29 / 43
ジョセフィーヌの恋の行方
狸男爵と狐男(王太子視点)
しおりを挟む
パン屋に行くと、口ひげを蓄えた恰幅のいい年配の男と狐目の細い男が、エラの腕を掴んで下卑た笑みを浮かべていた。
口ひげの男は身なりからしていかにも貴族、という服装をしていた。この男の顔は見たことはないから、子爵以下の家柄に違いない。
人相が悪い狐目は、どこかで見たことがあるが思い出せない。
いつもなら、綺麗に三段の棚に並べられているパンは、全て床に落ちて踏みつけられていた。
食材を入れたパンの中身が床に派手にこびりついているところを見れば、わざと落として足で散々踏みつけたことが想像できた。
「なんだよ? ここの責任者はどこだよ? さっきの女将はどこに行ったんだよ?」
狐目が、大きな声で叫んでいる。
「責任者なら私だ! なんの用だ? このパンはお前らが落としたんだな? 損害額の3倍は払えよ」
言ってから、考え直した。3倍どころじゃないな。5倍だな。ふと、ジョセフィーヌを振り返れば、その踏みつけられたパンを見て涙ぐんでいた。くそっ!100倍ぐらい払わせないと気が済まないぞ!
「はぁ? こんな娼婦が焼いたパンなんて汚くて食えるかよ? お前ら、知らないのか? こいつは、高級娼館で働いていたエラって子だよ? いなくなって、客が寂しがってるぜ? 元いた所に戻れよ! 俺が連れて行ってやるよ」
嫌がるエラの腕を掴んで、狐目男が連れていこうとする。私より一足早く、ライアンが動きその狐目男の腕をねじり上げた。
「ここでは、客に暴力を振るうのか? 儂はダンカン・マヌエル男爵だ。その男を放せ! そいつは善良な平民だ。娼婦は娼館で大人しく男と寝てればいいんだ! 商店街が汚れるわ!」
「このエラが、なぜ娼婦と言いきれる? お前は客だったのか?」
「まさか! ただ、客だった奴から話しを聞いた。似た子がここで働いていると。そうなんだろ?この子がそのエラなんだろ?」
ニヤニヤしながら、私に質問してくる。むかつく奴だ! その胸ぐらを掴んで殴ろうとするとエラが言った。
「そうです! 私がそのエラです。けれど、それが貴方になんの関係がありますか? 私は罪の償いでそこに送られてもうその務めは終えました。あとは、自由だと言われました。私がここでパンを焼いていて、貴方になにか迷惑をかけましたか?」
「は? あぁ、迷惑だとも! この商店街の会長を今期、任された。ここの風紀を取り締まるように王家から直接に仰せつかっておる!」
「ふーーん。私も貴族だが、お前の顔も知らないぞ」
私がこのマヌエル男爵に言うと、この間抜けは私にこう言ったのだった。
「ふん! 私は王妃様や王太子様とも日頃から親しくさせて頂いているんだぞ!」
口ひげの男は身なりからしていかにも貴族、という服装をしていた。この男の顔は見たことはないから、子爵以下の家柄に違いない。
人相が悪い狐目は、どこかで見たことがあるが思い出せない。
いつもなら、綺麗に三段の棚に並べられているパンは、全て床に落ちて踏みつけられていた。
食材を入れたパンの中身が床に派手にこびりついているところを見れば、わざと落として足で散々踏みつけたことが想像できた。
「なんだよ? ここの責任者はどこだよ? さっきの女将はどこに行ったんだよ?」
狐目が、大きな声で叫んでいる。
「責任者なら私だ! なんの用だ? このパンはお前らが落としたんだな? 損害額の3倍は払えよ」
言ってから、考え直した。3倍どころじゃないな。5倍だな。ふと、ジョセフィーヌを振り返れば、その踏みつけられたパンを見て涙ぐんでいた。くそっ!100倍ぐらい払わせないと気が済まないぞ!
「はぁ? こんな娼婦が焼いたパンなんて汚くて食えるかよ? お前ら、知らないのか? こいつは、高級娼館で働いていたエラって子だよ? いなくなって、客が寂しがってるぜ? 元いた所に戻れよ! 俺が連れて行ってやるよ」
嫌がるエラの腕を掴んで、狐目男が連れていこうとする。私より一足早く、ライアンが動きその狐目男の腕をねじり上げた。
「ここでは、客に暴力を振るうのか? 儂はダンカン・マヌエル男爵だ。その男を放せ! そいつは善良な平民だ。娼婦は娼館で大人しく男と寝てればいいんだ! 商店街が汚れるわ!」
「このエラが、なぜ娼婦と言いきれる? お前は客だったのか?」
「まさか! ただ、客だった奴から話しを聞いた。似た子がここで働いていると。そうなんだろ?この子がそのエラなんだろ?」
ニヤニヤしながら、私に質問してくる。むかつく奴だ! その胸ぐらを掴んで殴ろうとするとエラが言った。
「そうです! 私がそのエラです。けれど、それが貴方になんの関係がありますか? 私は罪の償いでそこに送られてもうその務めは終えました。あとは、自由だと言われました。私がここでパンを焼いていて、貴方になにか迷惑をかけましたか?」
「は? あぁ、迷惑だとも! この商店街の会長を今期、任された。ここの風紀を取り締まるように王家から直接に仰せつかっておる!」
「ふーーん。私も貴族だが、お前の顔も知らないぞ」
私がこのマヌエル男爵に言うと、この間抜けは私にこう言ったのだった。
「ふん! 私は王妃様や王太子様とも日頃から親しくさせて頂いているんだぞ!」
3
お気に入りに追加
3,247
あなたにおすすめの小説
乳だけ立派なバカ女に婚約者の王太子を奪われました。別にそんなバカ男はいらないから復讐するつもりは無かったけど……
三葉 空
恋愛
「ごめん、シアラ。婚約破棄ってことで良いかな?」
ヘラヘラと情けない顔で言われる私は、公爵令嬢のシアラ・マークレイと申します。そして、私に婚約破棄を言い渡すのはこの国の王太子、ホリミック・ストラティス様です。
何でも話を聞く所によると、伯爵令嬢のマミ・ミューズレイに首ったけになってしまったそうな。お気持ちは分かります。あの女の乳のデカさは有名ですから。
えっ? もう既に男女の事を終えて、子供も出来てしまったと? 本当は後で国王と王妃が直々に詫びに来てくれるのだけど、手っ取り早く自分の口から伝えてしまいたかったですって? 本当に、自分勝手、ワガママなお方ですね。
正直、そちらから頼んで来ておいて、そんな一方的に婚約破棄を言い渡されたこと自体は腹が立ちますが、あなたという男に一切の未練はありません。なぜなら、あまりにもバカだから。
どうぞ、バカ同士でせいぜい幸せになって下さい。私は特に復讐するつもりはありませんから……と思っていたら、元王太子で、そのバカ王太子よりも有能なお兄様がご帰還されて、私を気に入って下さって……何だか、復讐できちゃいそうなんですけど?
たった一度の浮気ぐらいでガタガタ騒ぐな、と婚約破棄されそうな私は、馬オタクな隣国第二王子の溺愛対象らしいです。
弓はあと
恋愛
「たった一度の浮気ぐらいでガタガタ騒ぐな」婚約者から投げられた言葉。
浮気を許す事ができない心の狭い私とは婚約破棄だという。
婚約破棄を受け入れたいけれど、それを親に伝えたらきっと「この役立たず」と罵られ家を追い出されてしまう。
そんな私に手を差し伸べてくれたのは、皆から馬オタクで残念な美丈夫と噂されている隣国の第二王子だった――
※物語の後半は視点変更が多いです。
※浮気の表現があるので、念のためR15にしています。詳細な描写はありません。
※短めのお話です。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません、ご注意ください。
※設定ゆるめ、ご都合主義です。鉄道やオタクの歴史等は現実と異なっています。
幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに
hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。
二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。
【完結】フェリシアの誤算
伽羅
恋愛
前世の記憶を持つフェリシアはルームメイトのジェシカと細々と暮らしていた。流行り病でジェシカを亡くしたフェリシアは、彼女を探しに来た人物に彼女と間違えられたのをいい事にジェシカになりすましてついて行くが、なんと彼女は公爵家の孫だった。
正体を明かして迷惑料としてお金をせびろうと考えていたフェリシアだったが、それを言い出す事も出来ないままズルズルと公爵家で暮らしていく事になり…。
【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話
彩伊
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。
しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。
彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。
............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。
招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。
送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。
そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。
『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』
一日一話
14話完結
【完結】婚約破棄された公爵令嬢、やることもないので趣味に没頭した結果
バレシエ
恋愛
サンカレア公爵令嬢オリビア・サンカレアは、恋愛小説が好きなごく普通の公爵令嬢である。
そんな彼女は学院の卒業パーティーを友人のリリアナと楽しんでいた。
そこに遅れて登場したのが彼女の婚約者で、王国の第一王子レオンハルト・フォン・グランベルである。
彼のそばにはあろうことか、婚約者のオリビアを差し置いて、王子とイチャイチャする少女がいるではないか!
「今日こそはガツンといってやりますわ!」と、心強いお供を引き連れ王子を詰めるオリビア。
やりこまれてしまいそうになりながらも、優秀な援護射撃を受け、王子をたしなめることに成功したかと思ったのもつかの間、王子は起死回生の一手を打つ!
「オリビア、お前との婚約は今日限りだ! 今、この時をもって婚約を破棄させてもらう!」
「なぁッ!! なんですってぇー!!!」
あまりの出来事に昏倒するオリビア!
この事件は王国に大きな波紋を起こすことになるが、徐々に日常が回復するにつれて、オリビアは手持ち無沙汰を感じるようになる。
学園も卒業し、王妃教育も無くなってしまって、やることがなくなってしまったのだ。
そこで唯一の趣味である恋愛小説を読んで時間を潰そうとするが、なにか物足りない。
そして、ふと思いついてしまうのである。
「そうだ! わたくしも小説を書いてみようかしら!」
ここに謎の恋愛小説家オリビア~ンが爆誕した。
彼女の作品は王国全土で人気を博し、次第にオリビアを捨てた王子たちを苦しめていくのであった。
王太子から婚約破棄されて三年、今更何の用ですか?!
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「やはり君しかいない、君こそ私が真に愛する人だ、どうか戻って来て欲しい」ある日突然ユリアの営む薬屋にリンド王国の王太子イェルクがやってきてよりを戻したいという。
だが今更そんな身勝手な話はない。
婚約者だったユリアを裏切り、不義密通していたユリアの妹と謀ってユリアを国外追放したのはイェルク自身なのっだ。
それに今のユリアは一緒についてきてくれた守護騎士ケヴィンと結婚して、妊娠までしているのだ!
【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。
yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~)
パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。
この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。
しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。
もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。
「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。
「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」
そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。
竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。
後半、シリアス風味のハピエン。
3章からルート分岐します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。
https://waifulabs.com/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる