上 下
14 / 32

14 やっぱりトンカツを食べたかったカール / 転生者かもしれないメルラ

しおりを挟む
「それでは、メルラは我慢してちょうだい。3時のおやつは使用人達全員に行き届くように用意しますわね。そうしたら特別扱いではないわ」
 私はメイドや侍女達を見ながら、にっこりした。

「わぁーー!! 嬉しいです」
「おやつが食べられるなんて夢みたい」
「エメラルド奥様は優しくて綺麗で、最高の女性ですわ」

 使用人達が嬉しそうに感謝の言葉を口にするなかで、メルラだけが不平不満をつぶやいた。

「ひどぉ~~い。ここに余ったトンカツがあって、お腹をすかせた私がいるのですから、需要と供給がちょうどバランス良く整ったってことでしょう? それを我慢しろ、なんて酷すぎます!」

「うるさいなぁ! 新入りのメイドのくせにエメラルド奥様に口答えなんて身の程知らずだよ」

 料理長アーバンがトンカツを食べる手をいったん止めて、渋い顔をしながらメルラにお説教を始めた。

「そんなにその余ったトンカツが、争いのタネになるのなら私がいただきますよ。朝食用にとっておきます。朝はがっつり食べる主義ですからね」

 カールがあっという間に料理を持って、いそいそと奥へ消えた。やっぱり食べたかったのね? わかるわ、その気持ち。全く素直じゃないのだから。

「カール! トンカツは冷めてもパンのあいだに挟んだら美味しく食べられますからね。キャベツもそこに入れるとまた格別ですよ」
「了解です」

 廊下からカールの弾む声が聞こえる。トンカツを楽しみにしているのがわかって、こちらも嬉しくなり思わず笑みが漏れた。

「私もお代わりがしたかったのに・・・・・・」

 旦那様はしょんぼりと肩を落とした。なんだか子供みたいだわ。

「しまった! つば、つけとけば良かったなぁ」

 料理長アーバンもぼやく。それはやらなくて良かったと思うわ。だってマナー違反だし、料理長がそれをしたらエリアス侯爵家の恥になるものね。

「トンカツはまたいつでも作ることができますわ。もう少し食べたいぐらいがちょうど良いのです。ほら、旦那様には私のトンカツを一切れ差し上げます」
「いや、エメラルドが食べなさい。君が美味しそうに食べている方が私は嬉しい」

 旦那様は案外、優しいところがあるみたい。ただ、やはり美形すぎて私の好みではない。

「ちょっとぉ~~、なんのよぉ~~。なんで皆、メルラじゃなくてトンカツに夢中なのよぉ~~」

 トンカツという単語を当たり前のように言ったメルラ。この娘も、もしかしたら転生者なのかもしれない。



୨୧⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒୨୧

「Ⅱ小説登場人物の為のイラストギャラリー」の13話にエメラルドとエリアス侯爵のコラージュを投稿しました。よろしければご覧ください🙇‍♀️ 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

バイバイ、旦那様。【本編完結済】

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
妻シャノンが屋敷を出て行ったお話。 この作品はフィクションです。 作者独自の世界観です。ご了承ください。 7/31 お話の至らぬところを少し訂正させていただきました。 申し訳ありません。大筋に変更はありません。 8/1 追加話を公開させていただきます。 リクエストしてくださった皆様、ありがとうございます。 調子に乗って書いてしまいました。 この後もちょこちょこ追加話を公開予定です。 甘いです(個人比)。嫌いな方はお避け下さい。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

(完結)魔力量はマイナス3000点! 落ちこぼれの私が大魔法使いの嫁に選ばれました。全6話

青空一夏
恋愛
ここは魔法大国バルドゥアル。私はこの国のナソーラ侯爵令嬢のソフィア。身分が高い貴族達は大抵、魔法が使える。けれど私には魔力が全くなかった それどころか、15歳の頃に測定された魔力量は、100点満点のまさかのマイナス3000点。つまり魔力量がないばかりか、他人の魔力を弱めてしまうという見事な落ちこぼれぶりだった。 当然、両親のナソーラ侯爵夫妻は私を恥に思い、妹のサーシャを可愛がり優先した。 これはそんな落ちこぼれ令嬢の私が、なんと世界一高名な魔法使いの嫁になって・・・・・・ ※いつものかんじのゆるふわ設定です ※天然キャラヒロインの無自覚ざまぁ??? ※辛い状況なのにへこたれない雑草魂ヒロイン? ※明るい雰囲気のお話のはず? ※タグの追加や削除の可能性あります、路線変更もあるかも ※6話完結です ※表紙は作者作成のAIイラストです。

私をもう愛していないなら。

水垣するめ
恋愛
 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。  空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。  私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。  街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。  見知った女性と一緒に。  私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。 「え?」  思わず私は声をあげた。  なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。  二人に接点は無いはずだ。  会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。  それが、何故?  ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。  結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。  私の胸の内に不安が湧いてくる。 (駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)  その瞬間。  二人は手を繋いで。  キスをした。 「──」  言葉にならない声が漏れた。  胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。  ──アイクは浮気していた。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

(完結)(R15)婚約者様。従姉妹がそんなにお好きならそちらでどうぞお幸せに!

青空一夏
恋愛
 私はオリーブ・ハーパー。大きな商会を経営するハーパー家の娘だ。私には初恋の相手がおり、それはシュナイダー伯爵令息だった。  彼は銀髪アメジストの瞳のとても美しい男の子だった。ハーパー家のパーティに来る彼に見とれるけれど挨拶しかできない私は、パーティが苦手で引っ込み事案の気が弱い性格。  私にはお兄様がいていつも守ってくれたのだけれど、バートランド国のノヴォトニー学園に留学してしまい、それからはパーティではいつも独りぼっちだ。私は積極的に友人を作るのが苦手なのだ。  招待客には貴族の子供達も来て、そのなかには意地悪な女の子達がいて・・・・・・守ってくれるお兄様がいなくなった途端その子達に囲まれて、私は酷い言葉を言われる。  悔しくて泣いてしまったけれど、あの男の子が助けに来てくれた。  彼はとても物知りで本が大好きだった。彼の美しさはもちろん好きだけれど、私はそれ以上に彼の穏やかな口調と優しい瞳、思いやりのある性格が大好きになった。彼に会えるのなら苦手なパーティだって楽しみ。  けれど、お父様がトリーフォノ国に新しく商会をつくるというので、私はこのアンバサ国を離れることになった。ちなみにアンバサ国はバートランド国とトリーフォノ国に挟まれている。  私はそれから5年後アンバサ国に戻り、初恋の彼の婚約者になることができた。でも彼は以前と違って・・・・・・ ※異世界のお話で、作者のご都合主義で展開します。 ※ざまぁはR15です。 ※あくまで予定でありタグの変更・追加や軌道修正がはいる場合があります。 ※表紙はフリー画像(pixabay)を使用しています。

【完結】悪役令嬢が起こした奇跡〜追放されたのに皆様がわたくしを探しているらしいですわ〜

ウミ
恋愛
 精霊の愛子が現れた。教会が権力を持ち始めていた時代、ルビーはそれを止めるために精霊の愛子が真名を名乗るのを防ぐ。しかし、婚約者だった皇子は精霊の愛子と結婚しようとし、ルビーは側室になれと父から命じられた。  父に認められるために、血反吐を吐くほど努力して勝ち取った座を、ルビーの苦労を父は最も簡単に投げ捨てたのだった。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

処理中です...