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4 夫の相手は……
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今日の私は夫の部署に行ってみて、観察すると決めていた。夫の働きぶりの再確認をしてみたかったからだ。
私は朝の八時に副総責任者の執務室に向い、まずは簡単な書類に目を通して部下達から報告を受ける。会議を手早く三つほどこなし時計を見て夫の部署に移動する。
時間は10:30なのに夫はまだ事務所に来ていなかった。11時少し前に、やっと夫は姿を見せしばらく働いていたが、12時ぴったりに外に出て行こうとした。
「ライアン、事務所でお昼を食べないの?」
私の問いかけに、
「一日中、事務所にいたら気が滅入るからね。外食してくるよ」
と、言って出て行ってしまった。
戻ってきたのは午後の二時近く。小一時間ほど、はんこを眠そうに押して3時10分に帰っていった。
「ほら、今日は4時まで働いたからね!」
やりきった感いっぱいの顔で事務所から颯爽と帰っていった。
私は、経理課の従業員に尋ねた。
「ライアンはいつもああなの?」
「はい、ああです」
「むしろ、今日はマシなほうです。いつもはオダリス様がいないので、そんな時は午後は事務所に戻ってこないこともよくあります」
えぇ? そんな勤務態度で月50万バギーは安いなどと言ったわけ?
お父様も私も、ライアンの好き放題させすぎた。カールストン男爵家の事業運営を行う建物は屋敷から10分ほどの場所にある大きな3階建ての建物だ。私とお父様の執務室は3階にあり、ライアンの経理課の事務所は1階のつきあたり。滅多に行かないし、経理課の従業員も大事な婿殿の悪口は私達には言ってこない。
「あんな男……いらない……」
私が漏らした言葉を聞いた従業員達が、『ですね』と口々につぶやいたのだった。
ꕤ୭*
罠をしかけた最初の日が迫ってくるなか、ライアンが私に質問をしてきた。
「ねぇ、オダリスのお祖母様って何人いるの?」
私はその質問にピンときた。
「何人もいますわ。私の両親のお母様達はお祖母様ですが、幼い頃から修道院のシスター達とも交流があって、あの方達も広い意味で『おばぁ様』と呼んでおります。どうかしまして?」
「いや、なんでもないよ。気にしないで」
気にしないでって言われても、ここまでくるとワクワク感しか感じない。
いよいよ4月1日になり……この日はライアンは屋敷にいた。2日、3日といて通常どおり。この時点でカサンドラ様は白ですわ。このゴタゴタが片付いたら、なにか珍しい美味しい物でも持っていって一緒に食べましょう。疑ったお詫びだわ。
そうして4月4日になり、この日は屋敷に戻らなかった。ヴァネッサ・エイジャ侯爵夫人が怪しい。ライアンは4,5,6日と屋敷に戻ることはなかったからだ。
7日目に戻ってきたライアンは私に、
「3日間、帰ってこなかったね。お疲れ様。お祖母様の具合はどう?」と、言ってきた。
私が悲しそうに顔を歪めると、
「手の怪我ぐらいで深刻になるなよ。すぐ治るだろう?」と、言った。
あぁ、やっぱりおバカさんってペラペラとしゃべってくれるのね。
そうして基本私はこの作戦中は本邸に泊まるようにし、ライアンが戻ってきたという侍女の報告を待って別邸に行くことにした。なぜって? だって……多分相手は複数なのでしょうからねぇ。
4月8日からの2日間も外泊だったが、今回はなにもライアンは言ってこなかった。
「あぁ、なにか目が痛いわ。どうしたのかしら?」
私が大きな声で叫ぶと、ライアンはあっさり自白した。
「大丈夫かい? オダリスも、目を患ったら大変だよ」
ヴァネッサとエリザベスの二人か……と思っていたら15日からの3日間も外泊。結果は合計3人となった。
確かに、あの手紙の文面で怪しいのはこの15日からの女だった。でもこんなことになる前までは、信頼して相談もしていた相手だ。なので、余計に怒りがフツフツとこみ上げてきた!
さてと、どうやって料理しましょうか? まずは、関係者全員を晩餐会に招待しましょう。
▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃
1バギー=1円
※宣伝です。不快な方は飛ばしてください。
第4回ライト文芸大賞エントリー作品「愛を教えてくれた人」
多動性発達障害気味の子供が有名画家の叔母に引き取れられ、才能を開花させる夢のあるお話です。途中、毒親や毒教師なども出てきますが、恋もあり涙もある物語です。
宜しければ、お読みいただくと嬉しいです。
私は朝の八時に副総責任者の執務室に向い、まずは簡単な書類に目を通して部下達から報告を受ける。会議を手早く三つほどこなし時計を見て夫の部署に移動する。
時間は10:30なのに夫はまだ事務所に来ていなかった。11時少し前に、やっと夫は姿を見せしばらく働いていたが、12時ぴったりに外に出て行こうとした。
「ライアン、事務所でお昼を食べないの?」
私の問いかけに、
「一日中、事務所にいたら気が滅入るからね。外食してくるよ」
と、言って出て行ってしまった。
戻ってきたのは午後の二時近く。小一時間ほど、はんこを眠そうに押して3時10分に帰っていった。
「ほら、今日は4時まで働いたからね!」
やりきった感いっぱいの顔で事務所から颯爽と帰っていった。
私は、経理課の従業員に尋ねた。
「ライアンはいつもああなの?」
「はい、ああです」
「むしろ、今日はマシなほうです。いつもはオダリス様がいないので、そんな時は午後は事務所に戻ってこないこともよくあります」
えぇ? そんな勤務態度で月50万バギーは安いなどと言ったわけ?
お父様も私も、ライアンの好き放題させすぎた。カールストン男爵家の事業運営を行う建物は屋敷から10分ほどの場所にある大きな3階建ての建物だ。私とお父様の執務室は3階にあり、ライアンの経理課の事務所は1階のつきあたり。滅多に行かないし、経理課の従業員も大事な婿殿の悪口は私達には言ってこない。
「あんな男……いらない……」
私が漏らした言葉を聞いた従業員達が、『ですね』と口々につぶやいたのだった。
ꕤ୭*
罠をしかけた最初の日が迫ってくるなか、ライアンが私に質問をしてきた。
「ねぇ、オダリスのお祖母様って何人いるの?」
私はその質問にピンときた。
「何人もいますわ。私の両親のお母様達はお祖母様ですが、幼い頃から修道院のシスター達とも交流があって、あの方達も広い意味で『おばぁ様』と呼んでおります。どうかしまして?」
「いや、なんでもないよ。気にしないで」
気にしないでって言われても、ここまでくるとワクワク感しか感じない。
いよいよ4月1日になり……この日はライアンは屋敷にいた。2日、3日といて通常どおり。この時点でカサンドラ様は白ですわ。このゴタゴタが片付いたら、なにか珍しい美味しい物でも持っていって一緒に食べましょう。疑ったお詫びだわ。
そうして4月4日になり、この日は屋敷に戻らなかった。ヴァネッサ・エイジャ侯爵夫人が怪しい。ライアンは4,5,6日と屋敷に戻ることはなかったからだ。
7日目に戻ってきたライアンは私に、
「3日間、帰ってこなかったね。お疲れ様。お祖母様の具合はどう?」と、言ってきた。
私が悲しそうに顔を歪めると、
「手の怪我ぐらいで深刻になるなよ。すぐ治るだろう?」と、言った。
あぁ、やっぱりおバカさんってペラペラとしゃべってくれるのね。
そうして基本私はこの作戦中は本邸に泊まるようにし、ライアンが戻ってきたという侍女の報告を待って別邸に行くことにした。なぜって? だって……多分相手は複数なのでしょうからねぇ。
4月8日からの2日間も外泊だったが、今回はなにもライアンは言ってこなかった。
「あぁ、なにか目が痛いわ。どうしたのかしら?」
私が大きな声で叫ぶと、ライアンはあっさり自白した。
「大丈夫かい? オダリスも、目を患ったら大変だよ」
ヴァネッサとエリザベスの二人か……と思っていたら15日からの3日間も外泊。結果は合計3人となった。
確かに、あの手紙の文面で怪しいのはこの15日からの女だった。でもこんなことになる前までは、信頼して相談もしていた相手だ。なので、余計に怒りがフツフツとこみ上げてきた!
さてと、どうやって料理しましょうか? まずは、関係者全員を晩餐会に招待しましょう。
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