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9 ほんの出来心だったのに(セオ視点)
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小突かれるようにして連れていかれたのは本邸のサロンで、兄上2人とイレーヌ、さらには小生意気なラーニーもいたのだった。
「さぁ、私のかわいい娘の前でその女にどれほど貢いだのかを聞かせてもらおうか?」
「私はこの女に騙されただけです。言い寄られて断りきれず、つい魔がさしただけなんです。本当に愛しているのはイレーヌだけなんです」
「嘘に嘘を重ねる事はやめるんだ。おとなしく聞かれたことに答え慰謝料を払ってきっぱりと離縁してもらう。文官の仕事も辞めてもらうしかない。極めて平凡な君がなぜ管理職になれたと思う? 私の義理の息子だからに他ならない」
長官は恐ろしく低い怒りに満ちた声で私にそう言った。
「私は一生懸命仕事をしていました。イレーヌも大事にしていましたし、結果も出せていたはずです。その言い方はあまりに酷くありませんか?」
「結果を出したのは君の部下だ。君は優秀な部下のおかげで結果がだせていただけだよ。君自身が考えた企画は1つもなかったし、実際それを成し遂げたのも部下達だろう?」
「……それは、その言い方はあんまりだ。……部下の手柄は上司である私の手柄じゃないですか! 私が優秀だから部下が頑張れたんです」
私は膝から崩れ落ちて目からは涙があふれた。
「すみません!あたしがそれを答えたら許してもらえますか? もうセオとは別れますから! イレーヌ様のお父様が長官だなんて、あたしは少しも知らなかったんです! 貧乏平民出身の奥さんって聞いていました」
シェリルが突然話に割って入った。この女は可愛いけれどタイミングが悪すぎる。
「そうだな。全面的に許すことはできないが、全部洗いざらい話してくれるのなら慰謝料の額を少し減額しよう」
長官はシェリルにそう言った。
シェリルは嬉々として話し始めた。
「買ってもらったものはここに持ち込んだ古い家具を除くほとんど全てのものです。ドレスや宝石などは全てセオに買ってもらいました。デートも有名なレストランに行き、豪華なホテルに何回も泊まりました。彼は見えっ張りだったから連れて行ってくれるところはみんな贅沢な一流店ばかりでした……借りていた家の家賃もセオが出してくれました。金払いはとても良くて、すごくお金持ちなんだなと思っていました」
「やめるんだ! それ以上言わないでくれ」
私はその言葉とともにシェリルの頬を殴っていたのだった。
「うわっ! 他人のおじちゃん! 女の子を殴っちゃっいけないって教わらなかったの?」ラーニーの言葉が僕を責める。
「なんであたしを殴るのよ? 本当のことを言っただけでしょう? あ、ついでにセオの口癖も教えてあげなければいけないわね。セオの口癖は『いくらお金がかかっても構わないから』です。例えばこんなふうに使うんです。『極上のワインを持ってきてくれないか?いくらお金がかかっても構わないから』って。こんなふうに彼は得意げに言うのが好きでした」
「ほぉ? いいご身分だな。イレーヌに生活費も渡さずこの屋敷に居候しているにもかかわらず家賃も食費も払わず、そのように豪遊していたとは浅ましいにもほどがある。お前には本当に呆れたよ。兄としてお前をかばう事は少しもできない。バッテンベルク侯爵様、この弟をどのような罰にでもしてください」
普段は優しいジャクソン兄上は、烈火のごとく怒っていた。
「賛成ですね。私もこの弟を庇うことはできない。厳罰に処した方が良いでしょう。男として最低な人間だと思いますよ」
グレイソン兄上は私を毛虫でも見るような目つきで見ている。
「まずはだ、職場で不倫をしていた事は降格、左遷事由に値する。この場合は特に悪質なので解雇事由にしたいと思う。そして慰謝料だが、今までイレーヌが結婚生活において使った金額+精神的苦痛+この不倫に対する慰謝料、そのような諸々の合計金額がセオ君の負担になる。一生鉱山で働かないと無理だな。貴族籍だが、何やら国家転覆を図っていたらしいから国王陛下にご報告申し上げ除籍ということにしてもらう。お世継ぎを妊娠させたのだろう? セオ君の子供をお世継ぎにするつもりだったように聞こえる。しかもその女はバッテンベルク家も乗っ取ろうとした発言があったと聞く。そのような危険人物は貴族の籍には置いておけない」
まさか不倫ぐらいでこんなことになるなんて。うまくごまかせると思っていたんだ。世間知らずのイレーヌは疑うことを知らないし、彼女といればお金を貯めなくても全く心配なかった。自分の給料は全て自分の小遣いで使いたい放題だった。ところがこのようなことになってしまった今、これからの生活はきっと地獄だ。
誰か助けてくれよ! こんなはずじゃなかったんだ。魔がさすことなんて誰だってあるだろう? 女の前でちょっといい格好したいことだってあるじゃないか? 誰だってやってることなんだ!
鉱山で肉体労働なんて……地獄だ……
「さぁ、私のかわいい娘の前でその女にどれほど貢いだのかを聞かせてもらおうか?」
「私はこの女に騙されただけです。言い寄られて断りきれず、つい魔がさしただけなんです。本当に愛しているのはイレーヌだけなんです」
「嘘に嘘を重ねる事はやめるんだ。おとなしく聞かれたことに答え慰謝料を払ってきっぱりと離縁してもらう。文官の仕事も辞めてもらうしかない。極めて平凡な君がなぜ管理職になれたと思う? 私の義理の息子だからに他ならない」
長官は恐ろしく低い怒りに満ちた声で私にそう言った。
「私は一生懸命仕事をしていました。イレーヌも大事にしていましたし、結果も出せていたはずです。その言い方はあまりに酷くありませんか?」
「結果を出したのは君の部下だ。君は優秀な部下のおかげで結果がだせていただけだよ。君自身が考えた企画は1つもなかったし、実際それを成し遂げたのも部下達だろう?」
「……それは、その言い方はあんまりだ。……部下の手柄は上司である私の手柄じゃないですか! 私が優秀だから部下が頑張れたんです」
私は膝から崩れ落ちて目からは涙があふれた。
「すみません!あたしがそれを答えたら許してもらえますか? もうセオとは別れますから! イレーヌ様のお父様が長官だなんて、あたしは少しも知らなかったんです! 貧乏平民出身の奥さんって聞いていました」
シェリルが突然話に割って入った。この女は可愛いけれどタイミングが悪すぎる。
「そうだな。全面的に許すことはできないが、全部洗いざらい話してくれるのなら慰謝料の額を少し減額しよう」
長官はシェリルにそう言った。
シェリルは嬉々として話し始めた。
「買ってもらったものはここに持ち込んだ古い家具を除くほとんど全てのものです。ドレスや宝石などは全てセオに買ってもらいました。デートも有名なレストランに行き、豪華なホテルに何回も泊まりました。彼は見えっ張りだったから連れて行ってくれるところはみんな贅沢な一流店ばかりでした……借りていた家の家賃もセオが出してくれました。金払いはとても良くて、すごくお金持ちなんだなと思っていました」
「やめるんだ! それ以上言わないでくれ」
私はその言葉とともにシェリルの頬を殴っていたのだった。
「うわっ! 他人のおじちゃん! 女の子を殴っちゃっいけないって教わらなかったの?」ラーニーの言葉が僕を責める。
「なんであたしを殴るのよ? 本当のことを言っただけでしょう? あ、ついでにセオの口癖も教えてあげなければいけないわね。セオの口癖は『いくらお金がかかっても構わないから』です。例えばこんなふうに使うんです。『極上のワインを持ってきてくれないか?いくらお金がかかっても構わないから』って。こんなふうに彼は得意げに言うのが好きでした」
「ほぉ? いいご身分だな。イレーヌに生活費も渡さずこの屋敷に居候しているにもかかわらず家賃も食費も払わず、そのように豪遊していたとは浅ましいにもほどがある。お前には本当に呆れたよ。兄としてお前をかばう事は少しもできない。バッテンベルク侯爵様、この弟をどのような罰にでもしてください」
普段は優しいジャクソン兄上は、烈火のごとく怒っていた。
「賛成ですね。私もこの弟を庇うことはできない。厳罰に処した方が良いでしょう。男として最低な人間だと思いますよ」
グレイソン兄上は私を毛虫でも見るような目つきで見ている。
「まずはだ、職場で不倫をしていた事は降格、左遷事由に値する。この場合は特に悪質なので解雇事由にしたいと思う。そして慰謝料だが、今までイレーヌが結婚生活において使った金額+精神的苦痛+この不倫に対する慰謝料、そのような諸々の合計金額がセオ君の負担になる。一生鉱山で働かないと無理だな。貴族籍だが、何やら国家転覆を図っていたらしいから国王陛下にご報告申し上げ除籍ということにしてもらう。お世継ぎを妊娠させたのだろう? セオ君の子供をお世継ぎにするつもりだったように聞こえる。しかもその女はバッテンベルク家も乗っ取ろうとした発言があったと聞く。そのような危険人物は貴族の籍には置いておけない」
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誰か助けてくれよ! こんなはずじゃなかったんだ。魔がさすことなんて誰だってあるだろう? 女の前でちょっといい格好したいことだってあるじゃないか? 誰だってやってることなんだ!
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