(完結)第二王子に捨てられましたがパンが焼ければ幸せなんです! まさか平民の私が・・・・・・なんですか?

青空一夏

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 一週間ほど寝込み、目覚めた時にはすっかり身体も痩せ細っていた。その間、セオドリック王太子殿下は何度もお見舞いに来てくださったけれど、カスパー第二王子殿下は一度も来なかったと聞いた。

「アンジェリーナ、心配したよ。意識が戻って本当に良かった」
 涙ぐみながら真っ先に駆けつけたのもセオドリック王太子殿下で、カスパー第二王子殿下はその四時間後にやっと姿を見せた。国王陛下夫妻はセオドリック王太子殿下のすぐ後に来てくださって、しばらくは王子妃教育も付与魔術師としての仕事もしなくて良いとおっしゃった。

「身体が第一なのよ。だから無理をしないで欲しいの。貴女を娘のように思っているのだから」
 王妃殿下は優しく抱きしめてくださった。この方達が大事にしてくださるから、私はここで生きていられる、そう思った。

 しばらく休んでやっと体力が回復した頃、騎士団の武器倉庫でいつものように、付与魔術師としての仕事をしようとしていた。でも・・・・・・体内に感じていた魔力の気配がない。魔法を使おうとしても全く反応してくれない盾や剣。 朝から晩まで、思いつく限りの魔法を発動しようとしたけれど、なにも付与することはできなかった。それが三日間続き、私は自分が普通の人間になったことを悟った。

「国王陛下、私から魔法の力が失われたようです。もうお役に立てそうもありません」
 私は正直に自分の身体に魔法の力がないことを申し上げた。王宮の王族用居間で、王族の方々皆の前で打ち明けた。

「過労で倒れたせいだろう。しばらく休んでいればきっと元に戻るさ」
 国王陛下は優しい言葉をかけてくださった。魔力が戻るまで、ウエクスラー家で静養することを提案してくださったのはセオドリック王太子殿下だった。王子妃教育が始まってからは王城に住むようになり、なかなか自宅に帰ることができなかったから、良い機会だとおっしゃった。

「あぁ、兄上。それは素晴らしい案ですね。アンジェリーナ、両親に思う存分甘えておいでよ。なぁに、すぐに魔力は戻るさ。それにしても、体力がないんだね。もっと鍛えないと駄目だよ。戻って来たら乗馬を教えてあげよう。武器倉庫や部屋にいるばかりで少しも外に出ないからだよ」
 カスパー第二王子殿下は、自分のせいで私が倒れたことをわかっているはずなのに、倒れた原因が引き籠もりがちだからと、屈託のない笑顔を向けた。

❁.。.:*:.。.✽.


 久しぶりに家に戻り父さん達の顔を見て、ずっと我慢していた涙がどっと溢れた。魔力を失っても少しも悲しくはない。ただ、家に帰れたことが嬉しかった。そうしてニケ月ほどが経ったある日、カスパー第二王子殿下がいらっしゃった。

「お前はまだ魔力が戻らないのだろう? きっと枯渇したんだな。低級魔術師にはありそうなことさ。なら、このまま戻って来るなよ。婚約解消しようぜ。俺は以前からバーキット公爵令嬢と結婚したかったのさ」

 身勝手な言葉だったけれど、悔しくも悲しくもなかった。これでやっと開放されるんだ、そう思った。元々このような縁には無理があったのだ。私はこれで平凡な人生に戻れる。

 その数日後、私は王城に呼び出された。
「アンジェリーナが婚約解消を望んでいると、カスパーから聞いた。家に戻り、ウエクスラーベーカリーを継ぎたい、という気持ちは本心かね? アンジェリーナの幸せがそれしかないと思うのなら、好きにして良いのだよ」
 国王陛下がそのようにおっしゃって、私はカスパー第二王子殿下が自分の都合の良いように事実をねじ曲げて、国王陛下に報告したのだと察した。自分から婚約解消を願ったわけではないけれど、家に帰りパン職人として生きたい、と思ったのは間違いない。だから敢えてカスパー第二王子殿下の言葉を訂正する気にはなれなかった。

「はい。お願いですから、そうしていただけると嬉しいです。魔力のない私には王子妃になる資格はありません」

「資格ならあるさ。今まで騎士団に貢献してきたし、ドラゴン問題も解決してくれたではないか」
 セオドリック王太子殿下は引き留めるような言葉をおっしゃった。でも、カスパー第二王子殿下の側にはもういたくない。

「私はパン職人になって、皆を笑顔にさせたいのです。これが私の幸せですわ」
 顔を上げて、真っ直ぐに国王陛下夫妻とセオドリック王太子殿下を見つめた。これが私の結論だ。 

「わかった。では、今まで国に尽くしてくれた褒美をとらす。いわば、退職金のようなものさ。アンジェリーナはよく働いてくれたからね」

 国王陛下のねぎらいの言葉は嬉しかったけれど、いただいたお金はいつもの孤児院に寄付しようと思った。私にはウエクスラーベーカリーがあり、愛する両親がいる。パン職人として真面目に働けば、きっと食べるのには困らないはずだ。

「さようなら、アンジェリーナ。本当に君を愛していたよ。でもね、君の望みを叶えてあげる為に、俺は身を引くことに決めたさ。元気でね」

 カスパー第二王子殿下は甘く優しい声で、私に愛のこもった言葉をかけた。それを聞いた侍女達は、カスパー第二王子殿下の高潔さを褒め称えたのだった。
  

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