(完結)第二王子に捨てられましたがパンが焼ければ幸せなんです! まさか平民の私が・・・・・・なんですか?

青空一夏

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※これ以降、カスパー第二王子殿下をカスコイン伯爵とさせていただきます。カスパー → カスコインですよ。カスが一緒なので覚えやすいですよね😁よろしくお願いします🙇🏻‍♀️


୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧

 カスコイン伯爵の呼びかけに一斉に矢を放とうとする騎士団員達は、かつてのカスコイン伯爵の幹部だった部下達で、元の地位に戻りたがっているのか我先にと手柄をたてようとしていた。すでにカスコイン伯爵は騎士団長ではないし、人事権もなければ褒美を与える権利すらないのに。

「皆さん、弓矢を地面に置いてください。これは無意味な闘いだわ。ドラゴン達は元々攫われた子供を迎えに来ただけです。落ち着いてください。争ってはいけません!」

 私の声はカスコイン伯爵の取り巻きだった騎士達には聞こえない。セオドリック王太子殿下の命令すらも無視して勝手に矢を放ち、それが銀のドラゴンに向かって真っ直ぐ飛んで行く。

(あり得ない。そんなことをしたらドラゴン達との全面戦争になるわ。私はドラゴン達とは闘いたくないのよ」

「放たれし矢よ、どうか銀のドラゴンに命中しないで」
 私は心の中で、矢がドラゴン達を射ぬかないことを念じながら、胸の前に手を合わせて祈った。

(ほんの少しでもドラゴンを傷つけてはならない。悪いのはこちらなのだから)

 すると、矢はドラゴン達の直前まで迫ったけれど、そのまま力を失い地面に落ちていった。

「カスコイン伯爵! 早くドラゴンの子を開放なさい! そして心の底から謝るのよ」

「ばかばかしい! 例え謝ったとして、ドラゴンに人間の言葉がわかるものかっ! 俺はドラゴンの子を切り刻み、こんがりと焼いて昨晩のディナーにしてやった。ドラゴンの子を食うと、空が飛べるという伝説があっただろう? だから、試してみたのさ。あっははは」

 そんな伝説なんて聞いたことはない。カスコイン伯爵の、ドラゴンは人の言葉を理解できないことを私に証明しようとした、最悪の嘘だった。

 するとさきほどまで金のドラゴンに寄り添っていた銀のドラゴンが、ギロリとカスコイン伯爵を睨み付けたかと思うと、あっという間にカスコイン伯爵に迫り炎を吐きながら暴れ出した。その刹那、セオドリック王太子殿下が駆け出し、盾でカスコイン伯爵を庇い銀のドラゴンの攻撃を躱(かわ)す。

「アンジェリーナ様。一刻も早くドラゴンの子供を探して解放してください。わたしはこんな弟でも見殺しにはできません!」

「わかりました、セオドリック王太子殿下。銀のドラゴン、絶対にあなたの子供は生きているわ。今連れてくるから、お願いよ。セオドリック王太子殿下を攻撃しないで」

 銀のドラゴンに心の中で呼びかけてみても、カスコイン伯爵の暴言(大嘘)にすっかり怒り狂って、こちらの声は届かない。急いで私は屋敷の中に入る。居間ではヒルダ様が、恐ろしさにクッションを抱えながら、ソファで震えていた。

「ドラゴンの子はどこですか? 貴女なら知っていますよね?」
「あんたなんかに言うわけないでしょう?」 
「ヒルダ・カスコイン伯爵夫人。聖女の名において命じますわ。ドラゴンの子はどこにいますか? 貴女はドラゴンに焼き殺されたいのですか?」
「うるさい! パン屋の娘が偉そうに命令しないでよ。私は公爵令嬢だったのよ」
 こんな時でもまだ身分に拘っているなんて愚かだと思う。

「このままだと皆死にます。貴女も私もカスコイン伯爵も・・・・・・私の愛おしいセオドリック王太子殿下まで・・・・・・だから、ドラゴンの子がどこにいるのか言いなさい!」
 携帯していた短剣を鞘からゆっくりと引き抜くと、ヒルダ様の細い首にピタリと付けた。こちらに向かう前に王妃殿下からいただいたものだ。私はこの時、生まれて初めて人を脅した。

「高潔な聖女様が人を脅してを短剣を突きつけるわけ? 聖女が邪悪なことをしたら神から見放されるわよ」

「私は聖女ですが、愛する男性を救うためならどんなことだってします」

 今までの私だったら絶対できなかったことだ。けれど、今は愛するセオドリック王太子殿下との未来を守りたい。心の底から大好きだった方と結ばれる幸せを諦めるわけにはいかない。



❁.。.:*:.。.✽.


 案内されたのは地下2階の光りも差さない牢獄のような部屋だった。二頭のまだ幼く小さなドラゴンが鎖につながれている。子ドラゴンの身体には無数の傷があり、ぞっとするくらいカビた床でぐったりとしていた。不潔な環境で何日も繋がれていて、衰弱しているのがわかる。

「なぜこれほど傷だらけなのですか?」

「あぁ、こいつらを調教しようとしたのよ。でも言うことを聞かないからムチで叩いただけよ」

 私は思わずヒルダ様の頬を思いっきり叩いた。
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