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20 子ウサギの精霊たち

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「ライン様、狼の群れよ。どうしましょう」
「アリッサ。後ろに下がって。この命に代えても君を守る」

(命に代えても? 嫌よ、私たちは結婚したばかりなのよ)

 護衛騎士を5人しか伴っていなかったが、狼の数は20匹以上もいた。アリッサは一瞬にして恐怖に凍りつき身体が震えたが、近くに落ちていた太めの枝を手に取ると、なんとか応戦しようと身構える。

(最後まで戦うわ。絶対に、諦めたくない。せっかく、大好きなライン様と一緒になれたのですもの)

 ところが足元の子ウサギたちが、アリッサたちを守るように前へ進み出た。狼たちが子ウサギたちに襲いかかろうとした瞬間、7匹の子ウサギたちは突然巨大化し、大きな樫の木ほどの大きさになったのだ。
 
 子ウサギたちが足を踏み鳴らすたびに地面がドーン、ドーンと大きく揺れたので、好戦的だった狼たちはすっかり怯えた。混乱し逃げ惑う狼たちを、巨大なウサギたちがゆっくりと追いかける。ウサギたちは狼たちを鋭い前歯で噛んだり、爪で引き裂くことはなかった。鼻先で狼を押しのけたり、転がしたりしていただけだ。

「まるで悪いことをした子供にお仕置きをしているみたいね」

 その光景にアリッサは思わず微笑んだ。ウサギたちは巨大化してもなお愛らしさを失わず、むしろその巨体がユーモラスで可愛らしく見えたからだ。やがて、狼たちは尻尾を巻いて逃げ去り、巨大なウサギたちは再び元の小さな子ウサギに戻って、アリッサの足元に集まった。

「ありがとう。きっと、あなた達は森の精霊さんたちよね? 私たちを守ってくれたのでしょう?」
 アリッサは優しく声をかける。子ウサギたちはアリッサの言葉に応えるように、長い耳をぴくりと動かしながら、再び森の奥へと静かに消えていった。

「そうか。あの子ウサギたちは精霊だったのか。道理でいつも、同じような子ウサギを見かけると思っていたよ」
「ライン様、ここは不思議で素晴らしい森ね。あの子ウサギたちも、とても可愛いし、これから良いお友達になれそうな気がするわ」
「精霊が人間の前に姿を現すことは、ほぼないと言われているんだよ。だから、今回は特別だと思うな。私とアリッサは精霊たちに、すでに友達だと思われているよ」
「確かにその通りだわ。精霊さんたち。もう、私たちはお友達よね! 私はアリッサよ。ここにいるワイマーク伯爵の妻になったばかりなの。屋敷のほうに、いつでも遊びに来てちょうだい」

 アリッサは子ウサギたちが消えていった方向に大声で叫んだ。すると、七匹の子ウサギが木の陰から、ちらりと姿を見せてうなずくように頭を下げた。

「やっぱり。あの子ウサギたちは人間の言葉がわかるんだわ。なんて素敵なの」

 アリッサは初めてのワイマーク伯爵家の領地で、森の精霊たちと心を通わせる不思議な体験をしたのだった。
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