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8 新しい夫と野菜作り
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翌日からフィンリー様と一緒にいることが増えた。というか、皇帝陛下の鶴の一声で皇太子がフィンリー様に変更され私は彼の皇太子妃になった。こんなに簡単に新しい夫ができていいのかしら? そう心配するほどにスムーズに行われた皇太子変更の儀式。
ーー相手が変わってもそのまんまじゃん! これは危険を回避したと思っていいのかしら? それともまた将来フィンリー様が側妃を作り私を陥れることがあるんじゃないでしょうね?
あたしはそんな不安を抱えながらフィンリー様の横に立つ。
「そんなに不安そうな顔をしないで。私はあなたを苦しめたりする事は無い」
そうおっしゃったフィンリー様は私に毎日バラを1輪くださるようになった。
「今日もあなたが幸せでいれるように」
そんな言葉を添えてくださるバラの花はいつも大輪でかぐわしい香りがした。
「これは庭師が選んで切っているものでしょう」
あたしは専属侍女に問い掛けた。
「そう思いでしょう?ところがそうではありません。フィンリー様が育てたバラなんですよ。あの方はあぁ見えて園芸が好きでご自分でお花を育てていらっしゃいます。もちろんそのバラを切ったのもあの方です」
思いがけない答えにあたしは驚いた。
お花の手入れは庭師がすることであって貴族の男性がする事は滅多にない。まして皇族の男性がそのようなことをするとは思わなかった。
🍆🍅🥒
「フィンリー様、1つ提案があるのですけれど私たち仲良くなれる良い方法があると思うのです。フィンリー様はお花を育てるのがお好きですよね? 実は私は野菜を育てることが好きなのです。お仕事の合間に一緒に土いじりを楽しみませんか?」
そう、日本にいた頃のあたしは狭いベランダで野菜を育てていた。ミニトマトやナス、パセリやバジル。きゅうりやピーマン。母子家庭で育ったあたしは花を植えるよりは食べられる野菜の方に魅力を感じていた。同じ手間をかけて育てるのなら食べられた方がずっといい。それに野菜だって花が咲くしね。ささやかな花だけれどなかなかかわいいんだから。
「野菜を育てたい? あなたは本当に変わっているね。でもそれもいいだろう。宮廷の庭園にあなたの野菜畑と私のお花畑を隣り合わせに作ろう。政務の合間に土いじりをしていれば農民の気持ちも少しはわかるし癒しにもなる」
あたしたちには燃え盛るような恋は無い。お互いが嫌いではないというぐらいにしか思っていない。友達のような夫婦だ。
「ちょっと見てくださいよ、フィンリー様。このピーマンの花の可憐なこと! これは絶対においしい実になります」
「そうだなぁ! あなたはとても野菜を育てるのがうまい。ところで私のバラも見てくれ。とても大輪で素晴らしく香りが良い」
まるで自分の子供を自慢するかのようにあたしたちはお互いの努力の結晶を自慢しあった。
午後の日差しがあたしの畑とフィンリー様のお花畑を照らす。暖かな陽気に蜜蜂がブンブンと羽音をたてる様子が好きだ。フィンリー様の艶やかなお花の横にあたしのナスの紫の花とピーマンの白い花が並ぶ。この不調和な風景がたまらなく楽しくて平和だ。
「この調子でいけばフィンリー様が他の女性に夢中になって私を貶めて殺したりする事はなさそうだわ」
私の心の中の声が漏れ出す。
「は? そんなことを心配していたのかい? 私は女性よりは植物の花が好きだ。妃はあなた1人でいいと思っているし、そもそも虫を殺すのも嫌いなのに人間など殺せるものか。ミツバチやミミズでさえこの世に生を受けて一生懸命生きてるんだ。その小さな命さえも私は愛しいと思っている。まして妃であるあなたの命を私が脅かすわけがないだろう」
私はそう言われて安堵のため息をついた。静かにフィンリー様は私の頬にキスを落とし、私はうっとりと目を閉じてやっと安心することができたのだった。
ここは漫画の世界だけれど、私が見た漫画の世界とは違う。そして日本に戻れない以上これが私の生きる世界だ。だったら精一杯生きるだけだ! 私はフィンリー様に言った。
「そろそろ子供を作らなければいけませんね? 私たちは愛し合ってはいませんがこれもお勤めですから」
「え?私はあなたを愛しているんだが……知らなかったのかい?」
「はい、好きも愛してるもなく、いきなり夫が入れ替わっただけですもの。おっしゃっていただかないと分かりません」
「こうして一緒に過ごすうちにあなたはとても大事な人になった。それはあなたも同じだと思っていたんだが私の勘違いだったようだ。だとすれば私のする事は1つだ」
🌹˳◌˚⌖🌹˳◌˚⌖ 🌹˳◌˚⌖🌹˳◌˚⌖ 🌹˳
「おはよう!愛してるよ」
「ローズ!大好きだよ」
「ローズ、かわいいね!」
「ローズ、世界で1番綺麗で愛しい人!」
ーーこれは何の罰ゲームなの? フィンリー様はサロンでも廊下でも庭園でもこの言葉を30分ごとに言ってくるのよ!
「フィンリー様の深い愛はもう分かりましたから政務に集中してくださいませ」
今日も私は夫にわざとしかめっ面をして説教するのだった。もちろん心の中ではにやけ顔が止まらないけれど!
夫に愛されるって最高の気分よ! ……もちろん今では私もフィンリー様を愛しているのだった。
完
ーー相手が変わってもそのまんまじゃん! これは危険を回避したと思っていいのかしら? それともまた将来フィンリー様が側妃を作り私を陥れることがあるんじゃないでしょうね?
あたしはそんな不安を抱えながらフィンリー様の横に立つ。
「そんなに不安そうな顔をしないで。私はあなたを苦しめたりする事は無い」
そうおっしゃったフィンリー様は私に毎日バラを1輪くださるようになった。
「今日もあなたが幸せでいれるように」
そんな言葉を添えてくださるバラの花はいつも大輪でかぐわしい香りがした。
「これは庭師が選んで切っているものでしょう」
あたしは専属侍女に問い掛けた。
「そう思いでしょう?ところがそうではありません。フィンリー様が育てたバラなんですよ。あの方はあぁ見えて園芸が好きでご自分でお花を育てていらっしゃいます。もちろんそのバラを切ったのもあの方です」
思いがけない答えにあたしは驚いた。
お花の手入れは庭師がすることであって貴族の男性がする事は滅多にない。まして皇族の男性がそのようなことをするとは思わなかった。
🍆🍅🥒
「フィンリー様、1つ提案があるのですけれど私たち仲良くなれる良い方法があると思うのです。フィンリー様はお花を育てるのがお好きですよね? 実は私は野菜を育てることが好きなのです。お仕事の合間に一緒に土いじりを楽しみませんか?」
そう、日本にいた頃のあたしは狭いベランダで野菜を育てていた。ミニトマトやナス、パセリやバジル。きゅうりやピーマン。母子家庭で育ったあたしは花を植えるよりは食べられる野菜の方に魅力を感じていた。同じ手間をかけて育てるのなら食べられた方がずっといい。それに野菜だって花が咲くしね。ささやかな花だけれどなかなかかわいいんだから。
「野菜を育てたい? あなたは本当に変わっているね。でもそれもいいだろう。宮廷の庭園にあなたの野菜畑と私のお花畑を隣り合わせに作ろう。政務の合間に土いじりをしていれば農民の気持ちも少しはわかるし癒しにもなる」
あたしたちには燃え盛るような恋は無い。お互いが嫌いではないというぐらいにしか思っていない。友達のような夫婦だ。
「ちょっと見てくださいよ、フィンリー様。このピーマンの花の可憐なこと! これは絶対においしい実になります」
「そうだなぁ! あなたはとても野菜を育てるのがうまい。ところで私のバラも見てくれ。とても大輪で素晴らしく香りが良い」
まるで自分の子供を自慢するかのようにあたしたちはお互いの努力の結晶を自慢しあった。
午後の日差しがあたしの畑とフィンリー様のお花畑を照らす。暖かな陽気に蜜蜂がブンブンと羽音をたてる様子が好きだ。フィンリー様の艶やかなお花の横にあたしのナスの紫の花とピーマンの白い花が並ぶ。この不調和な風景がたまらなく楽しくて平和だ。
「この調子でいけばフィンリー様が他の女性に夢中になって私を貶めて殺したりする事はなさそうだわ」
私の心の中の声が漏れ出す。
「は? そんなことを心配していたのかい? 私は女性よりは植物の花が好きだ。妃はあなた1人でいいと思っているし、そもそも虫を殺すのも嫌いなのに人間など殺せるものか。ミツバチやミミズでさえこの世に生を受けて一生懸命生きてるんだ。その小さな命さえも私は愛しいと思っている。まして妃であるあなたの命を私が脅かすわけがないだろう」
私はそう言われて安堵のため息をついた。静かにフィンリー様は私の頬にキスを落とし、私はうっとりと目を閉じてやっと安心することができたのだった。
ここは漫画の世界だけれど、私が見た漫画の世界とは違う。そして日本に戻れない以上これが私の生きる世界だ。だったら精一杯生きるだけだ! 私はフィンリー様に言った。
「そろそろ子供を作らなければいけませんね? 私たちは愛し合ってはいませんがこれもお勤めですから」
「え?私はあなたを愛しているんだが……知らなかったのかい?」
「はい、好きも愛してるもなく、いきなり夫が入れ替わっただけですもの。おっしゃっていただかないと分かりません」
「こうして一緒に過ごすうちにあなたはとても大事な人になった。それはあなたも同じだと思っていたんだが私の勘違いだったようだ。だとすれば私のする事は1つだ」
🌹˳◌˚⌖🌹˳◌˚⌖ 🌹˳◌˚⌖🌹˳◌˚⌖ 🌹˳
「おはよう!愛してるよ」
「ローズ!大好きだよ」
「ローズ、かわいいね!」
「ローズ、世界で1番綺麗で愛しい人!」
ーーこれは何の罰ゲームなの? フィンリー様はサロンでも廊下でも庭園でもこの言葉を30分ごとに言ってくるのよ!
「フィンリー様の深い愛はもう分かりましたから政務に集中してくださいませ」
今日も私は夫にわざとしかめっ面をして説教するのだった。もちろん心の中ではにやけ顔が止まらないけれど!
夫に愛されるって最高の気分よ! ……もちろん今では私もフィンリー様を愛しているのだった。
完
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aporokita様
>ヒロインのずれっぷりが楽しくて、面白かったです。
ありがとうございます
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あはは
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