(完結)「泥棒猫の寄生虫!」と罵倒されましたが、それはあなたの思い違いです。

青空一夏

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(クリストファー(第3王子)視点)

 僕はリーナビア王国の第3王子で今年10歳になる。今日は王立貴族学園で常にトップの成績を誇るカドバリー公爵令嬢と、エズルバーグ侯爵家令息ダミアンの婚約発表会だと聞いていた。

「おとなしく参加するようにな。今日は父上の体調不良で、代わりにわたし達王子が出席するんだ。余計なことをするなよ」
 リシャール兄上は僕を子供扱いする。僕はリシャール兄上の剣なら、寝ていてもかわせる自信があるのに。

「リシャール、クリストファーはお前より優秀だからそんな言葉は不要だ。クリストファー、貴族達の様子をよく見ておきなさい。わたしがお前の歳には、周りの空気をよんで適切に行動できたぞ」
 オーギュスト兄上は僕の頭を撫でて笑った。

「僕はオーギュスト兄上を超えますよ。今は目標だけど、いつか超えたい」

「うん、頼もしいな。それでこそわたしの弟だ」

「はいはい。優秀すぎる二人の王子に挟まれて、わたしは不幸だよ。わたしだって、かなり優秀なんだぞ!」

(優秀な王子は自分で優秀なんて公言しないけどね)





 このパーティに出席してすぐに気がついたのは、ミスティ・カドバリー公爵令嬢はリシャール兄上と同じぐらいバカだということだ。こんなパーティで婚約破棄なんて普通ならしない。10歳の僕でもわかるのに、なぜ年上の彼女がわからないのかな? 

 言いがかりをつけられていたのはすっごく綺麗な人だった。あんなに綺麗な人は初めて見たから、ドキドキしちゃった。
「ね、あの綺麗な人は誰なの?」
 僕は専属侍従に尋ねた。
「あの方はエズルバーグ侯爵家にいらっしゃるシャルレーヌ様ですよ」
 
「あのように綺麗な人が僕のお嫁さんになってくれたらいいのになぁ」
思わず漏らすと従者が笑った。

「年齢差がありますね。あの方は4歳も年上です」

(たった4歳だよ。彼女は歳をそんなに気にする? ぼくはできるだけ早く大きくなりたい)








 シャルレーヌ様を虐めていたミスティ・カドバリー公爵令嬢がワインを持ってどこかに行こうとしていた。

(どこに持っていくのかな?)

 後をつけたら、おかしな場面に出くわしてしまった。隣を見ればシャルレーヌ様の側にいた女性が、顔をしかめている。
「あなたはシャルレーヌ様の侍女でしょう? ミスティ・カドバリー公爵令嬢はワインに何を入れたと思いますか?」

「はい、イリスと申します。入れたのはおそらく毒ではなく媚薬の類いかと」

「媚薬? それってなんだい?」

「えぇっと、好きでもない男性を一時的に好きだと勘違いさせる薬です」

「それは大変だよ。そんなもの飲ませちゃダメだ。あんなに綺麗な人が、くだらない男を好きになるなんてダメだ!」

「あら、ふふふ。あなた様はこの国の第三王子殿下ですわね? とても賢くて有名ですよ」

「うん、僕はこれから猛勉強して、イリスの主人に認められたい。僕にもチャンスはある?」

「この世に叶わない夢はありません。まぁ、努力次第でしょう」
 イリスは第三王子である僕に対して、上から目線で鷹揚に答えたんだ。

 僕はそれだけでシャルレーヌ様が何者かわかった。リーナビア王国の王子に鷹揚な態度を取れるのは、マッカルモント帝国の皇族しかいない。従者まで王族にこのような態度をとれるのは・・・・・・最も高貴な方の侍女だ。

「さぁ、イリス。あのワインは僕がなんとかするから、ミスティ・カドバリー公爵令嬢を懲らしめる為にいい案を考えて」

「かしこまりました。やはり、因果応報が一番でしょうね。媚薬を盛るような女なら自分が盛られたらいいのです」

「うん、そうだね。あ、リシャール兄上もやっちゃっていいよ。あいつはいつも僕を隠れて虐めるし、とっても素行が悪くて下品なんだよ。シャルレーヌ様には少しも相応しくない」

「よろしいのですか? 兄君でしょう?」

「愚かな兄はいらない。足を引っ張られるだけだ。オーギュスト兄上も言っていたよ。愚かな兄弟ならいらないって」

(賢くない王族がいては国が乱れる。愚かなことは罪なんだ)
 僕は父上からもオーギュスト兄上からもそう教わった。







 ミスティ・カドバリー公爵令嬢がワインを渡したメイドに声をかけた。

「ねぇ、僕の話を聞いて。君は犯罪者になるところだったんだよ。それを持って行っちゃだめだ」

「え? クリストファー殿下? な、なぜですか?」

「うん、さっき迷子になってたまたまミスティ・カドバリー公爵令嬢の部屋まで行っちゃってね。そこでそのワインになにか変なもの入れたのを見たんだ。それを飲んで異変が生じたら、絶対君のせいにされるよ。あの令嬢が君を庇うと思う?」

「・・・・・・私はどうすればよろしいですか?」

 そうして、僕とイリスの思惑どおりに事が運んだ。なにも入っていないワインをシャルレーヌ様やオーギュスト兄上が飲んだ。二本目はリシャール兄上とミスティ・カドバリー公爵令嬢だけが飲むように仕向けたのさ。








 でも少し目を離した隙に、オーギュスト兄上とシャルレーヌ様がいいかんじになっていたから、がっかりしたよ。 僕の初恋の人。でも僕は諦めないもん。だって、勝負はまだまだこれからだよ。

「ねぇ、イリス、お願い。僕まだ10歳だけど5年もすれば絶対身長も伸びて、オーギュスト兄上より知性も腕力も上回るって約束するよ。だから味方になってよ」

「まぁまぁ。こんな可愛い求婚者まで現れるなんてさすがシャルレーヌ様ですわ。ふむ、年下も悪くないですわね。イリスは応援しましょう。未来の・・・・・・に」







 オーギュスト兄上と踊り終えたシャルレーヌ様の近くに僕はずっといた。ミスティ・カドバリー公爵令嬢はリシャール兄上と庭園に散歩に行ったけど、その後は追わなかった。

 後はイリスがうまくやると言っていたから僕はシャルレーヌ様の隣に陣取った。

「クリストファー殿下と同じ年頃の女の子達があちらにいますよ。あちらでおしゃべりしてきてはいかがですか?」

「ううん、行かない。だって僕は最速で大人にならなきゃいけないからね。そして、シャルレーヌ様にプロポーズするんだ」
 僕はシャルレーヌ様の手を握って見つめた。

「あっははは。クリストファー殿下もオーギュスト王太子殿下も、シャルレーヌと結婚するのは無理ですよ。シャルレーヌは私とでも身分が釣り合わないのですよ。シャルレーヌとできるのはダンスぐらいです。愛妾だったらいけるでしょうが、お二人とも諸外国の王女殿下と結婚なさるようなご身分でしょう? 愛妾は簡単に持てないですよ。国際問題になる」

(え? こいつ、なに言ってるの?)

 ダミアンの問題発言にオーギュスト兄上がその襟首を掴んで、僕は足を思いっきり踏んでやった。

「愚か者は口を閉じていなよ。空気が読めないって、貴族失格なんだよ? そのあたり、エズルバーグ侯爵夫妻もわかっているの?」
 僕がいらついた声を出しエズルバーグ侯爵夫妻に文句を言っていると、庭園で叫び声がきこえたのだった。

「きゃぁーー!! なんてふしだらなぁーー!!」

(リシャール兄上、やっちゃったな・・・・・・)

 オーギュスト兄上が僕を見てニヤリと笑った。

(なんか気がつかれたかな?)

「クリストファー、お前とは確実に血が繋がっている気がするよ」
 目の奥にはこの状況を面白がる色が見える。

「まぁね。シャルレーヌ様を見ればバカじゃ無ければ、どこの誰なのか見当がつくよ」

 そして、僕達は皆が群がる庭園に向かうのだった。
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