可愛くない私に価値はないのでしょう?

青空一夏

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続編 フィントン男爵夫人の末路

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※本編59話の続きとしての展開になります。

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 私達は国王陛下から犯罪奴隷10年の刑とされた。夫とは引き離され大農園で朝から暗くなるまで働かされるが、与えられる食物はわずかだ。野菜の切れ端が少しだけ浮いた薄いスープと固いパンしか食べられないし、休憩時間はほぼないに等しい。

 ここは綿花農園で炎天下のなか、綿をひたすら手で摘む作業に目眩が起こる。ふらつき倒れそうになるとムチで背中を打たれた。

「こんな食事だと身体が動きません。仕事の効率だって悪くなります」
 奴隷監督に意見をした男は穴倉に三日ほど閉じ込められ、ムチを打たれ続け瀕死の状態で出てきた。それを見て他の奴隷達は誰も口答えができなくなる。

「奴隷はいくらでもいるんだからお前達は家畜以下なのだよ」

 農場主に雇われている奴隷監督はムチを片手に持ちながら勝ち誇ったような笑みを浮かべた。食べ物も最小限で生きていられるだけのギリギリの生活が続く。一日中お腹がすいているし、体力がないのでふらふらだ。

 奴隷部屋に寝具はない。冷たく固い床に重なり合うようにして横になる。一日中働かされて泥のように眠る場所がこれでは、私達の身体はどんどん弱っていく。生きるか死ぬかのぎりぎりのところで生かされている道具が私達なのだ。

(なんで私がこんなことにならないといけないのよ。なにも悪い事なんてしてないのに)

 不満ばかりが噴き出す。初めの頃はリネータのせいでこのような目に遭っていることに憤りしか感じなかった。けれど同年代の奴隷キャンディスが、娘の為に毎晩祈るのを聞いて少しづつ気持ちが変わっていった。

 「育て方を間違ったのです。あの子のせいではありません。甘やかしすぎました」

 キャンディスの言葉に、私もリネータへの接し方を思い返す。確かになんでも欲しい物を与え続け、叱った記憶もあまりなかった。当時の私の関心ごとはドレスに宝石と着飾ることばかりで、リネータの教育を真剣に考えていなかったと思う。自分の愚かさに唇を噛みしめる。

 リネータも犯罪奴隷に堕とされてきっと苦労をしているはずだ。その責任は堅実な女性に育てあげることを怠った私の責任でもあった。

 10年の犯罪奴隷生活を終え、私とキャンデスは修道院を訪ね、自ら修道女となった。神に祈り院内の畑を耕し家畜の世話をし、質素な生活ではあるが心が豊かに潤っていくのがわかる。奴隷としての生活を経験した私達にこの生活は天国だった。

 質素ではあるが野菜と肉の入ったスープは味がしたし、パンは柔らかく焼きたてを食べられる。もちろん自分達で自給自足なので楽ではないが、人権を無視した過酷な労働はないしムチで打たれるわけでもない。心の汚れを落とし正しく誠実に生きる喜びを感じ穏やかな日々を過ごす。

 そこからさらに歳月が経ち、修道院でたくさんの本を読み多くのことを学んだ私は修道院長になっていた。多くの悩みを抱える女性達の相談を修道院でうけるようになり、救いを求めて全国から女性達が来るようになった。

 リネータが危害を加えようとしたアーネット子爵令嬢のグレイス様は、今ではポールスランド伯爵夫人となっていた。その方に心からの謝罪のお手紙を送ると、リネータも市井で頑張っているという嬉しい情報と私の身体を気遣う優しいお返事がいただけた。

 お忍びでリネータの食堂を訪れ、遠目に元気な様子を確かめた。地道に確実に幸せな道を歩んでいることに胸をなでおろし神に感謝する。

 リネータの食堂の近くの池に数匹いたガマガエルがこちらを見た気がした。

「ゲロゲロゲロ」

 カエルの鳴き声に見送られて修道院に帰っていく私の顔は晴れやかだった。
 
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