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45-3 ロナルド・エイキン視点
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※ロナルドの末路になります。次回は娘達視点でジュエルがどうなったかが描かれます。
「お前達はわたしから受けた恩を仇で返すのか? 犬だって受けた恩は忘れない。お前らはどいつもこいつも犬以下だ」
「なんだと! もうあんたなんて商会長じゃないんだ。偉そうにするなっ! ずっとあんたの鬱憤を晴らす為のサンドバッグ扱いでうんざりだったよ。お給料はそれなりに良かったが、恩着せがましくて威張り腐って最悪な上司だったぜ」
雇ってやった恩も忘れて、商会従業員の一人が近づき、その大柄な身体でわたしを突き飛ばした。床に頭をぶつけそのまま意識を失う。
目を開けると病院で、目の前には妻のセレーブが心配そうにわたしの顔を覗き込んでいた。
「目が覚めたばかりで悪いけれど離縁してください。子供達はわたしが引き取ります」
「そんな勝手なことさせないぞ。だいたい、お前なんかに子供が育てられるわけがないんだ。稼ぐ能力もないくせに子供が養えるわけがないだろう? 頭の悪い女はこれだから困る」
「頭が悪い? あなたは私の結婚前の職業を忘れたのですか? 確かに廊下に名前を張り出されるほど成績は良くありませんでしたが、学園卒業後に看護専門学校に通い看護師として働いていました。あなたが足の骨を折って入院した時に、私がお世話を担当していたのを忘れていますよね?」
「・・・・・・すっかり忘れていた。しかし看護師の給料などたかが知れているだろう。子供二人も育てられまい。わたしは離婚はしないし、刃向かうなら金は一切ださん。屋敷に戻ってお前はわたしを支えろ。夫が追い詰められているこんな時に逃げようとするとは卑怯な女だ」
わたしはこの浅ましい妻を怒鳴りつけた。夫が大変な時にいきなり離縁しようなんて薄情にも程がある。
「見苦しい男ですね。離縁はポールスランド伯爵家が認めます。ロナルド・エイキン、あなたの財産は全て没収します。ポールスランド学園に対する損害賠償金と、エイキン商会製品を購入し健康被害が心配される方達への損害賠償金にあてなければなりません」
「ポールスランド学園への名誉毀損ってやつですか? こんなことはどこの領地でも当たり前にあることですよ。有力者の子供達が優遇される学園は珍しくないです。それに我が商会の製品で健康被害にあった奴はまだ誰もいません。あの綺麗な緑色に毒性なんてあるわけがないんだ!」
「ここはポールスランド伯爵領です。他の領地がどうであろうと関係ありません。不正は許しませんし、毒性の可能性が疑われるものを販売した責任は取らせます。健康被害は数年後に出るかもしれません。いますぐでない場合もあるのです」
「将来起こるかもしれない健康被害なんて関係ないです。その製品を手にした客がすぐ死んだのならわかりますよ。でも、そうじゃないならわたしに責任なんてありません。言いがかりだ。ポールスランド伯爵家はわたしの財産を自分達のものにしたいだけなんだ!」
「商会の従業員達は路頭に迷わぬようにこちらで次の就職先を斡旋していきます。あなたの全ての保有している財産を直ちに差し押さえますわ」
「そんなことされたら明日からどうやって生活したらいいのですか?」
「鉱山には宿舎がありますし、食事付きですからご心配なく」
「まさか・・・・・・わたしをそんなところに行かせるのですか? それじゃぁ犯罪者じゃないか!」
「あなたは犯罪者ですよ。自覚がないのですか? 死の危険性のある毒物製品を国中にばらまいたのですよ。そうそう、セレーブさんには慰謝料と養育費を払ってくださいね」
「なぜ妻に慰謝料を払うのですか?」
「『お前の頭の悪い遺伝子が悪さをしたんだ』などと、セレーブさんを頻繁に責めたそうですね。子供達の前でそのように罵倒されて、精神的苦痛は計り知れませんよ。最低の夫です」
「だって本当のことじゃないか。看護師より天才科学者の息子のわたしの方がずっと上等な人間だ」
「看護師がいなければ医療現場は成り立ちません。現在のポールスランド伯爵領では、看護師の地位保証を以前より著しく向上させていますよ。より高給で待遇も改善しています。この世の中になくてはならない職業のひとつですからね。自分だって今、病院にいて看護師のお世話になっているではありませんか」
ポールスランド伯爵夫人の氷のように冷たい視線にそれ以上反論はできなかった。
鉱山に送られたわたしは犯罪者の働く区画に放り込まれた。ここに送られる前に一度だけ子供達に会った。
「お父様のせいで、私は学園の皆に白い目で見られて、散々悪口を言われたのよ。お父様の言う通りにしただけなのに・・・・・・お友達も皆いなくなっちゃった」
「お父様のせいで私とアンナはポールスランド学園に通えなくなりました。噂が瞬く間に広がり、恥ずかしくて外を歩くこともできません。みんなお父様のせいですからね! 私が試験問題の解答を自分から欲しがったわけじゃないのに、あんなものなくたってちゃんと勉強すればトップがとれていたのよ!」
娘達はわたしを嫌悪の表情を浮かべて睨み付けた。ジュエルはひたすら自分は不正なんかしたくてしたわけではないと強調していた。
(だったら、『自分で頑張りたいからもう試験問題は要らない』とわたしに言えば良かったじゃないか? あれほど喜んで試験問題の模範解答だけを暗記していたのに)
わたしは家族も金も名声も地位もなくした。今まさに目の前に広がる粉塵舞い立つ鉱山の作業現場だけがわたしの居場所になったのだった。
「お前達はわたしから受けた恩を仇で返すのか? 犬だって受けた恩は忘れない。お前らはどいつもこいつも犬以下だ」
「なんだと! もうあんたなんて商会長じゃないんだ。偉そうにするなっ! ずっとあんたの鬱憤を晴らす為のサンドバッグ扱いでうんざりだったよ。お給料はそれなりに良かったが、恩着せがましくて威張り腐って最悪な上司だったぜ」
雇ってやった恩も忘れて、商会従業員の一人が近づき、その大柄な身体でわたしを突き飛ばした。床に頭をぶつけそのまま意識を失う。
目を開けると病院で、目の前には妻のセレーブが心配そうにわたしの顔を覗き込んでいた。
「目が覚めたばかりで悪いけれど離縁してください。子供達はわたしが引き取ります」
「そんな勝手なことさせないぞ。だいたい、お前なんかに子供が育てられるわけがないんだ。稼ぐ能力もないくせに子供が養えるわけがないだろう? 頭の悪い女はこれだから困る」
「頭が悪い? あなたは私の結婚前の職業を忘れたのですか? 確かに廊下に名前を張り出されるほど成績は良くありませんでしたが、学園卒業後に看護専門学校に通い看護師として働いていました。あなたが足の骨を折って入院した時に、私がお世話を担当していたのを忘れていますよね?」
「・・・・・・すっかり忘れていた。しかし看護師の給料などたかが知れているだろう。子供二人も育てられまい。わたしは離婚はしないし、刃向かうなら金は一切ださん。屋敷に戻ってお前はわたしを支えろ。夫が追い詰められているこんな時に逃げようとするとは卑怯な女だ」
わたしはこの浅ましい妻を怒鳴りつけた。夫が大変な時にいきなり離縁しようなんて薄情にも程がある。
「見苦しい男ですね。離縁はポールスランド伯爵家が認めます。ロナルド・エイキン、あなたの財産は全て没収します。ポールスランド学園に対する損害賠償金と、エイキン商会製品を購入し健康被害が心配される方達への損害賠償金にあてなければなりません」
「ポールスランド学園への名誉毀損ってやつですか? こんなことはどこの領地でも当たり前にあることですよ。有力者の子供達が優遇される学園は珍しくないです。それに我が商会の製品で健康被害にあった奴はまだ誰もいません。あの綺麗な緑色に毒性なんてあるわけがないんだ!」
「ここはポールスランド伯爵領です。他の領地がどうであろうと関係ありません。不正は許しませんし、毒性の可能性が疑われるものを販売した責任は取らせます。健康被害は数年後に出るかもしれません。いますぐでない場合もあるのです」
「将来起こるかもしれない健康被害なんて関係ないです。その製品を手にした客がすぐ死んだのならわかりますよ。でも、そうじゃないならわたしに責任なんてありません。言いがかりだ。ポールスランド伯爵家はわたしの財産を自分達のものにしたいだけなんだ!」
「商会の従業員達は路頭に迷わぬようにこちらで次の就職先を斡旋していきます。あなたの全ての保有している財産を直ちに差し押さえますわ」
「そんなことされたら明日からどうやって生活したらいいのですか?」
「鉱山には宿舎がありますし、食事付きですからご心配なく」
「まさか・・・・・・わたしをそんなところに行かせるのですか? それじゃぁ犯罪者じゃないか!」
「あなたは犯罪者ですよ。自覚がないのですか? 死の危険性のある毒物製品を国中にばらまいたのですよ。そうそう、セレーブさんには慰謝料と養育費を払ってくださいね」
「なぜ妻に慰謝料を払うのですか?」
「『お前の頭の悪い遺伝子が悪さをしたんだ』などと、セレーブさんを頻繁に責めたそうですね。子供達の前でそのように罵倒されて、精神的苦痛は計り知れませんよ。最低の夫です」
「だって本当のことじゃないか。看護師より天才科学者の息子のわたしの方がずっと上等な人間だ」
「看護師がいなければ医療現場は成り立ちません。現在のポールスランド伯爵領では、看護師の地位保証を以前より著しく向上させていますよ。より高給で待遇も改善しています。この世の中になくてはならない職業のひとつですからね。自分だって今、病院にいて看護師のお世話になっているではありませんか」
ポールスランド伯爵夫人の氷のように冷たい視線にそれ以上反論はできなかった。
鉱山に送られたわたしは犯罪者の働く区画に放り込まれた。ここに送られる前に一度だけ子供達に会った。
「お父様のせいで、私は学園の皆に白い目で見られて、散々悪口を言われたのよ。お父様の言う通りにしただけなのに・・・・・・お友達も皆いなくなっちゃった」
「お父様のせいで私とアンナはポールスランド学園に通えなくなりました。噂が瞬く間に広がり、恥ずかしくて外を歩くこともできません。みんなお父様のせいですからね! 私が試験問題の解答を自分から欲しがったわけじゃないのに、あんなものなくたってちゃんと勉強すればトップがとれていたのよ!」
娘達はわたしを嫌悪の表情を浮かべて睨み付けた。ジュエルはひたすら自分は不正なんかしたくてしたわけではないと強調していた。
(だったら、『自分で頑張りたいからもう試験問題は要らない』とわたしに言えば良かったじゃないか? あれほど喜んで試験問題の模範解答だけを暗記していたのに)
わたしは家族も金も名声も地位もなくした。今まさに目の前に広がる粉塵舞い立つ鉱山の作業現場だけがわたしの居場所になったのだった。
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