可愛くない私に価値はないのでしょう?

青空一夏

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29-3 デリク視点

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「あなたの名前を教えてください」

「デリク君。勝手に妹達に話しかけるのはやめてもらおう。母上をメイド呼ばわりしムチを打てなど、本来ならば格上の貴族に対する暴言として厳重にフィントン男爵家に抗議をする事件だが、君の頬の痛みと引き換えに今回は水に流してあげますよ。思いっきり殴ったから前歯が少し折れたかもね」

 あの少女に話しかけた俺をコンスタンティン様が不愉快そうに見つめる。妹を守ろうとする気持ちはわかるけれど、過保護すぎだぞ。3人とも屋敷に入ってしまい、前歯が2本欠けた俺はその場に立ち尽くしてため息を吐いた。

 





 馬車に乗り込みさっきの女の子について考えていた。なかなか綺麗だし伯爵令嬢という身分も気に入った。

 俺も姉上の真似をして花を贈ろうと思う。アンスリウムなんか良いよな。花言葉は『恋にもだえる心』だ。あの子が俺への恋心を募らせてそんな感じになってくれるといいな。

 もしあの子が手に入ったらベリンダは愛人にしよう。どうせベリンダは平民だから正妻にしなくてもいいはずだ。

(伯爵令嬢と結婚できたら最高だよ。姉上はコンスタンティン様と結婚して俺はその妹と結婚する。すごくバランスが良い)

「ふっ、あっは! あーはっはっはっは」

 高笑いをしていたら馬車がどんどん速度を早めていき、そのままポールスランド伯爵家の人工池に突っ込んだ。

「なにをやっているんだよぉ! お前はクビだぞ」

「すみません。馬がなにかにびっくりしたようでして」

 御者を怒鳴りつけふと馬を見れば、その頭にはたくさんのネズミが乗っていた。なんで最近はネズミばかりに酷い目に遭わされるんだよ? 

 池にはまり込んだ斜めに傾いた馬車の扉が開き、俺はそのまま池の中に落ちてしまう。池に住み着いているガマガエルがぴょんと頭に飛び乗り、ゲロゲロと鳴きながらイボから白い液体を出した。

「うわっ、なんだよ? なんかおかしなものを俺に振りかけやがった」

 白い液体が目に入って恐ろしいほどの痛さに叫ぶ。急いで池の水で目を洗っていると、ランスロットが呆れ顔でやって来た。

「池の周りに植えた花達が台無しですよ。損害賠償金をフィントン男爵家に請求させていただきますからね。池で泳いでいた魚も寛いでいたカエルも相当びっくりしたことでしょう」

「なんでだよ? いずれ姉上の屋敷になるんだから細かいことを言うなよ!」

「コンスタンティン様に殴られたのにまだ目が覚めないのですか?」

「俺が殴られるところを見ていたのなら止めろよ。俺はお前が長年使えていたフィントン男爵家を継ぐのだぞ」

「確かに長年使えてはおりましたが、今では何の関係もありませんから、止める理由なんてありませんね」

「恩知らずめ! いつかバチが当たるよ」

 ランスロットがこれほど薄情だとは思わなかった。長年仕えてきたフィントン男爵家を蔑ろにするなんて人でなしだよ。

「そこの君、ガマガエルには毒があるからね。その白い液体、もしかして目に入った? 大変だ、早く医者に診せた方がいいですよ。最悪、失明するかもしれません」

「ひっ! 失明? 大丈夫だ、目は見えている」

 心配そうにこちらを見ている男に見覚えがあったけれど、思い出すことができなかった。

「本当にその目は見えているのですか?」

 ランスロットの嫌味な言葉に腹を立てながらも俺はその場を去ったのだった。
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