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8 僕は悪くない(カーター視点)

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カーター視点


「はぁーーん。なるほど、なんとなく事の次第がつかめてきたぞ。どうりでオリーブが最近、元気がなかったわけだ。私はハーパー家で娘と一緒に遊んでくれたご子息に婚約の打診をしたつもりだ。それはあなた方にも伝えましたよね? あなた方は、オリーブを騙したのか!」

 すっごい迫力だ。
 貴族じゃないくせに、父上よりもずっと風格があるし。
 やばい、ごまかさないと・・・・・・

「父上と母上のせいです。僕は言われたとおりにしていただけです」

 ハーパー家当主の鋭い視線が怖くて、思わず僕は視線をそらす。アーサーの隣のライリー伯父上は・・・・・・うわぁーー、もっと怖かった。

「私は、そのぅーー、何というか・・・・・・」
 
 父上も、しどろもどろ。僕たちはガタガタ震えながら青ざめた。

「オリバー! はっきり答えろ!」

 ライリー伯父上の怒声に父上も母上も飛び上がる。

「アリアの温室庭園にお金がかかりすぎまして、シュナイダー伯爵家は借金だらけになっていたのです。また、このカーターも贅沢者でして160万ダーラーの服などを愛用。これでは到底やっていけない」

「ちっ! 父上こそワインを飲み過ぎですよ! 100万ダーラー以上のワインを頻繁に飲んでいたでしょう! せめて10万ダーラーのものにするべきだったんだ」

「だったら、お前の服だって10万ダーラーで良かったはずだ」

「そうよ。夫と息子の二人のせいですわ」

 母上はずるい。僕たちに責任を押しつけて自分だけ逃れるつもりのようだ。

「アリアよ! 君は弟の妻として、当主夫人の自覚はあるか? あの庭園を手放すように私はアドバイスしたはずだが? あれを維持するのにいったいいくらかかると思っているんだ!」

「ですがあれは私の宝物ですわ。手放すなんてできません」

「つまりはカーターに僕のふりをさせて、ハーパー家からお金を引っ張ろうとしていたのか!! 呆れましたよ。情けない!」
 弟は心底軽蔑したようで、僕達の顔を毛虫でもみるような眼差しで見つめた。
 

 弟のくせに偉そうなアーサーめっ。少しぐらい優秀だからって調子に乗るなよ!




「ほぉーー、なるほどね。ではこちらから婚約破棄をさせてもらいますよ」
 ハーパー家当主が地を這うような声を出す。

「あぁ、破棄ですか? では慰謝料をください! だってそちらが破棄を望むんですよね?」
 僕は内心ほくそ笑んだ。
 
 ラッキーだ。
 婚約破棄してくれるなら莫大な慰謝料がハーパー家からもらえる。

「ほぉ? シュナイダー伯爵家の嫡男がこれほど愚かだったとは! 慰謝料は有責のそちらが、ハーパー家に払うものだ。詐欺罪で告訴してもいいぐらいだ」

 ハーパー家当主を完璧に怒らせた僕は涙目になっていた。

「え? そんなぁ・・・・・・アーサー、僕を助けろ! 大商人とはいえハーパー家は平民だ。貴族を訴えるなんてできるはずがないよな? お前、弟だろ? 助けろよ!」

兄上! 今はそんな時代じゃない! 貴族だって悪いことをしたら裁かれる時代なのさ。兄上の頭の中はからっぽなのか? この状況で僕が助けると思うなんておかしいだろう?」

「アーサー、何を言う? ほら、父からも頼む。シュナイダー伯爵家を助けてくれ! お前は私の息子だろう?」

「いや、僕の父上はライリー・メンデス侯爵なので他人ですね。シュナイダー伯爵家がどうなろうと知ったことではない」
 冷酷な弟は僕たちを一刀両断。なんて冷たい弟だよ! すると・・・・・・


 バタバタバタバタ

「お待ちください! ただいま、来客中です。スカーレット様、お帰りください!」

 侍女達の止める声が廊下に響き渡り、愛しいスカーレットが姿を現した。入るなり早速まずい言葉を発しながら。

 
「カーター様ぁーー! またオリーブにお金を払わせてお出かけしましょうよぉーー。え! まぁーー、アーサーじゃないの! いつ帰ってきたの? 侯爵家の跡継ぎになったのよね? ねぇ、まだ婚約したって話は聞いてないわ。私もまだ婚約者がいないのよ。だから、ほら、ちょうど良いと思わない?」
 
 スカーレットはアーサーにしなだれかかり、胸をその腕に押しつけたのだった。


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