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★ジョーダン・フレーク男爵は実はこんな男だった(末路)

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ーージョセフィーヌが知らないお話ーー(ジョーダン・フレークの回想と末路)


 私は、ジョセフィーヌの母親のセレニティーを見た時に天使かと思った。金髪は誰よりも輝き、エメラルドグリーンの瞳は大きく長い睫はくるんと上向きにカールしていた。町娘の服装をしていたが、貴族の娘の変装だとすぐにわかった。

 その時期に流行っていた大衆劇をお忍びで見に来ていたのだ。人気役者の男にうっとりと見惚れている様子は、軽薄な薄っぺらい女に見えた。

(この女なら、遊んでやってもいいな。すぐさせてくれそうだ)

 この時期の私は、アレを覚えたてで、したくてたまらない年代だった。劇が終わって帰ろうとする彼女に声をかけた。私は、人気役者と同じ髪型をしていた。セレニティーは頬を染めて頷いた。近くの喫茶店でお茶をすると、彼女は役者の話ばかりするのだった。まるで、色気のある話にならないことに業を煮やし、いつも持ち歩いていた媚薬をセレニティーが化粧室に行っている間に紅茶に垂らした。

 戻ってきたセレニティーはその紅茶を飲み豹変した。目がトロンとし、すぐに私の誘いに応じて何度も行為に及んだ。ところが、媚薬を垂らしすぎたのか、彼女はもとに戻らず私につきまとうようになった。私は、セレニティーは準男爵あたりの令嬢と思っていた。準男爵家あたりになると市井に気軽にいくことができる。それか、もっと身分の高い貴族の庶子。

 ついには家出して来たと言い、私の屋敷に転がり込んできた。両親を早くになくし、反対する者もいなかったから妻に迎えた。媚薬の効果は徐々に抜けていき、ジョセフィーヌが6歳になった頃には、ほとんどまともになった。そうして、驚くべきことを言い出した。

「私は、ルドレア侯爵家の次女ですわ。お姉様のところに帰らなければいけません。ジョセフィーヌも連れて。なぜ、私は貴方などと結婚しているのですか? それと、なぜジョセフィーヌが私に『お母様は門番の娘とお父様がおっしゃったけれど、どのような貴族様の門番だったのですか?』と聞きます。これは、どういうことでしょうか?」

 まずい! 媚薬の効きすぎで頭が錯乱していて自分が言った嘘も忘れているようだ。そういえば、媚薬の他にも怪しげな薬を後で少し試してみたのもいけなかったか・・・・・・こんなことが、ルドレア家にばれてみろ! 死罪だ、間違いない。それも、ただの死罪ではない。まさに、釜ゆでの刑並みの残酷な刑・・・・・・

 セレニティーには毒を飲ませた。徐々に弱るようにして・・・・・・仕方がなかったんだ・・・・・・私が悪いわけではない。高位貴族の娘が、お忍びであんな場所にいるからいけない。迂闊な女だからこうなったんだ。自業自得とはこのことだ。

 そうして、私は再婚しすぐに子供が産まれた。オードリーとはかなり前から付き合っていたのだ。気が合ったし子供のエラはかわいかった。

 一方、私はジョセフィーヌが成長するにつれて恐怖を感じた。明らかに高位貴族の上品さと美貌と風格が身に備わっている。セレニティーの実家は彼女を見捨てたと思うが、ジョセフィーヌをいつまでもここに置いていくことは危険だと思った。

 都合良く、エラの婚約者を誘惑してくれて大義名分ができた。それを理由に追い出し娼館に証書を書いた。これは、振込先が書いてある娘を譲渡するという契約書のことだ。金の振り込み先はフレーク男爵家だ。ジョセフィーヌは娼館に売ってしまえば、死ぬまでそこから出てこられない。私の犯罪は完璧に隠蔽されるはずだった。


 あのジョセフィーヌさえ、素直に娼館に行ってくれればめでたし、めでたしだったのに・・・・・・
そう言えば、オードリーが古い手紙をジョセフィーヌに投げつけていたな。あれは、もしかして・・・・・・あぁ、そうだ。きっとあの手紙はルドレア女侯爵からのものだったのだろう。私はそのような手紙が来ていたことも知らない。オードリーは、私宛の手紙ですら隠すことがあった。あいつのせいで、台無しになったのか。くそ女め!


「さぁ、着いたぞ! 降りろ!」

 私は、王家の兵士に、馬車から引きずり下ろされた。着いた場所は、娼館ではなさそうだ。誰かの屋敷なのだろうか? 壮麗な屋敷と広大な庭園。兵士が手に縄をかけて私を引っ張って行く。

「あら、新しい奴隷? ちょっと歳はくっているけれどまぁまぁね。こいつは罪人なの?」

 仮面をした女が兵士に問いかけた。そこにいる者は皆仮面をしている。

「はい、こいつは極刑になるはずの男でしたので、なにをしてもかまいません」

「あぁーー、そう。だったら、サドの男色家の方がお金を出しそうね。うふふ、死んでもかまわないのでしょう?」

「はい、ただ、王妃様の注文付きです。すぐに殺してはならない。この世の地獄を見せてからするように、とのことです」

「あははは。最高じゃないの? 私とサド男色家で共同購入してあげるわ。新しい媚薬の実験台にしてもいいわね。媚薬を飲ませて拷問したら、快感で身もだえるのかしら? それとも、苦痛で泣き叫ぶ? どっちだと思う?」

 その兵士は、上機嫌でこう言ったのだった。

「博士!是非、この男で論文を書いてください。性病にわざとかからせての新薬の実験もお勧めですね!」
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