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2 (妹視点) 

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 幼い頃から私は天使のように美しいと言われてきて、両親も侍女達も私を大事にしてきた。私は鏡を見るたびに、自分の美貌に時間を忘れるくらい見惚れてしまう。

「カエラ、家庭教師の先生がいらっしゃるわよ。早く来なさいって」

 お姉様が、私の部屋をノックする。

「うるさいわねぇ! 勉強なんて冴えない女がするものでしょう? 私にはきっと『白馬に乗った王子様』が用意されているはずだから、必要ないわ」

 私は、ブラウンの髪と瞳の地味な風貌の姉に言う。

「お姉様は……ふふふ、しっかりお勉強したほうがいいわ。だってありふれたそのような容姿ではせめて頭でも磨かないと、私の十分の一も幸せになれないわ」

 侮辱されたお姉様は傷ついた表情をしたけれど、言い返す度胸もない。意気地なしの弱虫め! そのまま、なにも言わずに一人で家庭教師の先生から講義を受けていた。

「カエラ! 貴女はまた家庭教師の先生の授業をサボったのね?」

 「お母様! 私だってお姉様のように元気であればいくらでも勉強しますわ。ですが、目眩と吐き気がしてとても授業を受けることなんて無理でした」

 心臓のあたりを右手で押さえ、眉根に皺をよせて苦しいふりをしてみる。

 私を責めたお母様は、私が少し病弱なふりをしただけですぐに同情してくれた。

「かわいそうに……美人薄命とはカエラのことかもしれないわ……これほど美しく産まれてきたから、きっと長くは生きられないかも……いいのよ……寝ていなさい。好きなことだけをしていればいいわ」

 ぷっ。お母様ってば、ばっかみたい! 美人薄命なんて物語のなかのことだけよ。それでも私は弱々しくうなづいて、くだらない勉強なんてしないで済んだ。

 一方、お姉様を見れば、

「キャンディスは平凡な容姿だから、しっかりとお勉強しなさい。マナーもきっちり学んで、お行儀も良くしないと人から笑われますよ!」

 等と言われて、しごかれていた。綺麗に産まれて良かったわ、あっはは!





❦ஐ*:.٭ ٭:.*ஐೄ❦ஐ*:.٭ ٭:.*ஐೄ


 キーホ伯爵家の屋敷ではそれで済んだけれど、学園ではお姉様ばかりがいい思いをすることになった。

 貴族の子女は14歳から3年間は貴族学園に通う決まりになっていたのだ。

 お姉様が2年生になり、私もその学園に1年生として通いはじめた。




「カエラ様は、ほんとうにあのキャンディス様の妹ですか? 少しはお姉様を見習いなさい!」

「お姉様は学園きっての秀才ですのに……カエラ様ときたら宿題も提出しない怠け者ですね」

 どの教師も私に酷い言葉を浴びせ、お姉様をべた褒めした。こんなに美しい私を虐めたことを、いつか後悔させてやるんだからっ!

「カエラにはカエラの才能があると思いますから、私と比較するのはやめてあげてください」

 困ったような顔をしながら教師達にそう言うお姉様が憎たらしかった。

「なによ? ほんとうは、『ふん! ざまぁみろ! いい気味だわ』って思っているくせに。良い子ぶったこといわないでよ」

 私はお姉様に、教師達に聞こえない声でささやいたのだった。



❦ஐ*:.٭ ٭:.*ஐೄ❦ஐ*:.٭ ٭:.*ஐೄ



 私と同じクラスにはアーサック・カボンという男爵家の次男がいて、アーサックは皆にバカにされていた。だらしくなく太って運動も勉強もできず、なにをやらしても最下位の彼はなんと姉に憧れていると言った。

「ねぇ、君ってあの優しいキャンディス様の妹だろう? この前の雨が降った日に、目の前で転んだ僕にハンカチを貸してくれたんだ。これ、綺麗に洗ったんだけど渡しておいてもらえるかな?」

「はぁ? 自分で返せばいいじゃない」

「え? そんなこと恥ずかしくてできないよ。あんな素敵な女性に話し掛けるなんてできないもの……」

「はぁーー? 素敵ですって? あのお姉様のどこが素敵なのよ?」

「それは、誰にも平等に優しいし、いつも図書館で勉強して努力家で……いいところばかりじゃないか?」

「ふーーん。こんなところにもファンがいるとはねぇ。だったらお姉様と付き合えるように、私が協力してあげるわよ」




 

 私はこのアーサックをうまくおだてて、お姉様に楽しい思いをさせてあげようと思う。さて、どんな作戦をたてようかなぁーーと、独り言を言いながら屋敷の庭園に座り込んで考えていた。

 あのお姉様が不幸になるならいい気味だ。私がじっと考えていると、侍女姿の人影が近づいてきた。

「なにか仕掛けるのなら、相手には信用される態度をとらないといけませんよ」

 それだけを独り言のように言ってそのまま通り過ぎた。

「そうね……もうお姉様に嫌味は言わないし、仲良し姉妹の振りをするわ。ふっ、あっはははは!」


❦ஐ*:.٭ ٭:.*ஐೄ❦ஐ*:.٭ ٭:.*ஐೄ


 翌朝、食堂に来たお姉様にすり寄って、


「お姉様! 昨日はごめんなさい。あの教師達の言うとおりだわ。私、ちょっとサボりすぎたと思う。これからは、いろいろ教えてほしいわ」

 私はそう言いながら、思いっきり上目遣いにお姉様を見つめて、天使の微笑みを作った。

「もちろんよ! 一緒にお勉強しましょう。なんでも、聞いてちょうだい。カエラはやればできる子だもの! 私よりもずっとできるようになると思うわ」

ーーふん! 上から目線でいわないでよ、むかつくわ。そういうところが大っ嫌いなのよ!


「ありがとう! お姉様は優しいのね。そういうところが大好き!」 

 私は心の声を封印してお姉様に抱きついたのだった。
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