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12 なんとなくわかっていたかも(シルヴェスター視点)・(クリスタル王太后視点)

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(シルヴェスター視点)

 リリィに会ったばかりの頃のわたしは、リリィの母親は身分の低い女性なのだろうと思っていた。だが、次第に彼女を見ているうちに疑問を感じ始める。身に備わっている風格や美しい所作には明らかに高貴な血筋を感じたのだ。

 だが、母親のことを言いたがらないのでこちらも黙っていた。きっとなにか理由があるはずだと思う。

 母上とロレインを助け出してからは、アニタ達と協力して一緒に看病してくれる優しい彼女にますます心が惹かれた。

 わたしは彼女が何者であっても妻に迎えるつもりだ。例え、奴隷の子であろうともだ。だが、それはあり得ないと思う。彼女の母親はきっと身分の高い女性に違いないのだ。

 しかし、あの髪色だけが不思議だった。

 だから、大魔女様のあの言葉に納得した。
「ふむ。・・・・・・おや、まぁ。この髪は偽物だねぇ。魔法使いの呪いの染料を浴びせられたか。今すぐ呪いを解いてあげよう」
 そう大魔女様がおっしゃったのだ。

 ”呪いの染料”は聞いたことのある言葉で、それに染まった物は決して本来の色には戻らず、髪ならば新たに生えてくる毛までもその色に染めてしまう効力がある。

 大魔女様の呪文で艶やかな金髪に戻ったリリィは頬にも赤みが差し、今までの数千倍も綺麗になった。これが本来の姿なのか・・・・・・納得したし、グラディス王女と名乗れなかったのは自分のせいかもと反省もした。

 初対面の時に確かグラディス王女を悪く言った記憶があるし・・・・・・なんというか出だしから失敗したな、と思う。・・・・・・あとでたくさん謝らなければいけない。




 しかし、”呪いの染料”なんて誰にかけられたのだ? ドビ王か? 後でリリィに詳しく聞いて、そのようなことをした奴は・・・・・・絶対に許さない!






(クリスタル王太后視点)

 リリィは私の側にいつも付き添ってくれてなにかと優しい言葉をかけてくれる。ロレインにも心から敬って接してくれた。この謙虚さと、立ち居振る舞い、ちょっとした言葉や仕草にただの愛妾の子ではないという確信がある。

 私もかつてはこの国の王妃だった。王妃しか知り得ない国の事情や機密はどこにでもある。私はそのあたりに触れるすれすれの話題をリリィに振ってみる。するとリリィは、とても鮮やかにその話題をそらせたのだ。

 さりげなく国家機密から遠ざけようとする手法は見事で、どこの王妃もやることだがリリィのしたことは、賢く思慮深い統治者が他国との外交でするようなワンランク上の鮮やかさだった。つまりその対応が出来ると言うことは、将来国を守るべき立場として、賢い統治者に育てられてきたことを意味する。

 バイミラー王国は王妃が政治を動かしていたのは有名な話だ。とすれば、デスティニー王妃の愛娘グラディス王女がリリィの正体。

(でも、髪色が・・・・・・これにはきっと訳があるわね。リリィが話してくれるまではなにも言うまい。それに彼女が何者であってもかまわないのよ。リリィには正妃になる資質があるし、シルヴェスターと良い感じなのだもの)


 だから大魔女様の言葉で、すぐに理解した。”呪いの染料”が原因だったのね? そんなものをかけられて敵国に送り込まれて可哀想に。
 私達に話せなかったのはきっとバイミラー王国のドビ国王に『本当のことを話すな』と脅されたに違いないわ。

(愚かなドビ王め! 許さないわよ!)
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