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 本邸でのお茶の時間、ミスティ様は私に愛想良く話しかけてくる。先ほどの私への失礼な言葉はまるでなかったかのように。だから私も聞かなかったことにする。

(この方は要注意人物だわ。関わると碌なことがなさそう)


「ミスティ様、どうぞディナーを召し上がっていきませんこと? 今日はマッカルモン帝国産上質Sランクのお肉とスイーツがありますの」
 エズルバーグ侯爵夫人がミスティ様に話しかけ、私にもにっこりと微笑んだ。

「そうですわねぇ、マッカルモント帝国産の最上級肉なんてよく手に入りましたわね? 私も頂いて帰りたいところですけれど、シャルレーヌ様も一緒に召し上がるのでしょう? 家族以外の方を同席されるのはおかしくありませんか? その方は、エズルバーグ侯爵家の縁戚にすぎないのでしょう?」

 エズルバーグ侯爵夫妻が顔を青ざめさせたのを見て、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

(私の身分が低いから無用な争いを生むのかしら? ダミアンお兄様も私が”ちゃんとした貴族の令嬢でなくても”とおっしゃっていたし。だったらこれ以降は、離れでディナーを食べた方がいいわね)

「私はこれ以降は離れで食事をしますわ。ダミアンお兄様やミスティ様のお邪魔をしたくありませんから」
 ゆっくりと立ち上がり、その場を去ろうとすると、エズルバーグ侯爵婦人がさらに青ざめて私を引き留めた。

「何を言うの? 邪魔なわけがないでしょう? お願いだからそんなことは言わないでちょうだい。シャルレーヌはとても大事な方です。そのようなことは全く気にする必要はありません」

「私は、気にしますわ。だって、本当の妹でもないのにおかしいでしょう? エズルバーグ侯爵夫人は甘やかしすぎなのでは? このシャルレーヌ様のお父様やお母様の家名はなんというのでしょう?」
 ミスティ様の言葉が私の胸をえぐる。

「家名ですって? ・・・・・・それは、申し上げることはできませんわ」

「ふふん。名乗るほどの家名ではないということですわね? だったら、あまり甘やかさないことですわ」
 私を挑発するように煽る下品さに、心底呆れてしまう。

「ミスティ様のおっしゃる通りですね。これ以降は、私は離れで食事をしましょう」
 
(たいしたことではない。離れには専属執事や侍女長、たくさんの使用人がいてとても大事にされている。元々私はここにいてはいけない人間なのかも)

「え? なぜ簡単に引き下がるのですか? もっと悪役令嬢なら頑張るべきだわ」
 意外な顔をして私を見つめるミスティ様。

(悪役令嬢? この方はなにを期待しているの?)

 気持ち悪くなって急いで離れに避難した。











 離れのサロンで、私は専属執事や侍女長イリスにミスティ様の話をする。
「ミスティ様は、なにを考えていらっしゃるかよくわからないわ。怖いし本邸で食事をするのはやめたいの」

「お嬢様のお好きになさって良いと思います。本邸で食事をしなければいけない義務などありませんので」
 二人はあっさりと許してくれた。

「大丈夫なの? エズルバーグ侯爵夫妻は青ざめていて慌てていたわよ?」

「あぁ、お嬢様が気にすることではありません。そのようなことはとても小さなことですので・・・・・・」
 専属執事は、手をひらひらと振って吐き捨てるように言った。

「私はエズルバーグ侯爵夫人が好きよ。だから困らせたくないの。ダミアンお兄様にも幸せになっていただきたいし。だから、ここから出て行く必要があると思うの」

「それには及びません。いずれお嬢様はここを去る日がきますので。成人になったらお迎えがきます。お嬢様は本来いるべき場所にお戻りになるのです」
 侍女長イリスの意味深な言葉に私は首を傾げた。

(私はいずれここを去るらしい。お迎えってどんな方が来るのかしら?)




 








 ダミアンお兄様とミスティ様は定期的に観劇や食事などのデートをするのだけれど、なぜ途中でダミアン様が帰ってくるのか理解できなかった。

 今日もダミアン様は申し訳なさそうにデートに向かわれた。
「シャルレーヌを放って置いてごめんね。でも、寂しくないように早めに帰るから」

「? どうぞ、ゆっくりしてきてくださいませ。私は特に寂しくはございませんよ」

「いいから無理をしないで。わたしはいつもシャルレーヌを思っているよ。だからミスティに文句を言うのはやめておくれ」

「? なにも言ってません。第一、私はミスティ様にあれ以来お会いしていませんよ」

 何度も否定するのに、途中で必ず屋敷に戻ってくるダミアンお兄様がよくわからない。







 ダミアンお兄様とミスティ・カドバリー公爵令嬢の婚約発表パーティー当日。

 大勢の招待客の前で高らかに宣言したミスティ様。
「私、ミスティ・カドバリーはダミアン・エズルバーグ侯爵令息と婚約破棄しますわ。ダミアン様はいつでもこのシャルレーヌ様を優先して、私を蔑ろにしてきました。このシャルレーヌ様がダミアン様と深い仲なのは明白ですわ」

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