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2 まだ子供だと思っていたけれど頼もしいラーニー様
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「あなた達は……あぁ、わかった! セオは次男を離れに住まわせてやってるって言ってたっけ。だったら、この生意気な子供とその偉そうな男は次男親子ね。そんな身の程知らずはセオに言って注意してもらわなきゃいけないわ」
シェリルは大いなる勘違いをしたままだ。
「セオに私に注意をしろと言うつもりなのか? 興味深い話だな」
ジャクソン様が鼻で笑った。
「ふん! また偉そうにしているわっ! そうだ! ついでにあなた達親子も出て行ってよ。ここはセオが跡を継ぐんだからお情けで置いてあげている侯爵のスペアなんて不必要よ! だって、あたしがもう跡継ぎを妊娠してあげているのだから」
シェリルは蔑んだ眼差しでジャクソン様をにらみつけた。
「お父様! こいつは頭がおかしいと思うなぁ。僕が木刀で数回頭を叩きましょうか? それと、お前! 僕がいる限りお前なんかの好き勝手になると思うな!」
ラー二ー様はアッカンベーをして見せるが、その様子が可愛らしくてつい笑ってしまった。
「本当に生意気な子ね! 絶対にお前なんか追い出してやるからね! それとイレーヌ様も将来の侯爵夫人のあたしを笑ってばかにして、きっと後悔しますよっ!」
「後悔するのはお前の方だ! 早く帰れ! またトレーニングソード(木剣)で叩いてやるぞ!」
ラーニー様はプンプンと怒り頬を膨らませた。
「ラーニー、そのような愚かな者でも一応女性だ。叩いてはいけないよ。私が叩きたいのはセオだ。連絡して早く帰らせるとするか。これは皆で話し合うべき問題のようだ。早々に仕事を切り上げ帰って来るように伝えさせよう」
そうおっしゃるとジャクソン様は鈴を振り侍従を呼びつけた。
「『ポワゾン侯爵の跡継ぎを妊娠した女が屋敷を訪れ、この私ジャクソン・ポワゾンとその息子に出て行けと言っている』とセオに伝言を頼む」
ジャクソン様は侍従にそう告げると、王宮にいるセオの元に向かわせた。
空が茜に色づきはじめる前の太陽は、沈む間際の焦りを見せたかのようギラギラと照りつけていた。私はその強い西日に、今日ほど喉の渇きを覚えたことはない。
「 グレイソン様がお帰りになりました。」執事が私たちに報告に来ると、まもなく次男のグレイソン様がやってきた。グレイソン様は王立騎士団の副団長様で、あと数年勤め上げたらここポワゾン侯爵家の護衛騎士団長になる予定の方だった。この方は離れに住んでおり婚約者もいて来年結婚式を控えていた。
「ただいま、帰りました。いったいこんな狭い第2応接室で皆が集まって何をやっているのです? おや、来客中でしたか? ところでこの女性はどちらのご令嬢ですか?」
「やだ! また変な男が増えちゃったじゃない! あんたこそ誰よ? あたしはポワゾン侯爵家の嫡男セオの恋人よ。お腹の中にはポワゾン侯爵家の跡継ぎがいるんだから」
「……へぇ? これはなにか不思議な世界に迷い込んだようだ」
グレイソン様はおかしそうに笑いながらも小首を傾げ、私に気の毒そうな眼差しを向けた。いたたまれない思いですっと視線をはずしうつむいた私は小さな溜息をついた。
私の肩にそっと手をおいたジャクソン様は励ますように微笑み、ラーニー様は私に抱きついてつぶやく。
「大丈夫だよ。そんな顔をしないで! 僕とお父様がやっつけてあげるからね」
ーーラーニー様はまだ子供だ。この状況をどれだけ理解しているのかわからないけれど、私が追い出されることを心配してくれているのだわ。優しい子。私もずっとラーニー様の側にいたいわ……
☆彡★彡☆彡
それからしばらくして、セオが王宮から戻り慌てて応接室に飛び込んで来た瞬間、ラーニー様が立ち上がりセオに向かって叫んだ。
「セオ叔父ちゃん! お前はもう叔父ちゃんなんかじゃないぞ! イレーヌを虐める女と出て行けっ! セオ叔父ちゃんは三男でポワゾン侯爵家には要らない子だもん。イレーヌを置いて出て行きなよっ!」
ピシッとひとさし指をセオに突きつけて可愛らしい声で凄んだのだった。
シェリルは大いなる勘違いをしたままだ。
「セオに私に注意をしろと言うつもりなのか? 興味深い話だな」
ジャクソン様が鼻で笑った。
「ふん! また偉そうにしているわっ! そうだ! ついでにあなた達親子も出て行ってよ。ここはセオが跡を継ぐんだからお情けで置いてあげている侯爵のスペアなんて不必要よ! だって、あたしがもう跡継ぎを妊娠してあげているのだから」
シェリルは蔑んだ眼差しでジャクソン様をにらみつけた。
「お父様! こいつは頭がおかしいと思うなぁ。僕が木刀で数回頭を叩きましょうか? それと、お前! 僕がいる限りお前なんかの好き勝手になると思うな!」
ラー二ー様はアッカンベーをして見せるが、その様子が可愛らしくてつい笑ってしまった。
「本当に生意気な子ね! 絶対にお前なんか追い出してやるからね! それとイレーヌ様も将来の侯爵夫人のあたしを笑ってばかにして、きっと後悔しますよっ!」
「後悔するのはお前の方だ! 早く帰れ! またトレーニングソード(木剣)で叩いてやるぞ!」
ラーニー様はプンプンと怒り頬を膨らませた。
「ラーニー、そのような愚かな者でも一応女性だ。叩いてはいけないよ。私が叩きたいのはセオだ。連絡して早く帰らせるとするか。これは皆で話し合うべき問題のようだ。早々に仕事を切り上げ帰って来るように伝えさせよう」
そうおっしゃるとジャクソン様は鈴を振り侍従を呼びつけた。
「『ポワゾン侯爵の跡継ぎを妊娠した女が屋敷を訪れ、この私ジャクソン・ポワゾンとその息子に出て行けと言っている』とセオに伝言を頼む」
ジャクソン様は侍従にそう告げると、王宮にいるセオの元に向かわせた。
空が茜に色づきはじめる前の太陽は、沈む間際の焦りを見せたかのようギラギラと照りつけていた。私はその強い西日に、今日ほど喉の渇きを覚えたことはない。
「 グレイソン様がお帰りになりました。」執事が私たちに報告に来ると、まもなく次男のグレイソン様がやってきた。グレイソン様は王立騎士団の副団長様で、あと数年勤め上げたらここポワゾン侯爵家の護衛騎士団長になる予定の方だった。この方は離れに住んでおり婚約者もいて来年結婚式を控えていた。
「ただいま、帰りました。いったいこんな狭い第2応接室で皆が集まって何をやっているのです? おや、来客中でしたか? ところでこの女性はどちらのご令嬢ですか?」
「やだ! また変な男が増えちゃったじゃない! あんたこそ誰よ? あたしはポワゾン侯爵家の嫡男セオの恋人よ。お腹の中にはポワゾン侯爵家の跡継ぎがいるんだから」
「……へぇ? これはなにか不思議な世界に迷い込んだようだ」
グレイソン様はおかしそうに笑いながらも小首を傾げ、私に気の毒そうな眼差しを向けた。いたたまれない思いですっと視線をはずしうつむいた私は小さな溜息をついた。
私の肩にそっと手をおいたジャクソン様は励ますように微笑み、ラーニー様は私に抱きついてつぶやく。
「大丈夫だよ。そんな顔をしないで! 僕とお父様がやっつけてあげるからね」
ーーラーニー様はまだ子供だ。この状況をどれだけ理解しているのかわからないけれど、私が追い出されることを心配してくれているのだわ。優しい子。私もずっとラーニー様の側にいたいわ……
☆彡★彡☆彡
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「セオ叔父ちゃん! お前はもう叔父ちゃんなんかじゃないぞ! イレーヌを虐める女と出て行けっ! セオ叔父ちゃんは三男でポワゾン侯爵家には要らない子だもん。イレーヌを置いて出て行きなよっ!」
ピシッとひとさし指をセオに突きつけて可愛らしい声で凄んだのだった。
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