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42 ジュエル視点

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※ジュエル視点です。


 

 私はジュエル・エイキン。エイキン大商会の長女だ。私は生まれた時から苦労をしないで生きてきた。試験問題は1年生の頃から全部知らされていたし、お父様の部下達の子供は私の言いなりだった。

 模範解答付きの試験問題はいつも放課後の音楽室でこっそりと私に渡される。担任のレミントン先生は音楽教師で音楽室の鍵をいつも持っていたからよ。彼女レミントン先生の弟も私のお父様の部下だから、私のご機嫌を取るのに必死だった。

 もらった試験問題はお気に入りの子達に少しづつ教えてあげる。全部教えてあげないのは、もちろん私より良い点を取らせない為よ。お気に入りの度合いによって、試験問題を教えてあげる割合を変えていた。

 そうすると私のお気に入りのなかでも、私の機嫌をとるのを競い合うようになってすごく面白かった。私の機嫌を損ねると試験問題を教えてもらえる数が減らされるから、ますます私の言いなりになるのよ。

 誰も私に逆らえない。この世界の貴族のご令嬢より私は偉いと思う。だって女性は爵位を継げないけれど、商家の私は女性でも会長になれる。つまりこの私こそは女王なのよ。

 いつも成績はトップだし、学園以来の秀才なんてもてはやされるから、自分でもそのつもりになっていた。だって試験時間は50分なのに、最初の10分で全部の問題が完璧に解答できるほどの天才なんだから!

(グレイス様め。試験結果が出たら絶望に打ちひしがれるが良いわ。満点をいつもとれる私を舐めないことね)





 今日は試験当日よ。私はもちろん前日まで勉強を必死に・・・・・・あっははは! しているわけなんてないじゃない?
勉強なんてしなくても満点がとれるのに、わざわざ教科書なんて見るわけがない。

 グレイス様はいつものように朗らかな笑顔を浮かべて登校してきた。

「その素敵な笑顔が試験の結果で歪むなんて今からお気の毒でたまりませんわ。今なら謝ってくだされば許してあげましてよ?」

「私は許していただくような悪い事はひとつもしておりませんので謝りませんわ。素敵な笑顔とおっしゃってくださってありがとう」

「ほ、褒めているんじゃないわよっ」

 グレイス様は良い子ぶりっこで大嫌いよ。今だって私が喧嘩を仕掛けたのに、最後はにっこりと微笑んだ。

(なによ、いつも余裕の笑顔を浮かべてむかつくのよ)

「試験の結果が出たら、グレイス様とその班の方達は恥ずかしくて、顔をあげて学園内を歩けなくなりましてよ。異例の班をグレイス様が強引に作った事件は、今や全校生徒の知るところになっております。お可哀想に。きっと廊下を歩く度に嘲笑われて陰口を言われることになるのですわ。私はそれが今からとても楽しみですの」

「えぇ? そのようなことしかジュエルさんには楽しみがないのですか? とてもお気の毒だと思います。私の毎日はもっと楽しいですよ。大好きなポールスランド伯爵夫妻は大事にしてくださるし、コンスタンティン様は優しいです。エリザベッタちゃんとは大の仲良しですし、ヴェレリアお母様達はもうすぐ別荘に引っ越してきます。エレノーラさんやマリエルさんとは、ついこの間ポールスランド伯爵邸のゲストルームでパジャマパーティをして盛り上がりました。もちろんエリザベッタちゃんも入れて四人で、女の子同士のおしゃべりを夜遅くまで楽しんで・・・・・・」

「う、うるさいわね。自慢話なんて聞きたくないわよ。パジャマパーティですって? エレノーラさん達だけポールスランド伯爵邸に泊まらせたと言うの? なんて不公平なのよ。そんなに遊んでばっかりで試験の結果がますます楽しみだわ。私はね、寝る間も惜しんでお勉強していたのですよ! 他の班長達もそうよ。皆でエイキン邸に集まって勉強しかしなかったのですからねっ」

「まぁ、だったらお互いとても素晴らしい結果がでますわね」

 キラキラとしたグレイス様の瞳の奥にはなんの嫌味も感じ取れない。本当にそう思っているみたい。

 ポールスランド伯爵家の方々は貴族だけれど威張らなくて、温厚な人格者で優しいと評判だ。グレイス様も親戚だから性格がきっと似ているのね。お人好しの性格で騙されやすい残念な貴族なのよ。











「さぁ、始めてください。きっかり50分後に解答用紙を回収します」

 1限目の算数の試験。算数担当のイアン・ハーラン先生が試験問題を一人一人に配っていく。

(こんなの楽勝よ。さてっと・・・・・・ん? あら? えぇーー? なに、この問題? 初めて見るんだけど?)

 試験問題があらかじめ知らされていた問題とまるっきり違う。同じ問題がひとつもないのだ。

(どういうことなの? やばい、ひとつもわからない)

 わからない問題を飛ばしていたら、ついに最後の問題にまで行き着いてしまった。あのマヌケなレミントンめっ!
あいつがきっとヘマをしたに違いない。

 レミントン先生に対する怒りでどうにかなりそうな私だったけれど、とにかく記号で答えられる問題だけは勘で解答を記入した。

 イアン先生は厳しい顔付きで私達を見回っている。カンニングや不正ができないよう、生徒達の席のあいだをゆっくりと歩いている。

「こら、そこ。机の中に手を入れるのは止めなさい。君、班長の一人だろう? なにをやっている? カンニングを疑われるような行動はしないようにな」

「はい、すみません。ちょっと鼻水が出てしまって・・・・・・」

「わたしのハンカチを貸してあげよう。これ以降は机に手を入れたら点数はゼロだ」

 なんてばかなの。イアン先生は絶対に不正を許さない正義感の塊なのだ。おかしな行動をした子の点数はすぐにゼロ点にするので有名なのに。






 算数の試験が終わって休み時間になった。次は歴史の試験だけれど、その前にレミントン先生に文句を言わなければ気が済まない。

 職員室に走って行きレミントン先生を見つけ、手招きをして音楽室に急いで連れ込んで、一気に不満をぶつけてやった。

「全然問題が違うじゃないよ。おかしいでしょう? なにやってんのよっ。先生の弟が取締役からはずされてもいいの? これじゃぁ、グレイス様に負けてしまうわ。私の立場はどうなるのよ!」

「なにをそんなに騒いでいるのだい? 早く教室に戻りなさい。次の試験が始まるよ」

「ひっ、コンスタンティン様? なぜ、こちらに?」

「え? な、なんでコンスタンティン様が学園にいらっしゃるのですか?」

「さぁ、なぜだろうね? ジュエル君はさっさとクラスに戻り、きっちり最後まで試験を受けなさい。正々堂々とね」

 音楽室で話していた私とレミントン先生の前に、いきなり現れたコンスタンティン様にびっくりだ。まるで私達がそこに来るってわかっていたような表情が気になる。

 渋々教室に戻り残りの試験を次々と受けていくけれど、歴史でも理科でも語学の試験でも、見たこともない問題ばかりが並んでいる。
 
 レミントン先生担当の音楽の試験だけが教えられていたものとそっくり同じ。

(これだけは満点がとれそう。でも他のほとんどは・・・・・・)





 そうしてその数日後、試験結果の上位者は廊下に張り出され・・・・・・
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