあるが次男である為、第二王子だ。どんなに努力しても所詮は兄の控えでしかなく、婚約者だって公爵令嬢だからか、可愛げのないことばかり言う。うんざりしていた所に、王立学校で偶然出会った亜麻色の美しい髪を持つ男爵令嬢。彼女の無邪気な笑顔と優しいその心に惹かれてしまうのは至極当然のことだろう。私は彼女と結婚したいと思うようになった。第二王位継承権を持つ王弟の妻となるのだから、妻の後ろ盾など関係ないだろう。…そんな考えがどこかで漏れてしまったのか、どうやら婚約者が彼女を見下し酷い扱いをしているようだ。もう我慢ならない、一刻も早く父上に婚約破棄を申し出ねば…。』(注意、小説の視点は、公爵令嬢です。別の視点の話もあります) *本編8話+オマケ二話と登場人物紹介で完結、小ネタ話を追加しました。*アルファポリス様のみ公開。 *よくある婚約破棄に関する話で、ざまぁが中心です。*随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。 拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。

婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~

みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。 全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。 それをあざ笑う人々。 そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。

処理中です...