(完)「あたしが奥様の代わりにお世継ぎを産んで差し上げますわ!」と言うけれど、そもそも夫は当主ではありませんよ?

青空一夏

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13-1 ラーニーの正体!

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私は貴族籍から外され平民になり文官の地位も失った。全くお金がないしそもそも職を失った私に莫大な慰謝料が払えるはずもない。
「おい、そこのあんた! あんたが国家転覆をはかった事はわかっているんだ! お世継ぎを自分の子供にさせようといろいろ画策していたと聞いている。そのような重い罪は自動的に強制労働に処される。鉱山巡りの旅へようこそ! 何周できるかな?」
私はその王家の罪人監督責任者の言葉が理解できない。

「国家転覆なんて全く考えていなかったんだ! あの馬鹿な女が勝手に言い間違いをしただけなんだ。なんてことだ! これじゃぁ罪のでっち上げじゃないか!」

「なんとでもでも言うがいいさ。バッテンベルク侯爵家を敵に回したんだろう? あの方は国王陛下の親友でもいらっしゃる。いわゆるご学友と言うやつさ。あんな大物のお嬢様を泣かすような真似をして、あんた度胸あるよな?」

ーー度胸があるわけじゃない。ただ、ほんの出来心なんだ。イレーヌを捨てようと思ったわけでもないしシェリルと結婚しようと思ったわけでもない。男なら誰でもあることじゃないか! ちょっとした浮気ぐらいでなんでこんな大事になるんだ!

私は納得できない思いで船に乗せられた。
「ちょっと待てよ! なんで船に乗るんだよ!」

「あぁ、あんたは隣国の最も環境が悪い鉱山に行くんだよ! 隣国の国王陛下もお前を憎んでいる」
私は意味がますますわからない。なんで隣国の王にまで憎まれるんだよ!

長い船旅は精神的に私を追い詰めた。船では客ではなく乗組員として扱われ、デッキの掃除や雑用をさせられた。

「掃除ぐらいできねぇのかよ! モップの使い方がなっちゃいねぇなぁ。元お貴族様だかなんだかしんねえけどよぉ。ちゃんと働かないとサメの餌にしちまうぜ」
ぎゃははは、と笑いあう下品な船乗りたちに小突き回されてプライドはズタズタだ。

激しい船の揺れに一日中吐きながら仕事をする。強い日差しは海面を反射してギラギラと私に挑みかかる。肌は赤く腫れてやけどのように細かな水泡になった。寝ていられないほどの痛みに悲鳴をあげればうるさいと頭を叩かれる。

船の掃除と雑用、肌は火傷を負い少年のような幼い乗組員にまで馬鹿にされる日々……

ーーちょっと待てよ……これってまだ鉱山にもついていないのにすでに地獄じゃないか! 

私は船の上から唯一美しく見える夜空を見上げた。このような逆境に立たされても空には星が美しく瞬き、月は優しげな光を放ち私に降り注いでいた。貴族であった時贅沢三昧したその頃に見た星と何ら変わらないのに、私の状況だけが180度変わっている。

シェリルが悪い!ポワゾン家に乗り込んでくるなんて身の程知らずなあの女のせいなんだ! あの女さえなければ私は文官の出世コースでゆくゆくはバッテンベルク侯爵になり人々に尊敬され贅沢三昧できたはずなのに。途中までうまくいっていたはずの自分の人生はあのシェリルに一瞬で壊された。

もしまたあの女に会うことができたならきっとこの恨みは晴らしてやろう、私はそう心に決めたのだった。

辛い船旅が2週間も続きやっと隣国のサラマンカ王国に着くと、なんと国王陛下がお出迎えになられて私にこういった。

「私の娘の親友を泣かせたのはお前なのか! 」

ーー何を言ってるんだよこの国王は! さっぱり意味がわからないよ。娘って誰のこと言ってるんだ?

「わからないのか? まぁ無理もあるまい。これは機密事項だったからな。ラーニーの母親クララはワシが側妃に産ませた娘だ。正妃のヤキモチが酷くてなぁ。隣国に逃してそこで産ませたのがクララだ。側妃はまもなく亡くなってしまったが、クララが不憫でずっと見守っていた。不思議には思わなかったのか?クララは隣国では伯爵家の養女となっていたが、あの子の嫁入り道具は王家の姫並みに豪華だったろう?」

「まさか……」

「もちろん知っていたとも! お前がクララの嫁入り道具として持ってきた小物を密かに質屋で売りさばいていたことは。クララの持ち物には全てサラマンカ王国の刻印が記してあった。そのようなことをすればすぐにワシの耳に入ってくるわい! お前は兄嫁のクララが亡くなったのをいいことにクララのものを散々くすねていただろう? ラーニーからもいろいろ聞いているよ。お前の卑怯さと汚さ。反吐が出るぞ!」

「まさか……ジャクソン兄上はクララがサラマンカ王国の王家の血筋などとは知らなかったはずだ。……ラーニーから聞いているって……サラマンカ国王陛下はラーニーと面識はないはずでしょう?」

「ラーニには会った事はないが手紙は何度もやり取りしておるよ。クララが連れてきた専属侍女はポワゾン家に残りラーニーの専属侍女としているであろう? あれは私が手配したものだ。ラーニーはお前をクズだと言っていたぞ!」

ーーまじか……あのくそがきがサラマンカ王国の王家の血筋?

「可愛い孫の希望でもある。お前には最高のおもてなしをしてやろうなぁ」
ニヤリと笑うサラマンカ国王に私は恥ずかしながら失禁したのだった。
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