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2 冷たそうな方ね (グラディス視点)/ どうせ偽物が来たのだろう? シルヴェスター・ムーアクラフト王視点
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いよいよムーアクラフト王国に向かう日、
「もしホイットニーの身代わりだとバレたらきっと殺されるだろうから、あちらの国王とあまり話すなよ」
お父様は無表情でおっしゃった。私が殺されることなどお父様にとってはどうでもいいことのようだ。私はどうなってしまうの?
私はたくさんの衣装と嫁入り道具を持たされた。私がとても国王陛下から愛されているホイットニー王女だという証明になるからだ。けれど持たされた衣装はマミ様が選んだどぎつい色のドレスばかりで、実際に着たいと思うものはひとつもなかった。
ネズミ色に染まった髪は色がところどころ抜けてまだらになっており、かつての艶やかな金髪の名残は少しもない。碧眼の瞳は誤魔化せないので、なるべく下を向いているように言われた。ホイットニーの瞳は黒。絶対にバレてしまいそうだが、誰もそこは気にしない。
(ずさんな替え玉作戦よね。お父様はやはり愚かだわ)
そうは思うけれど、もちろん口にすることはなかった。
ムーアクラフト王国に到着して馬車の扉が開けられ、金髪にゴールドの瞳の美丈夫が私に手を差し出す。
「ようこそ、ムーアクラフト王国にいらっしゃいましたね。わたしがムーアクラフト王です。遠い道のりをお疲れでしょう」
言葉は丁寧だけれどその無表情な顔付きに、本当の意味での歓迎の色は見られない。
(敵国の人質だもの。歓迎されるわけないわね))
私は顔を伏せてなるべく瞳を見られないようにした。ネズミ色髪の私がこのムーアクラフト王にどんな印象をあたえるのかビクビクする。
金髪に碧眼が好まれるこの世界で、ネズミ色の髪などあり得ないと思う。
(シルヴェスター・ムーアクラフト王視点)
バイミラー王国はかつては賢く美しい王妃が支配する常識的な国だった。ところがその王妃が亡くなると、愚王が支配し娼婦のような側妃が正妃になりやりたい放題だ。
ムーアクラフト王国領の海域で漁をしたり、国境を平気で無視し我が国に甚大な損害をもたらす。とても放置しておけないし、そんな愚かな国はお仕置きが必要だ。だが、戦争中にあちらが停戦提案を申しで、一方的に王女を差し出すと言ってきた。妃として迎えるつもりなど毛頭ない。わたしはあの国を我が領地に取り込みたいのだ。あんな愚王に治められる民が可哀想ではないか。
やって来たのは愚王の愛娘で、側妃だった下品な女の産んだホイットニー王女だ。顔立ちはうつむいておりよく見えないが、色あせた灰色の髪には驚いた。どこかおどおどしており、王女らしいところなどひとつもないぞ。
(ははぁーーん。こいつは王女でもない身分の低い女を、王女に仕立ててこちらに寄越したな。すぐに化けの皮などはがれるのに)
わたしはとりあえず歓迎の言葉を投げかけた。女は返事もせず頷くだけだ。まさか話せない女でも送ってきたのか? ムーアクラフト王国もコケにされたものだ!
「まずはホイットニー王女殿下のお部屋にご案内しますよ。ところで、夕食をご一緒するのに苦手な食材はありますか? なるべくならあなたの好きな食べ物を用意させたい」
最初はムーアクラフト語で、最後の言葉は王族が必ず学ぶ公用語で話しかけた。
(多分まただんまりだろうな。教養もない低位貴族の娘が王女のふりなどできまい)
「お気遣いをいただきありがとうございます。こうしてムーアクラフト国王陛下が直々にお出迎えいただいたことを光栄に思っております。苦手なものは辛いお料理ですけれど、こちらのものはかなり香辛料がきいたお料理でしたね? ですから、頑張って私がこちらのお料理に慣れていくように努力していきたいと存じます」
前半は完璧なムーアクラフト語で、後半は流ちょうな公用語で締めくくった。
「え? この女は本当に王女なのか?」
「もしホイットニーの身代わりだとバレたらきっと殺されるだろうから、あちらの国王とあまり話すなよ」
お父様は無表情でおっしゃった。私が殺されることなどお父様にとってはどうでもいいことのようだ。私はどうなってしまうの?
私はたくさんの衣装と嫁入り道具を持たされた。私がとても国王陛下から愛されているホイットニー王女だという証明になるからだ。けれど持たされた衣装はマミ様が選んだどぎつい色のドレスばかりで、実際に着たいと思うものはひとつもなかった。
ネズミ色に染まった髪は色がところどころ抜けてまだらになっており、かつての艶やかな金髪の名残は少しもない。碧眼の瞳は誤魔化せないので、なるべく下を向いているように言われた。ホイットニーの瞳は黒。絶対にバレてしまいそうだが、誰もそこは気にしない。
(ずさんな替え玉作戦よね。お父様はやはり愚かだわ)
そうは思うけれど、もちろん口にすることはなかった。
ムーアクラフト王国に到着して馬車の扉が開けられ、金髪にゴールドの瞳の美丈夫が私に手を差し出す。
「ようこそ、ムーアクラフト王国にいらっしゃいましたね。わたしがムーアクラフト王です。遠い道のりをお疲れでしょう」
言葉は丁寧だけれどその無表情な顔付きに、本当の意味での歓迎の色は見られない。
(敵国の人質だもの。歓迎されるわけないわね))
私は顔を伏せてなるべく瞳を見られないようにした。ネズミ色髪の私がこのムーアクラフト王にどんな印象をあたえるのかビクビクする。
金髪に碧眼が好まれるこの世界で、ネズミ色の髪などあり得ないと思う。
(シルヴェスター・ムーアクラフト王視点)
バイミラー王国はかつては賢く美しい王妃が支配する常識的な国だった。ところがその王妃が亡くなると、愚王が支配し娼婦のような側妃が正妃になりやりたい放題だ。
ムーアクラフト王国領の海域で漁をしたり、国境を平気で無視し我が国に甚大な損害をもたらす。とても放置しておけないし、そんな愚かな国はお仕置きが必要だ。だが、戦争中にあちらが停戦提案を申しで、一方的に王女を差し出すと言ってきた。妃として迎えるつもりなど毛頭ない。わたしはあの国を我が領地に取り込みたいのだ。あんな愚王に治められる民が可哀想ではないか。
やって来たのは愚王の愛娘で、側妃だった下品な女の産んだホイットニー王女だ。顔立ちはうつむいておりよく見えないが、色あせた灰色の髪には驚いた。どこかおどおどしており、王女らしいところなどひとつもないぞ。
(ははぁーーん。こいつは王女でもない身分の低い女を、王女に仕立ててこちらに寄越したな。すぐに化けの皮などはがれるのに)
わたしはとりあえず歓迎の言葉を投げかけた。女は返事もせず頷くだけだ。まさか話せない女でも送ってきたのか? ムーアクラフト王国もコケにされたものだ!
「まずはホイットニー王女殿下のお部屋にご案内しますよ。ところで、夕食をご一緒するのに苦手な食材はありますか? なるべくならあなたの好きな食べ物を用意させたい」
最初はムーアクラフト語で、最後の言葉は王族が必ず学ぶ公用語で話しかけた。
(多分まただんまりだろうな。教養もない低位貴族の娘が王女のふりなどできまい)
「お気遣いをいただきありがとうございます。こうしてムーアクラフト国王陛下が直々にお出迎えいただいたことを光栄に思っております。苦手なものは辛いお料理ですけれど、こちらのものはかなり香辛料がきいたお料理でしたね? ですから、頑張って私がこちらのお料理に慣れていくように努力していきたいと存じます」
前半は完璧なムーアクラフト語で、後半は流ちょうな公用語で締めくくった。
「え? この女は本当に王女なのか?」
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