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21-3 リネータ視点

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※引き続きリネータsideです。

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 中の便せんにも王家の紋章が透けて入っていて、ふわりと百合の香りがした。白百合は王家の紋章にも使われているウエストモアランド王国の象徴ともされる高貴な花だ。

 白百合の花言葉は「純潔」や「威厳」。王家にピッタリだと思われているけれど、あの方達自体が高貴なわけじゃない。たまたま王家に生まれた運の良い人達ってだけよ。

 手紙の差出人はもちろん国王陛下で、内容は・・・・・・なんてことなの……全然わからない。とても難しい言い回しが多すぎる。お父様も匙を投げてランスロットを呼び出した。

「この手紙はなんて書いてあるのだ。なぜ王家に仕える宮中伯の方達はこんな普段使わない言葉を駆使する? わざとだろう? コンスタンティン様と婚約するにはなんと書いてあるのだ?  途中で出てくる貴族法35条と94条2項ってなんだよ?  わけわからん。法律の条文を引き合いに出されても、わたしは法律家じゃないんだぞ」

「では、ちょっと読ませていただき、ご説明しますので少々お待ちください」

(ランスロットに頼るのは癪だけれど仕方がないわ)

「なるほど、コンスタンティン様はとても王家にとって重要人物なのですよ。もしコンスタンティン様と同じような影響力を持つ大貴族の令嬢と結婚すれば、王家を凌ぐ財力と権力が集中します。大貴族の婚約や婚姻は王家にとっても脅威になりますからね」

「確かにポールスランド伯爵領はとても豊かで、領土も広いわ。でもただの伯爵家じゃないの?」

「筆頭伯爵家です。限りなく侯爵に近く、財力とお抱えの精鋭騎士達はそのへんの侯爵家よりは上でしょう。さらにお祖父様の存在があります。ウォルフェンデン侯爵家の唯一の大事な跡取り孫ですからね。この国で1,2位を争うほどの栄えた地の領主となる方です」

「ウォルフェンデン侯爵家ってあの名門よね? 海に面していて諸外国との貿易を盛んにしていて、とても儲かっている一族だって聞いたことがあるわ」

「そうです。あの一族の総領ウォルフェンデン侯爵の孫がコンスタンティン様です。だから、王家はコンスタンティン様を抱き込みたいのでしょう。そして、あまり家柄や財力のある貴族の令嬢との婚姻は認めたくない、そんなところでしょうね」

「え! どうしよう? お父様。フィントン男爵家は相当に高貴な家柄でしょう? お父様はいつもおっしゃっていたわ。うちは実際はもっと上の爵位が望める尊い血筋だったのにって」

「・・・・・・お嬢様、フィントン男爵家なら王家は脅威は感じませんからその点は大丈夫ですよ」

 呆れたように私を見てため息をつく。

(なんでよ? フィントン男爵家のことバカにしているの? ここで雇われているくせに)

「あぁ、それから王太子殿下の親友でもあるそうです。なので王太子殿下が戴冠なされた暁には、コンスタンティン様に国の舵取りも任せたいとの考えもあり、コンスタンティン様の結婚相手になる女性は王家が認める者である必要がある、と書いてあります。わかりやすく言えば、『王家の許可が必要なのでコンスタンティン様と婚約したいのならば王都に来て国王陛下から許可をもらえ』とそう書いてあるわけですよ」

「なぁーーんだ、そんな簡単なことを長々と書いてあったわけね。ばっかみたい。でも私ってすごい玉の輿よね? これでランスロットの大嘘がばれたわね? だってコンスタンティン様が私を妻にしたいと国王陛下におっしゃったから、このような話しになっているのでしょう?」

「さぁ、どうでしょうね。わたしも歳ですからそろそろ退職しようと思っておりますよ。年々ここにいるのがきつくなってきましたからね」

 ランスロットの愚痴に私は満面の笑みで頷いた。

「そうよ、もうランスロットは必要ないわ。お祖父様の代は終わったし、身の程知らずな発言が多いし、私達への小言もうんざりよ。もうここから出て行っていいのよ。お疲れ様。退職金はないけど。だってお祖父様からたくさんお給料をもらっていたでしょう?」

「あぁ、そろそろそんなことを言われる時期だと思いました。先代様にはすっかりお世話になり心から仕えてまいりましたが、このあたりで潮時でしょうね。退職金はいただかなくとも構いません。先代には大きな恩がございましたからね」

 感慨深げにそう言って涙ぐんだ。

「お前がいない方が金のことをいつも文句言われずに済むわい。さぁ、そうと決まったら荷物をまとめてさっさと出て行け!」

 お父様もこのランスロットが嫌いだったみたい。

(あっはは! 散々私を虐めた罰よ。ランスロットがいない方が伸び伸び生活できるわ)

 早速王宮に行くのに必要なドレスを新調しに行こう! 手紙には王都に来ることができる日時を連絡してから来るように書いてあったから、ドレスが新調できたら行けば良いと思う。精一杯おめかししなければいけないわ。







「通常料金の3倍お金払うから急いでドレスを仕立てなさい。私のドレスだけに専念してよ。お金はいくらかかってもいいんだから。あと舞踏会のドレスもお願い。社交界デビューだから純白のドレスだけど、誰よりも目立つ必要があるの」

 翌日、フィントン男爵家のサロンに仕立て屋を呼びつけて脅すように作るのを急かせた。ここにはお父様もお母様もデリクもいる。皆、私を応援してくれるの。家族って有り難いわね!

(私はきっと宰相夫人になれるんだ。この国のお金を自由に動かせる大物の妻になるんだから、王家の人もびっくりするぐらい豪華なドレスで行ってやる)

「どうせならお母様もドレスを新調したらいかがですか? 国王陛下に謁見することができるのですよ」

「そうね、国王陛下にお目通りできるのですから、手持ちのドレスでは不敬というものです。新しくこの為だけに作るべきね」

 お母様も顔をほころばせて熱心に頷いた。

「ならばわたしも服を新調しよう。一家で王都に行き、国王陛下に謁見しよう。人生で最高の瞬間になるぞ」

「でしたら僕も新しい服が欲しいです。馬車も購入したら良いですよ。ウォルフェンデン侯爵家の姻戚になるなら、きっと子爵ぐらいにしてもらえるかもしれません。いや伯爵ぐらいにはなりたいなぁ」

 夢が膨らむ。弟のデリクはベリンダの家族を屋敷に呼んで、一緒に私の婚約の前祝いをしたいと言い出した。あの一家は平民だけれど、とても私達と気が合うから大賛成だわ。

 うるさく生活態度を改めろとか、おかしな言動は慎めとか、注意してくるランスロットは追い出した。

(なんて天国なの! 私達はやっと自由を手に入れたのよ)
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