（完）妹の婚約者を誘惑したと言うけれど、その彼にそんな価値がありますか？

ルドレア家に突撃訪問してきたバカ親子（ジョセフィーヌ視点）

　”く”の方は、今にも倒れそうでしたが、満面の笑みを浮かべたエイゼル夫人に引っ張られるようにして私達から離れていきました。

　もうすぐ、王様と王妃様がいらっしゃるので、”く”の方は私達の側にはいられないのです。貴族には明確な序列がありますからね。

「さぁ、ジョセちゃん。ちゃんとご挨拶なさいね」

「はい、お母様」

　私は、穏やかに頷きました。このような場合、緊張するのが普通でしょうが、自分でも驚いたことにそれほどではありませんでした。お母様のように、私も女優になれたということでしょうか。

　王様と王妃様に綺麗にカーテシーをしてご挨拶をすると、王妃様がとても優しく微笑んでくださいました。

「まぁー、将来のルドレア女侯爵ね？　かわいいこと！　とても、綺麗で賢そうな令嬢です。ルドレア侯爵に命じます。ジョセフィーヌ嬢を、毎週私のお茶会に出席させなさい」

「あら、あら。早速、王妃様に気にいられるなんて、さすがルドレア侯爵家の跡継ぎね！」

　グレイス・ブレイ公爵夫人をはじめとして、全ての貴婦人が感嘆のため息を漏らしたのです。私は、特になにもしていないのですがね。私のどこを気にいってくださったのでしょうか？　ありがたいことです。



☆


　その三日後のことです。私はお母様と午後のお茶を楽しみながら小説を一緒に読んでおりました。例のお気に入りのお母様の小説は楽しかったのですが、ちょうど悲しいお話の場面でしたので、お母様は泣いておりましたよ。

　私は、ハンカチをお母様の目元に当ててお慰めしていました。小説に感情移入しすぎるのも考えものですね。

　すると、執事が来客の知らせをもってきたのです。

「ライアン・エイゼル様とその母君のファラセット・エイゼル男爵夫人がいらっしゃいました」

　その言葉にお母様は、ガラリと表情が変わりました。

「ふん、やはり、来ましたか。さぁ、ジョセちゃん！　戦闘開始ですわっ！」

　あ、これ女優のスイッチが入りましたよね？　やり手の女侯爵のお顔です。流石です。お母様、私も見習おうと心に誓いましたよ。


☆


「ルドレア侯爵様。本日、王家管轄の上級裁判所から通知が当家に来ました。これは、どうしたことでしょう。まったく、身に覚えがないことでございますよ」

　エイゼル男爵夫人がその書状を広げました。


『ライアン・エイゼルをエイゼル男爵家から勘当し辺境地の兵士とせよ。なお、これは、ルドレア侯爵の申し立てによるものである。不服の申し立ては２週間似内とする』

　
「この書状には理由が書いてないのです！　おかしいではありませんかっ！　筆頭侯爵家だからと言ってなんでもしていいわけではありません。こんなめちゃくちゃな申し立ては通りませんからねっ！」

　怒りに顔を真っ赤にさせたエイゼル男爵夫人にお母様は失笑していました。

「愚かな母親ですね。息子に尋ねましたか？　なぜ、このようなことになったか？通常はそのような通知には理由が書かれるものですよ。けれど、舞踏会でのあなたの素晴らしい意見を採用させていただいたので、温情として理由は申し立てなかったのですよ。理由まで申し立てたら、もう少し処分が厳しいかもしれませんね」

「私は、悪くありません！　ジョセフィーヌが私を誘惑してきたのです！　綺麗な金髪とエメラルドグリーンの瞳は男を誘うものです。間違いないです。」

　”く”の方は、お母様に向かって弁解をしてきましたよ。けれど、それは弁解になるのでしょうか。墓穴というか火に油というか･･････やはり、残念なオツムの方はどこまでいっても残念なのかもしれませんね･･････