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ジョセフィーヌの恋の行方

狸男爵と狐男(王太子視点)

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 パン屋に行くと、口ひげを蓄えた恰幅のいい年配の男と狐目の細い男が、エラの腕を掴んで下卑た笑みを浮かべていた。

 口ひげの男は身なりからしていかにも貴族、という服装をしていた。この男の顔は見たことはないから、子爵以下の家柄に違いない。

 人相が悪い狐目は、どこかで見たことがあるが思い出せない。

 いつもなら、綺麗に三段の棚に並べられているパンは、全て床に落ちて踏みつけられていた。

 食材を入れたパンの中身が床に派手にこびりついているところを見れば、わざと落として足で散々踏みつけたことが想像できた。

「なんだよ? ここの責任者はどこだよ? さっきの女将はどこに行ったんだよ?」

 狐目が、大きな声で叫んでいる。

「責任者なら私だ! なんの用だ? このパンはお前らが落としたんだな? 損害額の3倍は払えよ」

 言ってから、考え直した。3倍どころじゃないな。5倍だな。ふと、ジョセフィーヌを振り返れば、その踏みつけられたパンを見て涙ぐんでいた。くそっ!100倍ぐらい払わせないと気が済まないぞ!

「はぁ? こんな娼婦が焼いたパンなんて汚くて食えるかよ? お前ら、知らないのか? こいつは、高級娼館で働いていたエラって子だよ? いなくなって、客が寂しがってるぜ? 元いた所に戻れよ! 俺が連れて行ってやるよ」

 嫌がるエラの腕を掴んで、狐目男が連れていこうとする。私より一足早く、ライアンが動きその狐目男の腕をねじり上げた。

「ここでは、客に暴力を振るうのか? 儂はダンカン・マヌエル男爵だ。その男を放せ! そいつは善良な平民だ。娼婦は娼館で大人しく男と寝てればいいんだ! 商店街が汚れるわ!」

「このエラが、なぜ娼婦と言いきれる? お前は客だったのか?」

「まさか! ただ、客だった奴から話しを聞いた。似た子がここで働いていると。そうなんだろ?この子がそのエラなんだろ?」

 ニヤニヤしながら、私に質問してくる。むかつく奴だ! その胸ぐらを掴んで殴ろうとするとエラが言った。

「そうです! 私がそのエラです。けれど、それが貴方になんの関係がありますか? 私は罪の償いでそこに送られてもうその務めは終えました。あとは、自由だと言われました。私がここでパンを焼いていて、貴方になにか迷惑をかけましたか?」

「は? あぁ、迷惑だとも! この商店街の会長を今期、任された。ここの風紀を取り締まるように王家から直接に仰せつかっておる!」

「ふーーん。私も貴族だが、お前の顔も知らないぞ」

 私がこのマヌエル男爵に言うと、この間抜けは私にこう言ったのだった。

「ふん! 私は王妃様や王太子様とも日頃から親しくさせて頂いているんだぞ!」

 
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