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14-2 炭鉱の恐怖 またしても落ちて行く

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セオは悪夢にうなされ寝不足になったこともあるが、しばらくすればそれも慣れてきて恐怖の体験は薄らいでいく。たまにフラッシュバックのように思い出す事はあっても重労働を日々を強いられているおかげで、いつの間にか泥のように眠っていることも多くなった。

「いい加減あきらめたらどうだ? 君は死んでいてもう化粧をすることも宝石を身につけることもできない。せっかくの豪華な宝石箱や諸々の持ち物はかつての君の部屋に置かれっぱなしで誰も使わないのは勿体無いだろう?  大切に使ってくれる女性のもとに買われていったんだからお礼を言われてもいいぐらいだ。」
夢に出てきたクララに今までは消えることばかりを念じていたセオだが、次第にクララを諭すような言葉がでてくる。
それからはクララの夢にうなされることもなくなり、セオは死人なんて怖くないと思うようになった。

(実際に私を追い詰めることができるのは生きている人間だけだ。このクララの夢は幻で実体がないんだから自分が強い心を持っていれば惑わされることもないさ)
セオはそのように考えていくと、夢で見るクララの恨みごとも子守唄のように聞こえるのだった。





「最近のやつの様子はどうだ? やはり少しは反省してきたであろう?」
サラマンカ国王は現場監督に声をかけている。

「それがどうにも……かなり元気になっている様子でして、反省の色はあまり見られないです」

「ほぉ。ある意味素晴らしい精神力だな。ではもう1つの作戦かな」
サラマンカ国王は呆れるようにそう呟く。








そしてまたしても事件は起こったのである。炭鉱での作業時に大きな爆発音が起こり苦しむ仲間たちがトンネルの奥から続々とセオの方に押し寄せた。手足は血まみれで深い傷を負った仲間たちがうめき声をあげている。そのありえないほどの地獄絵図にセオは危うく吐きそうになった。


ダラダラと血を流し死にたくないとうずくまる者たちの中には、セオと親しく酒を飲み交わす者もいた。その男の名はテディ。手は肘から先がなくなり顔は土器色となって息も絶え絶えである。
「おいしっかりしろよ!  こんなとこで死ぬなよ」
この炭鉱で唯一話ができる仲間の男をセオは支えて声をかけた。

「俺はもうだめさ。今度生まれたらもうちょっとましな人間に生まれたいよ。生まれた時から孤児の俺はどこに行っても親戚中をたらい回しにされてよ。今度生まれるんだったらせめて貧乏でもいいから家族がいる家に生まれてぇよ」
弱々しく微笑み目を閉じたその男にセオの心は痛んだ。

(家族がいる家に産まれるなんて当たり前じゃないか! あいつは馬鹿だよ、そんなちっぽけな願い事を死ぬ間際に考えるなんてさ……)

そんなことを考えているといきなり自分の下の地面が抜け落ち……またしても下に下に落ちていく。


今度は一人ぼっちで真っ暗な空間の中で目が覚めたのだった。



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