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ハチャメチャな裁判その1(マイロ男爵視点)

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 ぐはっ! なぜ、ここにこんな奴が飛び込んでくるのだ? 

「だ、誰だ? 貴様など知らんぞ!」

 私は、アーロンを思いっきり無視した。汽車賃をやったし、旨いステーキも食わせてやった。なんの不足があると言うんだ? 

「嫌だなぁーー。お義父様は僕をお婿さんにするとおっしゃいましたよねぇ? あぁ、イザベラ! 今日も綺麗だね」

 こいつは、こんな所まで来て・・・・・・頼むから帰ってくれ!

「こいつは、ここに呼ばれていないはずだ。部外者は出ていってもらおう」

 私がそう言うと、アーロンは書類は裁判官になにやら提出している。婚姻承諾書だと? こんなものを書いた覚えは全然ないぞ!

「あぁ、このような書類をお持ちなのであれば参加を許可します。あとで筆跡鑑定の専門家も来ますから。それと、他に専門家が2人来ますから、事実は徐々に明らかにされていくでしょう」

 なんで、そんなに専門家を呼んだんだ? 私は、メーガン・ワトソン前伯爵夫人を睨み付けた。小癪な! この女狐ばばぁの仕業か!

「と、とにかく、私はこの男性を知りません! 見たこともないわ。この書類は偽造です! 全部、ジェネシスが仕組んだことだわ! そうに決まっているわ」

 イザベラは、流石だ。こんな時でも、きっちり反論ができる。そこへ、専門家と名乗る男達がどやどやと、3人も入ってきやがった。しかもだ、その二人は同業者じゃないか! 医者仲間の交流会で見かけたことが数回あったな。専門は違うが・・・・・・なぜこんな所に呼ばれたんだ?

 まずは筆跡鑑定家が、その婚姻承諾書と離婚届と私達が先ほど受付で書いた名前と住所を交互に見比べた。カバンから大きなルーペも取り出して詳細に調べ始めた。

 それを待っている間に、アーシャ様とジェネシスとイザベラの唾液を医者の一人が採取する。それを大事そうに持って別室に消えていった。一体、なにが始まるんだ?

「さてと、いろいろな準備が整いつつあるようです。筆跡鑑定家の先生の結論からお聞かせください」

 筆跡鑑定家は、一致しました、とだけ言い席を立ち帰ろうとしている。

「おい、待て! 書いた覚えのないものだ! いい加減なことを言うな」

 叫ぶ私に、鑑定家はおよそなんの感情も籠もっていないと思われる声でこう言った。

「私は、貴方達がこれを書いたとは言っていません。その婚姻承諾書の3枚の紙に記されているお三方のサインがその受付でのサインと同じだと言っただけです。その離婚届けに書いてあるイザベラさんのサインと証人欄のご両親のサインもその婚姻承諾書と完璧に一致しています。その事実だけを言っているだけです。貴方がそれを書いた覚えがあろうとなかろうと事実は一つだ。完璧に一致でした! 」

 
くそっ! なんてことだ! いったい、どうしたらいいんだ!

「お義父様、観念してくださいよ。あの病院は私がしっかりと繁盛させますからぁ」

「いや、これは、なにかの間違いだ。私はその男には今初めて会った」

「あぁー冷たいなぁ。裁判官。警察の方が証言してくれるでしょう。マイロ男爵家に泥棒が入った時に私もそこにいましたから。イザベラは、私のことを『もうすぐ、ダーリンになる』と言っていましたから」

 あぁ、しまった。そう言えば警察も来てこの男を見ていたんだった・・・・・・はぁーー、万事休すか?

「そうですか? 警察の方もみているのなら話は早いですね。早速、問い合わせて・・・・・・」

「あ? あぁーー。裁判官。このアーロンは、えっと、記憶にあります・・・・・・」

「先ほど、貴方は初めて会ったと言いましたよね? 記憶喪失か、認知症でしたら、まずは病院に行っていただきたいですね。裁判所で、いい加減なことばかり言っていると偽証罪になりますからね。こんなに証言がぶれる原告は、初めてだわ」

 眼鏡の奥から鋭い視線で睨まれた。あぁ、こんなはずじゃぁなかったのに・・・・・・

「この婚姻承諾書と離婚届と受付でのサインの一致で、これは偽造ではなく本物と認めました。離婚は成立しています」


 むぅ。だったら、あぁーそうだ。慰謝料でなにかいちゃもんをつけるしかないのか?

「あぁ、話は変わるが、アーシャ様は子種がないでしょう? それで妊娠できなかったイザベラは可哀想ではありませんか? 慰謝料の対象になるはずだ」

 私は、アーシャ様を指さして責め立てた。イザベラが伯爵夫人に居座れないなら慰謝料をたくさん貰ってやるぞ!

「あぁ、その点は私が見解を述べさせてもらいます。これが検査結果です。あらかじめ、アーシャ様には精子の検査を受けてもらっておりまして、子種はありますな。正常な生殖能力が充分に備わっておりました!」

 そうして、その医者の男も帰ろうとした。くそっ! 同業者のよしみで、庇ってやろうという気持ちがないのか? なんと、冷たい奴だ!

 そう思い舌打ちした瞬間、裁判官が余計なことに気がついたのだった。

「この婚姻承諾書は離婚届の前日の日付になっていますね? この男性と結婚することが決まってから離婚届けを書いたのですね? これは、その男性とイザベラさんがずっと不貞行為をしていたということですか?」

 うわぁーー!! なぜ、そうなるんだぁ!!
   






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