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3ー3 ロマン視点

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 「とにかく今後のことについては後日話し合いましょう。アレクシお兄様も、お互いの両親も久々にお呼びしましょう。そろそろあなたも息子のレオナールに爵位を譲る時期と思いますわ。では、おやすみなさいませ。あなたの寝室はここではありませんので、出て行ってくださらない?」
 冷たいイザベラの口調にわたしはうろたえたが、きっと出がけに言ったわたしの言葉に拗ねているだけさ。翌日になればきっと機嫌も直るはず。

 しかし、それから1週間の間、イザベラは忙しくしており取り付く島もない。エメリーヌはあからさまに睨むし、レオナールはわたしの姿が見えていないかのように無視だ。

(イザベラの教育がなってないから、このような親も敬えないろくでなしになったのだ。全く、とんでもないできそこないに育ったものだ。嘆かわしい!)




 その翌日、一族がサロンに集まり全員一致でわたしの引退が決まる。
「もとから爵位だけ引き継いでおられて、仕事はわたしに丸投げでしたので、今さらいようといまいとなんら支障はございません」
 イザベラが生意気にもふざけたことを抜かしたのだ。

「何を言う? わたしはいつも接待ゴルフをしていたではないか? あのゴルフ仲間達はティエリー伯爵家のお得意様だろう?」

「あの方達はとっくに取引先の責任者を降格されています。いい加減で、仕事より遊ぶことがお好きな方達ですものね? 以前、私が申し上げましたよね?」

「え? さ、さぁ、なにか聞いた気もするがどうだったかな? すまん。記憶にない」

「つまり、ロマンよ。お前はずっと遊んでいるだけだったのか? 全く情けない。なにもかもイザベラ様に任せきりとは・・・・・・まぁ、お前の功績は優秀なレオナールとエメリーヌをこの世に誕生させたことだな。レオナールに爵位を譲り、これ以降は静かに暮らしなさい」
 父上は情けない顔でわたしを見つめてため息をつく。

「お父様にはとても素晴らしいプレゼントがありますわ。実は私、モニカ様のご子息にお手紙を送ったのです。お父様のことをお伝えしたら、レセップス伯爵家の別荘に格安の家賃で住んでもいいとおっしゃってくださいましたの。モニカ様と一緒に住めるのですよ? やはりこれは私達の義務だと思いました」
 とエメリーヌ。

「はぁ? なにが義務なのだ?」

「だから真実のお二人の愛、初恋を実らせてさしあげるのは、私達子供の義務と思います。どうぞ大好きなモニカ様とそこで終生添い遂げてくださいね。お母様は離縁したいそうです。あちらのご子息もモニカ様とは縁を切りたいのですって。もちろん私達はお父様達に、最低限の生活に必要なお金は送ります。飢え死にされても外聞が悪いですものね」

「モニカなんてとっくに忘れていたよ。私はイザベラを心から愛していたし、これからも変わらない。イザベラ、これからも支え合って二人で生きて行こう」

「都合のいいことばかりおっしゃらないでくださいませ。今までの私への言動は全て日記にしたためております。なんならここで全部読み上げましょうか?」

「私も日記に書いていたわ。お父様がお母様をバカにしてモニカ様を褒める言葉や、私に「お母様に似て冴えない顔で可哀想に」と、言い続けたことや・・・・・・」

「やめろ!それ以上言うな。わたしがまるで酷い夫で意地悪な父親のようではないか!」

「父上、初恋の女性と第2の人生をお楽しみください」
 レオナールは氷のように冷たい声でそう言った。



 







 翌日わたしの荷物はあのモニカの屋敷に運ばれていく。このわたしも一緒に積まれて強制的に追いやられたのだ。  屋敷に着くと、モニカがいて私の顔を見て大きなため息をついた。

「息子に捨てられたわ。もうここに住むしかないわよ。第2の人生を楽しみなさい、ですって」

「あぁ、わたしも息子に言われた。第2の人生をお楽しみください、だとさ」

 お互いの顔を見合わせて、大きな大きなため息をついた。イザベラは本当に不細工だったのか? いいや、顔立ちは華やかではないが整っていた。頭が良くて機転の利く会話と、テキパキと仕事をこなすほっそりした身体は上品で優雅にさえ見えたじゃないか? 笑うとパッと花がほころぶようでえくぼが可愛かった。

 ちょっと待て。わたしは理想的な妻を手に入れながら、ずっとないものねだりをしていたのか?

(なんたるばか者だ。わたしは世界一の愚か者だな)





「ちょっと! いつまでメソメソしているのよ。コックが料理するのを手伝ってきてよ。この屋敷には最低限の使用人しかいないのよ。お腹が空いて死にそうだわ」
 モニカが大きな腹をたたく、パァーーンとした音が響いたのだった。

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