（完）妹の婚約者を誘惑したと言うけれど、その彼にそんな価値がありますか？

ジョセフィーヌの恋の行方

街の人々に愛されるエラ（狸男爵視点）

「げ･･････いや、私はパン屋では、決してないぞ！　たまたま、ここを通りがかっただけで･･････」

「「あ、知ってる！　こいつら、前はヒヨコ広場の近くのパン屋にいちゃもんつけてたよ！」」

「「うん、うん。あの狸男爵が大きな店を始めるから、売り上げのいい小さな店を潰してまわってるに違いないよ」」

　人だかりができて、情勢不利になってきたな。まずいぞ･･････それに、このどさくさに紛れて狸と呼ぶのはよせ！なんと、失礼な奴らだ！

「ここにお集まりの皆さん！　ここに元娼婦がいます！　ここのパンが食べたいですか？」

　私は、叫んで騒動になった隙に逃げようとしたが、誰もその言葉を聞いてこのエラを罵る者はいなかった。

「あたしは、食べたいよ！　エラちゃんは、いつだってニコニコしててさ、そりゃ、気持ちの良い接客をしてくれるんだよ！」

「あぁ、俺も食べたいぞ！　ここの具材パンは、たっぷり中身が詰まってて、値段だって良心的だぜ？　俺は、お昼はここで買うことが多いよ」

「「「そうだ、そうだ！」」」

「エラちゃんが、以前がどうだったなんて、パンの味には関係ないさ！　いつも元気に明るく働いている人間を追い出そうなんて、なんて酷い狸男爵なんだい！」

「みんな！　こいつが始める大きな店には絶対に行かないようにしようぜ！」

「「「おぅ」」」　　「「「あんた達こそ、この街からでていけ！」」」

　周りを、貧乏人どもが取り囲みおって、全くけしからん奴らだ!　今度は、お前らの職場に行って嫌がらせしてやるからな！　とにかく、この場は逃げよう･･････

「あぁ、王太子様、ジョセフィーヌ様、私はこれにて失礼します。えっと急用を･･････」

「お前は、アホか？　こんな騒ぎを起こしエラを貶めるようなことを言って、そのままなんのお咎めもなく帰れると思っているのか？　愚か者が！　今日は父上も母上も城にいる。王に会えるいい機会だぞ？　そいつらを捕らえよ。城に連れていく」

　王太子が、大衆の面前できっぱりとそう言うと拍手喝采が起こった。

「うわぁーーい！　ざまぁみろ！　真面目に働くエラちゃんを虐めるからだ」

「そうだよ！　王様に叱れられて、爵位もなくなればいいんだ！」

　畜生！　うるさい！　お前ら、平民なんかに罵倒されていい儂ではないぞ！　そのうち、えん罪でも着せてむち打ってやるからな！　心の中で、盛大に悪態をついていると王家の護衛騎士から羽交い締めにされた。

　王に会って、なんて言えばいいんだ？　しまった･･････こんな娼婦あがりの小娘が、こんなに街の人をたらし込んでいたとは！　さすが、高級娼婦だ！　油断も隙もあったものではない！　くっそ！