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16 ソフィア、幸せを噛みしめる!
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「チャーリーとその侍従、御者が馬車同士の衝突事故で亡くなりました。即死だったそうです。ですが、奇跡的にアメリアの命だけが助かりましたよ。ただショックで声が出ないのと、脳に損傷があったようで顔面麻痺が生じています。片足も失ってしまいましたが、生きていたのは幸いです」
ハッサンが私に、思いがけないアメリア達の事故を告げた。チャーリーが亡くなったことは悲しいけれど、アメリアが生きていたことは嬉しい。
「チャーリーの死をあまり悲しんではいけません。ソフィア様が元気でいることが、なによりの供養ですからね」
「えぇ、ハッサンの言う通りだわね。でも、チャーリーが亡くなってアメリアもそのような状態では、到底フェラーリ家の財産は任せられませんわ。あの遺言書は破棄した方がいいわね」
「それはもうとっくに破棄しました。ソフィア様は難病ではないのですから、あの遺言は無効ですよ。あの遺言書は『ソフィア様が難病で亡くなったら』という条件付きでしたからね」
さすがはハッサンでやることに抜かりがない。
ハッサンがいれば、なにも心配することなんてないんだわ。
☆★
「大丈夫? 馬車同士で衝突するなんて・・・・・・チャーリーも御者も侍従も皆、即死だったらしいわ。アメリアだけが助かったのですって。なんて不幸な事故なんでしょう。運が悪すぎるわ」
何日も目覚めなかったアメリアが漸く目を覚まし、私は優しく話しかける。
「確かにチャーリー様達はお気の毒でしたね。ですが、アメリア様はとても運がいい。例え歩けなくとも口がきけずとも、生きていることは素晴らしいことですからね」
ハッサンもアメリアを元気づけるように声をかけた。
ところが、アメリアはいきなり上掛けを払いのけ涙を流した。彼女の表情からは細やかな感情が読み取れない。
目覚めた時から表情筋が動くことのないアメリアの顔は、ずっと眉も口角も下がりっぱなしだった。目の周りは時折痙攣しており、口元もそれに連動して歪んでいる。
「わかっているわよ。生きてフェラーリ家に戻って来られて嬉しいのね? もちろん、私はずっと親友よ。お腹の子供は本当に残念だったわね・・・・・・」
アメリアがフェラーリ家に生きて帰ることができて、きっと嬉しがっていると思った私はそう言って、なおも話を続けた。
「事故の衝撃で陣痛が起きて早産になってしまったのですって。赤ちゃんは助からなかったそうよ。かわいそうに・・・・・・私もずいぶん落ち込んだのよ。でもね、モナカの妊娠のお陰で少しだけ慰められたわ」
「ソフィア様に内緒で、モナカとリンドバーグ侯爵家(ハッサンの実家)で飼っている雄犬をお見合いさせておいて良かった。子犬を授かればきっとソフィア様が嬉しがると思ったのは正解でしたね。ついでにアレをアメリア様に教えてあげるといいですよ。きっと一緒に喜んでくれる」
ハッサンはにっこりと笑って、私が難病ではないことをアメリアに言ってもいいと許可をだしてくれた。このようなときこそ少しでも嬉しい話をするべきだから、私はアメリアに満面の笑みで報告をした。
「あぁ、そうね。聞いて! アメリア! 私、難病なんかじゃなかったのよ」
アメリアの顔はさきほどと全く変わらないけれど、きっと我が事のように喜んでくれているはずだ。
☆★
「ソフィア! 君を愛している。結婚してくれないか?」
「えぇ、もちろんよ!」
何度目かの春が巡り、私とハッサンはすっかり思い合うようになっていた。その言葉を待ちわびていた私は即答するなりハッサンに抱きついた。
「私ね、チャーリーとは本当の夫婦じゃなかったのよ。でも、今度は大丈夫だと思う。だってハッサンならなにをされても嫌じゃないから!」
びっくりしたようなハッサンの顔が見る見る真っ赤に変わり、優しいながらもきつく抱きしめられる。
「ソフィアとチャーリーが白い結婚だったのはすごく嬉しいよ。でも、もちろんそうでなかったとしても僕の愛は全く変わらない。ソフィアはソフィアだからね」
「大好きよ、ハッサン!」
ハッサンの冷たすぎる美貌も、今この瞬間だけは少年のように見えた。それは私が初めてハッサンを見た幼い頃の面影と同じ。大好きでいつも一緒にいたかったハッサンは、思えば私の初恋だったのだと思う。
次第に近づいてくるその美しい顔にうっとりとしながら目を閉じると、そっと唇を重ねられる。嬉しさと恥ずかしさでため息を漏らすように唇を開ければ、そっとハッサンの舌が私の口内に入ってきた。
舌を舐めて吸われることも少しも嫌じゃなくて・・・・・・恍惚として身体の芯から溶けていくようだった。
足下には子犬がじゃれ合い、柔らかな午後の日差しが私達をほんのりと照らし出したのだった。
完
ハッサンが私に、思いがけないアメリア達の事故を告げた。チャーリーが亡くなったことは悲しいけれど、アメリアが生きていたことは嬉しい。
「チャーリーの死をあまり悲しんではいけません。ソフィア様が元気でいることが、なによりの供養ですからね」
「えぇ、ハッサンの言う通りだわね。でも、チャーリーが亡くなってアメリアもそのような状態では、到底フェラーリ家の財産は任せられませんわ。あの遺言書は破棄した方がいいわね」
「それはもうとっくに破棄しました。ソフィア様は難病ではないのですから、あの遺言は無効ですよ。あの遺言書は『ソフィア様が難病で亡くなったら』という条件付きでしたからね」
さすがはハッサンでやることに抜かりがない。
ハッサンがいれば、なにも心配することなんてないんだわ。
☆★
「大丈夫? 馬車同士で衝突するなんて・・・・・・チャーリーも御者も侍従も皆、即死だったらしいわ。アメリアだけが助かったのですって。なんて不幸な事故なんでしょう。運が悪すぎるわ」
何日も目覚めなかったアメリアが漸く目を覚まし、私は優しく話しかける。
「確かにチャーリー様達はお気の毒でしたね。ですが、アメリア様はとても運がいい。例え歩けなくとも口がきけずとも、生きていることは素晴らしいことですからね」
ハッサンもアメリアを元気づけるように声をかけた。
ところが、アメリアはいきなり上掛けを払いのけ涙を流した。彼女の表情からは細やかな感情が読み取れない。
目覚めた時から表情筋が動くことのないアメリアの顔は、ずっと眉も口角も下がりっぱなしだった。目の周りは時折痙攣しており、口元もそれに連動して歪んでいる。
「わかっているわよ。生きてフェラーリ家に戻って来られて嬉しいのね? もちろん、私はずっと親友よ。お腹の子供は本当に残念だったわね・・・・・・」
アメリアがフェラーリ家に生きて帰ることができて、きっと嬉しがっていると思った私はそう言って、なおも話を続けた。
「事故の衝撃で陣痛が起きて早産になってしまったのですって。赤ちゃんは助からなかったそうよ。かわいそうに・・・・・・私もずいぶん落ち込んだのよ。でもね、モナカの妊娠のお陰で少しだけ慰められたわ」
「ソフィア様に内緒で、モナカとリンドバーグ侯爵家(ハッサンの実家)で飼っている雄犬をお見合いさせておいて良かった。子犬を授かればきっとソフィア様が嬉しがると思ったのは正解でしたね。ついでにアレをアメリア様に教えてあげるといいですよ。きっと一緒に喜んでくれる」
ハッサンはにっこりと笑って、私が難病ではないことをアメリアに言ってもいいと許可をだしてくれた。このようなときこそ少しでも嬉しい話をするべきだから、私はアメリアに満面の笑みで報告をした。
「あぁ、そうね。聞いて! アメリア! 私、難病なんかじゃなかったのよ」
アメリアの顔はさきほどと全く変わらないけれど、きっと我が事のように喜んでくれているはずだ。
☆★
「ソフィア! 君を愛している。結婚してくれないか?」
「えぇ、もちろんよ!」
何度目かの春が巡り、私とハッサンはすっかり思い合うようになっていた。その言葉を待ちわびていた私は即答するなりハッサンに抱きついた。
「私ね、チャーリーとは本当の夫婦じゃなかったのよ。でも、今度は大丈夫だと思う。だってハッサンならなにをされても嫌じゃないから!」
びっくりしたようなハッサンの顔が見る見る真っ赤に変わり、優しいながらもきつく抱きしめられる。
「ソフィアとチャーリーが白い結婚だったのはすごく嬉しいよ。でも、もちろんそうでなかったとしても僕の愛は全く変わらない。ソフィアはソフィアだからね」
「大好きよ、ハッサン!」
ハッサンの冷たすぎる美貌も、今この瞬間だけは少年のように見えた。それは私が初めてハッサンを見た幼い頃の面影と同じ。大好きでいつも一緒にいたかったハッサンは、思えば私の初恋だったのだと思う。
次第に近づいてくるその美しい顔にうっとりとしながら目を閉じると、そっと唇を重ねられる。嬉しさと恥ずかしさでため息を漏らすように唇を開ければ、そっとハッサンの舌が私の口内に入ってきた。
舌を舐めて吸われることも少しも嫌じゃなくて・・・・・・恍惚として身体の芯から溶けていくようだった。
足下には子犬がじゃれ合い、柔らかな午後の日差しが私達をほんのりと照らし出したのだった。
完
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