上 下
15 / 50

王の誕生日には断罪と幸せがやってくる?(マイケルside)

しおりを挟む
 「あははは。アイザックの母上。なにを勘違いをしているか知らんが、アレクサンダーの家来達は元は王家が抱え込んでいた者達が多い。王様がアレクへのご褒美にくださった大事な人材を、簡単にクビにできるわけがない。血の気の多い若者は、私が後で注意しておこう」

 私は、穏やかに笑ってなんとかその場をおさめようとした。アレクサンダーも私へのフォローは忘れない。

「あぁ、アイザック君は、その職場がそんなに嫌なら、私が王宮への郵便物を扱っている部署に替えてあげよう。あそこなら、ひたすら郵便物を仕分するだけだから、最低限の人との関わり合いで済む。誰からも虐められる心配はないよ」

 アレクサンダーの提案にアイザックは、顔を輝かせている。

「そこは、給料はいかほどですか? 前より下がったら嫌だなぁ。ほら、このグレイスの子供にこれからいっぱい金がかかるから」

 郵便物の仕分けは、単純作業で子供でもできる仕事だぞ! あそこの給料は、それほど良くないはずだが・・・・・・

「あぁ、それは大丈夫だろう。郵便物の仕分けと、それを各部署にまで届けることまでしてくれるかな? そうしたら、前と同じ給料にしよう」

 アレクサンダーは、にっこり笑った。なるほどね・・・・・・まぁ、王様の誕生日まで、無事に機嫌良く勤めてもらえれば有り難い。私も、それまでは嫌がらせはさせないでおこう。

 アイザックは、職場が変わることで、満足した。ただ、まだアイザックの母親が不満顔でアレクサンダーを睨んでいた。

 おい、おい! 私も、冒険のさなかでは平民と思っていたアレクが王族とは知らないで失礼なことも散々したが。
アレクが王族なことはもう公表されていて、おまけに英雄なんだぞ! それを、忌々しげに堂々と睨み付けるとは恐ろしいご婦人だ。

 私は、ため息をつきそうになるのを、なんとかこらえた。

「あぁ、レイラ前男爵夫人には、来週のオペラのチケットを差し上げよう。いろいろな友人を誘って行くといい。ボックス席が3個分だ。敷居をとっぱらい大宴会もできよう」

 途端に、レイラ前男爵夫人は機嫌をなおして、恐ろしいほどの愛想の良さで私に、こう言ってきたのだった。

「まぁ、流石にグレイスさんのお兄様です! 嬉しくて今から楽しみです。家族と友人も誘いますとも! そこで、料理とお酒も注文してよろしいですよねぇ? 大宴会など、そのような場所でしたことがないのです! オペラでそれが許されるのは伯爵以上の王家のお気に入りの家紋の者だけです。カリブ伯爵の名前で宴会させてもらいますよ。あぁ、請求書もあとで持ってきますね!」

 むぅ。大宴会を本当にやるつもりのようだ。この世界ではオペラを見にいくこと自体がとても贅沢なことだ。ボックス席はさらに、特別料金がかかり、そこでの料理や酒は通常の倍の金額をとる。財力を誇り王家からの覚えもめでたい大貴族が年に数回行うイベントのようなものだった。

 アレクサンダーとその恋人、今では本物のグレイスとわかったが、それといつも頑張ってくれる部下や友人を誘うつもりで購入したものだった。

「あぁ、好きにしなさい。私は疲れた。もうそろそろ、お引き取り願えますかな? 急用も思い出したし・・・・・・」

「まぁーー。じゃぁ、私達は失礼します。なんて、実りの多い、訪問だったのかしらぁーー。さぁ、さぁ。帰りましょう」

 レイラ男爵一家は、もう用は済んだとばかりに帰っていった。帰り際に偽グレイスが、私の胸に飛び込んできた。

「流石に私のお兄様ですわ! あぁ、お小遣い、あと少しだけもらいたいです。あとね、明日も来ていいですかぁ?」

 あぁ、もううんざりだ。この、下品な女は限度というものを知らない。優しくすればするほど、感謝するどころか、もっと、もっと、と更に上を望む。

「グレイス! 兄は、明日からしばらく、忙しい! 多めに、お小遣いを今やるから、しばらくは来てはいけない。いいね?」

「えぇーー。なんて、意地悪! あぁ、でも、そのぶんお小遣いが貰えるならいいです。10日ぶん、欲しいな」

 偽物は、ずる賢くニヤリと笑った。

「いや、王様の誕生日の準備を私もしなくてはならない。とても忙しいのだ。だから、その日までの2ヶ月分を今あげよう」

 偽物にまた抱きつかれてお礼を言われた。

「なんて、素敵なの! お兄様、お仕事を頑張ってくださいね! お小遣いさえ貰えば、私は邪魔はしませんとも!」

 上機嫌で帰っていく偽物に、アレクサンダーは、笑いをこらえていた。

 レイラ男爵一家が帰った途端に、アレクサンダーは早速、腹を抱えて笑いだした。

「なんだ、あれ? あいつらは、ハゲタカかハイエナだろう? あぁ、ハゲタカやハイエナに失礼なぐらい貪欲で浅ましい。本物のグレイスに酷すぎる仕打ちをしておいて・・・・・・もう、言葉もないよ」

 あぁ、アレクサンダーの言うとおりだ。彼らを表現できる適当な言葉は思い浮かばない・・・・・・けれど、やるべきことは、思い浮かんだ。この復讐劇を完璧にする為のお膳立てだ。

「アレクサンダー! そろそろ、王様に話をしに行こうじゃないか?」

「いいとも! 伯父上は、私とお前なら、いつでも大歓迎と言っている。明日にでも、グレイスも連れていこう!伯父上は、面白いことを企んでいそうだから、気をつけろよ? マイケル!」

 アレクサンダーは、悪戯っ子の笑みを浮かべていた。

 アレクサンダーは当然のように、グレイスを連れて帰ろうとしたが、そこは私が全力で止めた。

「妹とわかった以上は、グレイスはカリブ家に住まわすぞ! 正式に結婚してからでないと、お前とは住ませられない!」

 アレクサンダーが苦笑した。

「グレイス。王様の誕生日が終わったら迎えに来るからね。私と結婚していただけませんか?」

 私の親友は妹のグレイスに膝をつき、求婚をしたのだった。

 あぁ、これこそは、私が望んだ最も楽しく喜ばしい光景だった。グレイスは私の顔を見つめてきた。私は、ゆっくりと頷く。グレイスは、輝くような微笑みを浮かべた。

「はい、喜んで」

 綺麗なグレイスの短いが、とても嬉しいという思いのこもった声を聞けて、兄として大満足だった。


*:.。 。.:*・゚✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*


 翌日、アレクサンダーとグレイスと私で、王様の謁見の場に立っていた。

アレクサンダーと私が話す内容に、王は黙って聞いていた。

「それは、儂も黙ってはいられんなぁー。そうだ、良いことを考えた。儂の誕生日には、ハイエナ達の断罪をしよう。加えて、おめでたい結婚式を二つしようじゃないか?」

 二つ? 一つはわかる・・・・・・アレクサンダーとグレイスだろう? もう一つは・・・・・・?

 奥から、ほっそりした黒髪の女性が出てきた。王によく似た目元の綺麗な女性が、私を見て頬を染めていたのだった。 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

完結/クラスメイトの私物を盗んだ疑いをかけられた私は王太子に婚約破棄され国外追放を命ぜられる〜ピンチを救ってくれたのは隣国の皇太子殿下でした

まほりろ
恋愛
【完結】 「リリー・ナウマン! なぜクラスメイトの私物が貴様の鞄から出て来た!」 教室で行われる断罪劇、私は無実を主張したが誰も耳を貸してくれない。 「貴様のような盗人を王太子である俺の婚約者にしておくわけにはいかない! 貴様との婚約を破棄し、国外追放を命ずる! 今すぐ荷物をまとめて教室からいや、この国から出ていけ!!」 クラスメイトたちが「泥棒令嬢」「ろくでなし」「いい気味」と囁く。 誰も私の味方になってくれない、先生でさえも。 「アリバイがないだけで公爵家の令嬢を裁判にもかけず国外追放にするの? この国の法律ってどうなっているのかな?」 クラスメイトの私物を盗んだ疑いをかけられた私を救って下さったのは隣国の皇太子殿下でした。 アホ王太子とあばずれ伯爵令嬢に冤罪を着せられたヒロインが、ショタ美少年の皇太子に助けてられ溺愛される話です。 完結、全10話、約7500文字。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 他サイトにも掲載してます。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

恋人に捨てられた私のそれから

能登原あめ
恋愛
* R15、シリアスです。センシティブな内容を含みますのでタグにご注意下さい。  伯爵令嬢のカトリオーナは、恋人ジョン・ジョーに子どもを授かったことを伝えた。  婚約はしていなかったけど、もうすぐ女学校も卒業。  恋人は年上で貿易会社の社長をしていて、このまま結婚するものだと思っていたから。 「俺の子のはずはない」  恋人はとても冷たい眼差しを向けてくる。 「ジョン・ジョー、信じて。あなたの子なの」  だけどカトリオーナは捨てられた――。 * およそ8話程度 * Canva様で作成した表紙を使用しております。 * コメント欄のネタバレ配慮してませんので、お気をつけください。 * 別名義で投稿したお話の加筆修正版です。

(完結)だって貴方は浮気をしているのでしょう?

青空一夏
恋愛
同棲して3年目の日向は、裕太の携帯を思わず見てしまう。 酔った時に開きっぱなしにしていたラインには女性との親密な内容が書かれていた。 今まで幸せだと思っていた生活が崩れ去っていく。 浮気を知っても追求せず愛を取り戻そうとする健気な日向に鬼畜な裕太の化けの皮がはがれる。 それを知った日向がとった行動は・・・・・・・逆玉の輿に乗ろうとする裕太を阻止するために浮気調査ゲームがはじめるが・・・・・・コメディ調ですが悲しい恋愛物語。 日向は不動産会社勤務の営業で不動産を売りまくるトップセールスウーマン、裕太は大病院勤務の医者。

【完結】結婚してから三年…私は使用人扱いされました。

仰木 あん
恋愛
子爵令嬢のジュリエッタ。 彼女には兄弟がおらず、伯爵家の次男、アルフレッドと結婚して幸せに暮らしていた。 しかし、結婚から二年して、ジュリエッタの父、オリビエが亡くなると、アルフレッドは段々と本性を表して、浮気を繰り返すようになる…… そんなところから始まるお話。 フィクションです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

政略結婚のハズが門前払いをされまして

紫月 由良
恋愛
伯爵令嬢のキャスリンは政略結婚のために隣国であるガスティエン王国に赴いた。しかしお相手の家に到着すると使用人から門前払いを食らわされた。母国であるレイエ王国は小国で、大人と子供くらい国力の差があるとはいえ、ガスティエン王国から請われて着たのにあんまりではないかと思う。 同行した外交官であるダルトリー侯爵は「この国で1年間だけ我慢してくれ」と言われるが……。 ※小説家になろうでも公開しています。

「不吉な子」と罵られたので娘を連れて家を出ましたが、どうやら「幸運を呼ぶ子」だったようです。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
マリッサの額にはうっすらと痣がある。 その痣のせいで姑に嫌われ、生まれた娘にも同じ痣があったことで「気味が悪い!不吉な子に違いない」と言われてしまう。 自分のことは我慢できるが娘を傷つけるのは許せない。そう思ったマリッサは離婚して家を出て、新たな出会いを得て幸せになるが……

処理中です...