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1 ますますジャックに恋をする乙女なアイラーー思わせぶりなジャック

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ジャスミン子爵夫人ルビーは、このジャックの容姿をいたく気に入り執事の見習いとして教育することに決めた。

「これほど美しい男の子を執事とすればジャスミン家の格もあがるというものだわ。なにしろルワンガ国では、見目の麗しい従者や執事は家名をあげますからね! 私かリリーの専属執事にしてもいいし、将来が楽しみだわ」
ルビーは社交界で自慢できる磨く前の原石が手に入ったと喜んだ。

「庭師の子供とは思えない器量だし利発そうだ。きちんと教育すれば問題あるまい」
ルビーの言葉に当主のアルフィーも頷く。

この貴族社会では金や地位と同じくらいに容姿の美しさも重要であった。
その為アイラと同じ歳のジャックは執事見習いとして剣や魔法の訓練、マナーや語学の講座など共に修練していくとても身近な存在となったのである。




アイラ10歳、魔法の修練の時間である。

「炎の竜巻、渦巻きその紅蓮の脅威を見せつけよ! 炎球、鋼炎の槍よ、天から豪雨の如く落ちよ、滝の如く激しさを増せ!」
アイラの詠唱でジャスミン家の庭園がまるごと焼き尽くされた。これで3度目である。

「アイラ! バラ園をまた焼き尽くしたのね? 何度言えばわかるの! お前は魔法の修練をする際は森に行きなさい。屋敷の中での魔法は禁止です! なんてデリカシーのない子なのよ。リリーをご覧なさい。女性らしく可愛く美しく、これが淑女というものです! これでこそ全殿方の憧れになれるのです」
母親のルビーは激怒し兄のハリーは異端者を見るような眼差しを向け、父のアルフィーは困ったように顔をしかめた。

「アイラ! お前は変だよ! そんな強大な魔力は女が持つべきものではない! お前は女としてはできそこないだ!」
兄のハリーは蔑みの言葉を吐く。

「はぁ、アイラが男に産まれていたらさぞ立身出世しただろうに…昇爵するチャンスであったのに……女でこんなことができても良い縁談に恵まれるわけではないぞ……女としてはマイナスだ……」
最近はこればかり言う父アルフィーである。そのような言葉を聞くたびにハリーの態度はますますアイラに冷たくなるのだった。
 
「私は女に生まれちゃいけなかったの? この魔法や剣技も無意味で何の価値もないの?」
アイラはすっかりしょげてしまう。

「そんなことはないよ。アイラは月の女神、戦の女王アルテミスのようだよ。狩猟と戦の女神は気高くてとても綺麗なんだ。アイラはアルテミスのように綺麗だよ」
ジャックの慰めはアイラにとっては最上級の褒め言葉だった。

(容姿で褒められたのは初めてだわ。どうしよう……嬉しい!)
アイラはますますジャックを好きになっていくのである。

「アルテミス? 我が国では信仰されていない邪教の女神だろう? 女のくせに戦にしゃしゃり出るなんてルワンガ国では褒められるべきことではない。我が国では豊穣の女神と癒やしの聖女を崇拝し、戦は男神の領域だ」
ハリーは忌々しげにつぶやいたのだった。

母と兄に疎まれ、父には嘆きのため息をつかれるアイラにとって、ジャックは心の支えであった。アイラが頬を染めてジャックを見つめお互い微笑みをかわしたその数秒後、ジャックがルビーの横にたたずむリリーに切ない眼差しを向けたことにアイラは少しも気がつかないのだった。




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