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24 ラインの母親
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「母上は絵や彫刻に没頭すると、部屋に閉じこもって食事も忘れるほどだった。父上は若き芸術家であった母上に一目惚れをし、かなりしつこく迫った末にプロポーズしたそうだよ」
アリッサはラインの母親が芸術家であることを初めて知った。前ワイマーク伯爵の恋の物語にも心を奪われた。
「なるほど、とてもロマンチックね。ライン様のお父様は、芸術家のお母様をどのように口説いたのかしら? きっと、お母様は素敵な方だったのでしょうね」
「素敵……というより、少し変わったところがあるかもしれない。作品を製作し始めると、集中しすぎて他のことが目に入らなくなるんだよ。ただ、私や父上のことは愛してくれたと思う。アーティストネームはリサベス・アートリアさ」
「え? あのリサベス巨匠なの? 彼女の絵画や彫刻は独特の世界観を持ち、貴族たちや裕福層から絶大な人気を誇っているわ。まさかリサベス・アーストリアが結婚していたなんて知らなかった。そのうえ、ライン様のお母様だったとは驚きだわ」
芸術を極める女性は独身が多かったため、アリッサはリサベス巨匠も独身であると当然のように思い込んでいた。貴族夫人が趣味で絵を描くことは珍しくないが、ここまで大成した女性が貴族夫人であったことには驚きを禁じ得なかった。
「母上はプライベートなことを秘密にしていたからね。『謎に包まれた芸術家』などと称されて笑っていたよ」
「確かに、リサベス巨匠に関して公表されているのは女性であるという事実だけだったわね。年齢や出身地も明かされていなかったから、皆さまざまな憶測をしていたわ」
「そうなんだよ。すごく年寄りだと噂されたときは、プンプンと怒っていたよ」
「女性に年齢の話題は御法度ですのよ。そもそも芸術家の年齢って知る必要があるのかしら? 作品が素晴らしければ、いくつの方が描こうと関係ないと思いますわ」
ラインもアリッサに同意する。このようにして、アリッサはラインの母親がリサベス・アーストリアであることを知ったのだが……実際のところ、アリッサはリサベスの作品に、抽象的で不安をかきたてるような印象しか持っていなかった。リサベスの作品は、花々が人間の体から生えている女性像や、動物と人間が一体化した形の彫刻など、自然の美しさと人間の精神を融合させた作品が特徴だった。
リサベスの作品は美しいが、見方や角度によっては醜かったり恐ろしかったり、不思議な感情になる。幼い頃のアリッサはそれが怖くて、リサベスの作品を直視できないことがあった。
しかし、アリッサが幼い頃からその名前は有名であった。リサベスの作品は貴族のサロンや王宮の一角を飾り、実際ギャロウェイ伯爵家のサロンにもリサベスの絵が飾られていた。リサベスの絵画や彫刻を持っていることは貴族にとって当然であり、ステータスのひとつになっていたのだった。
(作品は苦手だけれど、実際お会いしたらどんな感じなのかしら? いろいろお話しを伺ってみたいわ)
アリッサはまだ会ったことがない高名な芸術家リサベスについて、あれこれと想像してみるのだった。
アリッサはラインの母親が芸術家であることを初めて知った。前ワイマーク伯爵の恋の物語にも心を奪われた。
「なるほど、とてもロマンチックね。ライン様のお父様は、芸術家のお母様をどのように口説いたのかしら? きっと、お母様は素敵な方だったのでしょうね」
「素敵……というより、少し変わったところがあるかもしれない。作品を製作し始めると、集中しすぎて他のことが目に入らなくなるんだよ。ただ、私や父上のことは愛してくれたと思う。アーティストネームはリサベス・アートリアさ」
「え? あのリサベス巨匠なの? 彼女の絵画や彫刻は独特の世界観を持ち、貴族たちや裕福層から絶大な人気を誇っているわ。まさかリサベス・アーストリアが結婚していたなんて知らなかった。そのうえ、ライン様のお母様だったとは驚きだわ」
芸術を極める女性は独身が多かったため、アリッサはリサベス巨匠も独身であると当然のように思い込んでいた。貴族夫人が趣味で絵を描くことは珍しくないが、ここまで大成した女性が貴族夫人であったことには驚きを禁じ得なかった。
「母上はプライベートなことを秘密にしていたからね。『謎に包まれた芸術家』などと称されて笑っていたよ」
「確かに、リサベス巨匠に関して公表されているのは女性であるという事実だけだったわね。年齢や出身地も明かされていなかったから、皆さまざまな憶測をしていたわ」
「そうなんだよ。すごく年寄りだと噂されたときは、プンプンと怒っていたよ」
「女性に年齢の話題は御法度ですのよ。そもそも芸術家の年齢って知る必要があるのかしら? 作品が素晴らしければ、いくつの方が描こうと関係ないと思いますわ」
ラインもアリッサに同意する。このようにして、アリッサはラインの母親がリサベス・アーストリアであることを知ったのだが……実際のところ、アリッサはリサベスの作品に、抽象的で不安をかきたてるような印象しか持っていなかった。リサベスの作品は、花々が人間の体から生えている女性像や、動物と人間が一体化した形の彫刻など、自然の美しさと人間の精神を融合させた作品が特徴だった。
リサベスの作品は美しいが、見方や角度によっては醜かったり恐ろしかったり、不思議な感情になる。幼い頃のアリッサはそれが怖くて、リサベスの作品を直視できないことがあった。
しかし、アリッサが幼い頃からその名前は有名であった。リサベスの作品は貴族のサロンや王宮の一角を飾り、実際ギャロウェイ伯爵家のサロンにもリサベスの絵が飾られていた。リサベスの絵画や彫刻を持っていることは貴族にとって当然であり、ステータスのひとつになっていたのだった。
(作品は苦手だけれど、実際お会いしたらどんな感じなのかしら? いろいろお話しを伺ってみたいわ)
アリッサはまだ会ったことがない高名な芸術家リサベスについて、あれこれと想像してみるのだった。
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