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パン屋で働くエラ(エラ視点)
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「おめでとう! あんたは、今から自由だってさ! それと、今まで働いた分の給料は全部、支給されるらしいよ。しっかり、お生きよ。二度とここには戻ってくるんじゃないよっ!」
売れっ子の先輩から、そう言われて夢かと思った。もう、娼婦でいなくていいんだ!
「ちょっとしたお別れ会をしようじゃないか? そんなに時間はとれないけれど、仲間の門出だよ」
娼館のオーナーの言葉に、誰もが賛成してくれた。
短い時間だったけれど、先輩娼婦達にお別れの挨拶とお礼も言えた。この仕事は、辛いこともあったけれどなんとか頑張った。だから、これからの人生も、頑張れると思った。まずは、お部屋をどこかに借りて、仕事も探さなくてはならない。部屋って、どうやって借りればいいんだろう? それすらも、わからないけれど、なんとかなるだろう。
嬉しい気持ちと、少しばかりの不安を抱えて娼館を出て、外の空気を思いっきり吸い込んだ。少し先に男性が立っていて誰かを待っているようだった。
私は、足早に通り過ぎようとした。すると、その男性は私に話しかけたのだった。
「ルドレア女侯爵の屋敷の近くに、広めの部屋を借りたんだ。キッチンと居間の他に2部屋あるから、シェアしようか?」
私にそんな不思議な提案をしてくる男性の顔をじっと見つめた私は、彼がライアンだとわかった。これから、部屋を借りるのが不安だった私はこの提案には素直に頷いた。
「家賃の半分は負担するわ。どうも、ありがとう。助かりました」
私は、さらに深くペコリと頭を下げた。
*:.。 。.:*・゚✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*
ライアンは、ルドレア女侯爵の屋敷に、朝に出勤して夕方には帰ってくる。けれど、夕方に出勤して朝方に戻る時もあった。私兵の護衛だから、いつも決まった人数で交代制で屋敷を守らなければならないらしい。休みは4日勤務すると一日貰えるシステムだった。
休みの日には、一緒に必要なものを買いにいった。食器や鍋とか・・・・・・日用品の細々とした物を買うのは楽しかった。その買い物の時に、一件のお店を見つけたのだった。
こじんまりしたパン屋の扉には『店員募集』の張り紙があった。私は、思わずそのお店に入って、働かせてくれないかと頼んだのだった。
「あぁ、あんた、パン屋で働いたことはあるのかい?」
「ないですけれど・・・・・・ここで、働けたらどんなに素敵かなって・・・・・・」
「ふふふ。嬉しいことを言ってくれるね? こんな小さなパン屋なんて素敵なことは、ひとつもないけどね」
パン屋のおばさんは苦笑していた。
「ここには、パンの焼ける香ばしい匂いと、それを買って行く嬉しそうなお客様の笑顔があります。みんな、ニコニコしている。それは、とても素敵なことです」
「あははは。いいこと、言うね? いいよ。明日から、来れるかい? 一応、身元保証人を一人、書いておくれ」
「え? 身元保証人? どうしよう? いないです・・・・・・」
私が、そう言うとそのおばさんは、困ったような顔をして微笑んだ。
「ごめんよ。どこの誰かもわからない子は雇えないんだよ。パン焼きの手伝いの他にレジもやってもらうだろ?」
私は、諦めて帰ろうとしたらライアンが言った。
「僕がなります。僕ではダメですか?」
「あんたは、この子の旦那さんかい? どこにお勤めしているのだい?」
パン屋の女将さんが、胡散臭そうにライアンを見ていた。ライアンが薄汚れたジャケットを着ていたからかもしれない。
「ルドレア女侯爵の私兵です」
ライアンが言うと、ますます、疑わしい目つきになった。
「ちょっと、待っておくれ。ルドレア女侯爵様のところの私兵様なら、もっと上等の服を着ているはずだよ。二人の名前を聞かしておくれよ。あぁ、確認するのに時間がかかるね。明日にでも、また来ておくれよ」
そう言われて、私達は帰されてしまった。世間って、厳しいものなんだということがわかったし、服装で判断することもわかった。高価ではない、清潔で大人しめの服装の時にお買い物に行くと、店員さんの愛想はいいしまけてくれる。
けれど、高価な生地で作られた派手な服を着て、お買い物に行くと、作り笑いを浮かべて、値段を3割増しにされるんだ!
翌日、パン屋の女将さんのところに行ったら、なぜか大歓迎された。
「あぁ。待っていたんだよぉ。あんた、なんで言わないのさ? あそこのルドレア女侯爵様のお嬢様のジョセフィーヌ様の腹違いの妹なんだって? わけあって平民になっているけれど妹として思っていると、ジョセフィーヌ様がおっしゃったそうだ。身元保証人にはルドレア女侯爵様がなってくださったよ。おまけに、これからは、私兵のパンはこの店に注文すると言われたさ。なんて、ありがたいんだい! あんたは、福の神だねぇ。あぁ、あんたはバイトじゃないよ! 一人前のパン職人にさせろと、ルドレア女侯爵様からのご命令さ。今日から、いちからパン作りを学んでいこうね!」
私は、その場で、泣いた。これは、うれし泣きと感謝の気持ちで・・・・・・しばらく涙は止らなかった。
売れっ子の先輩から、そう言われて夢かと思った。もう、娼婦でいなくていいんだ!
「ちょっとしたお別れ会をしようじゃないか? そんなに時間はとれないけれど、仲間の門出だよ」
娼館のオーナーの言葉に、誰もが賛成してくれた。
短い時間だったけれど、先輩娼婦達にお別れの挨拶とお礼も言えた。この仕事は、辛いこともあったけれどなんとか頑張った。だから、これからの人生も、頑張れると思った。まずは、お部屋をどこかに借りて、仕事も探さなくてはならない。部屋って、どうやって借りればいいんだろう? それすらも、わからないけれど、なんとかなるだろう。
嬉しい気持ちと、少しばかりの不安を抱えて娼館を出て、外の空気を思いっきり吸い込んだ。少し先に男性が立っていて誰かを待っているようだった。
私は、足早に通り過ぎようとした。すると、その男性は私に話しかけたのだった。
「ルドレア女侯爵の屋敷の近くに、広めの部屋を借りたんだ。キッチンと居間の他に2部屋あるから、シェアしようか?」
私にそんな不思議な提案をしてくる男性の顔をじっと見つめた私は、彼がライアンだとわかった。これから、部屋を借りるのが不安だった私はこの提案には素直に頷いた。
「家賃の半分は負担するわ。どうも、ありがとう。助かりました」
私は、さらに深くペコリと頭を下げた。
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ライアンは、ルドレア女侯爵の屋敷に、朝に出勤して夕方には帰ってくる。けれど、夕方に出勤して朝方に戻る時もあった。私兵の護衛だから、いつも決まった人数で交代制で屋敷を守らなければならないらしい。休みは4日勤務すると一日貰えるシステムだった。
休みの日には、一緒に必要なものを買いにいった。食器や鍋とか・・・・・・日用品の細々とした物を買うのは楽しかった。その買い物の時に、一件のお店を見つけたのだった。
こじんまりしたパン屋の扉には『店員募集』の張り紙があった。私は、思わずそのお店に入って、働かせてくれないかと頼んだのだった。
「あぁ、あんた、パン屋で働いたことはあるのかい?」
「ないですけれど・・・・・・ここで、働けたらどんなに素敵かなって・・・・・・」
「ふふふ。嬉しいことを言ってくれるね? こんな小さなパン屋なんて素敵なことは、ひとつもないけどね」
パン屋のおばさんは苦笑していた。
「ここには、パンの焼ける香ばしい匂いと、それを買って行く嬉しそうなお客様の笑顔があります。みんな、ニコニコしている。それは、とても素敵なことです」
「あははは。いいこと、言うね? いいよ。明日から、来れるかい? 一応、身元保証人を一人、書いておくれ」
「え? 身元保証人? どうしよう? いないです・・・・・・」
私が、そう言うとそのおばさんは、困ったような顔をして微笑んだ。
「ごめんよ。どこの誰かもわからない子は雇えないんだよ。パン焼きの手伝いの他にレジもやってもらうだろ?」
私は、諦めて帰ろうとしたらライアンが言った。
「僕がなります。僕ではダメですか?」
「あんたは、この子の旦那さんかい? どこにお勤めしているのだい?」
パン屋の女将さんが、胡散臭そうにライアンを見ていた。ライアンが薄汚れたジャケットを着ていたからかもしれない。
「ルドレア女侯爵の私兵です」
ライアンが言うと、ますます、疑わしい目つきになった。
「ちょっと、待っておくれ。ルドレア女侯爵様のところの私兵様なら、もっと上等の服を着ているはずだよ。二人の名前を聞かしておくれよ。あぁ、確認するのに時間がかかるね。明日にでも、また来ておくれよ」
そう言われて、私達は帰されてしまった。世間って、厳しいものなんだということがわかったし、服装で判断することもわかった。高価ではない、清潔で大人しめの服装の時にお買い物に行くと、店員さんの愛想はいいしまけてくれる。
けれど、高価な生地で作られた派手な服を着て、お買い物に行くと、作り笑いを浮かべて、値段を3割増しにされるんだ!
翌日、パン屋の女将さんのところに行ったら、なぜか大歓迎された。
「あぁ。待っていたんだよぉ。あんた、なんで言わないのさ? あそこのルドレア女侯爵様のお嬢様のジョセフィーヌ様の腹違いの妹なんだって? わけあって平民になっているけれど妹として思っていると、ジョセフィーヌ様がおっしゃったそうだ。身元保証人にはルドレア女侯爵様がなってくださったよ。おまけに、これからは、私兵のパンはこの店に注文すると言われたさ。なんて、ありがたいんだい! あんたは、福の神だねぇ。あぁ、あんたはバイトじゃないよ! 一人前のパン職人にさせろと、ルドレア女侯爵様からのご命令さ。今日から、いちからパン作りを学んでいこうね!」
私は、その場で、泣いた。これは、うれし泣きと感謝の気持ちで・・・・・・しばらく涙は止らなかった。
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