9 / 36
9 母上と仲良くさせたい-2
しおりを挟む
翌朝、アメリアはひとりで中庭に出ていた。
俺を見つけるなり駆け寄ってきて、「お花、摘んでもいいですか?」と遠慮がちに尋ねてきた。
「もちろん、いいとも。自分の部屋に飾るのか? メイドに花瓶を用意させよう」
メイドがいくつかの花瓶を持ってくると、アメリアはその中から気に入ったものを選び、ミレナの花を丁寧に挿しはじめた。
「なかなか上手だな。綺麗にまとまってる」
「ありがとうございます! あの……亡くなった母と、よく庭の花を摘んで部屋に飾っていたんです。お屋敷のような立派な花じゃなくて、野の草花でしたけど」
「そうか……今度、俺と一緒にアメリアの母親のお墓参りに行こう。好きだった花を、たくさん持ってな」
アメリアは目を潤ませ、嬉しそうに笑った。その表情に、母娘の絆の深さがにじんでいた。母親が亡くなったあと、しばらくアメリアは遠縁の親戚に預けられていたらしい。
表向きは面倒を見ていたようだが、こちらに迎えたときのほつれた服や痩せた体を見れば、どんな扱いを受けていたかは想像に難くない。
……もっと早く迎えてやれていれば。今さらそう思っても、遅いかもしれないが。
アメリアが花を挿した花瓶をサロンのテーブルに飾ると、母上がふと目を細めミレナの花に気づく。そして、思ったとおりの言葉を口にした。
「アメリア、こういうことはメイドに任せておけば良いのです。あなたが自らする必要はありませんわ」
「母上、せっかくアメリアが心を込めて飾ったのですよ。どうか、褒めてあげてください」
アメリアは少し緊張した面持ちで、小さく声を出した。
「お屋敷の庭師の方から、オルディアーク公爵夫人が、このお花をお好きだと伺って……。喜んでいただけたらと思って……」
俺は母上の目を見て、穏やかに言葉を添える。
「母上が昔から好きな花だと知って、アメリアは真っ先にそれを選んだんです。メイドが形式で飾るのとは違いますよ。誰かを想って手をかけた花というのは、不思議と――綺麗に見えるものです」
母上は視線をテーブルの花に落とし――ほんのわずかに、口元をほころばせた。
「そうね……でも、摘むときに指を傷つけたりしなかった? ミレナの葉は見た目より鋭くて、うっかりすると手を切ることもあるのよ」
その一言に、俺は良い兆しを見いだした。――ほんの一瞬だったが確かに、母上はアメリアを心配してくれた。
――焦らなくても、こうして少しずつ距離は縮まっていくんだ。
「はい、大丈夫です。気をつけて摘みました。挿すときも、一本ずつ丁寧にしましたから」
アメリアも嬉しかったのか、照れたように笑った。
「さぁ、三人で朝食をいただきましょう。今日は……豆を発酵させたものを、試してもらいますよ。健康にとても良いんです。……米がないのが残念ですけどね」
そう言ったとき、母上とアメリアが同時に、ぽかんとした顔で俺を見た。ちなみに、この世界に米はない。
発酵させた豆――日本でいうところの納豆だが、パンに乗せてみると、うん、やっぱり何かが違う。母上もアメリアも、別のパンを手に取り、それ以上納豆を乗せたパンには手をつけなかった。
確かになぁ……合わないよなぁ。
醤油と白米、あれは偉大だったな……。
俺を見つけるなり駆け寄ってきて、「お花、摘んでもいいですか?」と遠慮がちに尋ねてきた。
「もちろん、いいとも。自分の部屋に飾るのか? メイドに花瓶を用意させよう」
メイドがいくつかの花瓶を持ってくると、アメリアはその中から気に入ったものを選び、ミレナの花を丁寧に挿しはじめた。
「なかなか上手だな。綺麗にまとまってる」
「ありがとうございます! あの……亡くなった母と、よく庭の花を摘んで部屋に飾っていたんです。お屋敷のような立派な花じゃなくて、野の草花でしたけど」
「そうか……今度、俺と一緒にアメリアの母親のお墓参りに行こう。好きだった花を、たくさん持ってな」
アメリアは目を潤ませ、嬉しそうに笑った。その表情に、母娘の絆の深さがにじんでいた。母親が亡くなったあと、しばらくアメリアは遠縁の親戚に預けられていたらしい。
表向きは面倒を見ていたようだが、こちらに迎えたときのほつれた服や痩せた体を見れば、どんな扱いを受けていたかは想像に難くない。
……もっと早く迎えてやれていれば。今さらそう思っても、遅いかもしれないが。
アメリアが花を挿した花瓶をサロンのテーブルに飾ると、母上がふと目を細めミレナの花に気づく。そして、思ったとおりの言葉を口にした。
「アメリア、こういうことはメイドに任せておけば良いのです。あなたが自らする必要はありませんわ」
「母上、せっかくアメリアが心を込めて飾ったのですよ。どうか、褒めてあげてください」
アメリアは少し緊張した面持ちで、小さく声を出した。
「お屋敷の庭師の方から、オルディアーク公爵夫人が、このお花をお好きだと伺って……。喜んでいただけたらと思って……」
俺は母上の目を見て、穏やかに言葉を添える。
「母上が昔から好きな花だと知って、アメリアは真っ先にそれを選んだんです。メイドが形式で飾るのとは違いますよ。誰かを想って手をかけた花というのは、不思議と――綺麗に見えるものです」
母上は視線をテーブルの花に落とし――ほんのわずかに、口元をほころばせた。
「そうね……でも、摘むときに指を傷つけたりしなかった? ミレナの葉は見た目より鋭くて、うっかりすると手を切ることもあるのよ」
その一言に、俺は良い兆しを見いだした。――ほんの一瞬だったが確かに、母上はアメリアを心配してくれた。
――焦らなくても、こうして少しずつ距離は縮まっていくんだ。
「はい、大丈夫です。気をつけて摘みました。挿すときも、一本ずつ丁寧にしましたから」
アメリアも嬉しかったのか、照れたように笑った。
「さぁ、三人で朝食をいただきましょう。今日は……豆を発酵させたものを、試してもらいますよ。健康にとても良いんです。……米がないのが残念ですけどね」
そう言ったとき、母上とアメリアが同時に、ぽかんとした顔で俺を見た。ちなみに、この世界に米はない。
発酵させた豆――日本でいうところの納豆だが、パンに乗せてみると、うん、やっぱり何かが違う。母上もアメリアも、別のパンを手に取り、それ以上納豆を乗せたパンには手をつけなかった。
確かになぁ……合わないよなぁ。
醤油と白米、あれは偉大だったな……。
724
あなたにおすすめの小説
【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。
〈完結〉前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。
ごろごろみかん。
ファンタジー
「これは白い結婚だ」
夫となったばかりの彼がそう言った瞬間、私は前世の記憶を取り戻した──。
元華族の令嬢、高階花恋は前世で白い結婚を言い渡され、失意のうちに死んでしまった。それを、思い出したのだ。前世の記憶を持つ今のカレンは、強かだ。
"カーター家の出戻り娘カレンは、貴族でありながら離婚歴がある。よっぽど性格に難がある、厄介な女に違いない"
「……なーんて言われているのは知っているけど、もういいわ!だって、私のこれからの人生には関係ないもの」
白魔術師カレンとして、お仕事頑張って、愛猫とハッピーライフを楽しみます!
☆恋愛→ファンタジーに変更しました
【完結】子育ては難しい~廃嫡した息子が想像の斜め上にアホだった件~
つくも茄子
ファンタジー
リオン王国には、バークロッド公爵家、アーガイル公爵家、ミルトン公爵家の三大公爵家が存在する。
三年前に起きたとある事件によって多くの貴族子息が表舞台から姿を消した。
各家の方針に従った結果である。
その事件の主犯格の一人であるバークロッド公爵家の嫡男は、身分を剥奪され、市井へと放り出されていた。
親のであるバークロッド公爵は断腸の思いで決行したのだが、とうの本人は暢気なもので、「しばらくの辛抱だろう。ほとぼりが冷めれば元に戻る。父親たちの機嫌も直る」などと考えていた。
よりにもよって、元実家に来る始末だ。
縁切りの意味が理解できていない元息子に、バークロッド公爵は頭を抱えた。
頭は良いはずの元息子は、致命的なまでに想像力が乏しかった。
居場所を奪われたので逆襲させていただきます~黒幕令嬢の華麗なる逆転劇~
つくも茄子
ファンタジー
旧題:伯爵夫人のお気に入り
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。
数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。
喜ぶ伯爵夫人。
伯爵夫人を慕う少女。
静観する伯爵。
三者三様の想いが交差する。
歪な家族の形。
「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」
「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」
「家族?いいえ、貴方は他所の子です」
ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。
「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした
ごろごろみかん。
恋愛
前世の記憶を取り戻した伯爵令嬢のリンシア。
自分の婚約者は、最近現れた聖女様につききっきりである。
そんなある日、彼女は見てしまう。
婚約者に詰め寄る聖女の姿を。
「いつになったら婚約破棄するの!?」
「もうすぐだよ。リンシアの有責で婚約は破棄される」
なんと、リンシアは聖女への嫌がらせ(やってない)で婚約破棄されるらしい。
それを目撃したリンシアは、決意する。
「婚約破棄される前に、こちらから破棄してしてさしあげるわ」
もう泣いていた過去の自分はいない。
前世の記憶を取り戻したリンシアは強い。吹っ切れた彼女は、魔法道具を作ったり、文官を目指したりと、勝手に幸せになることにした。
☆ご心配なく、婚約者様。の修正版です。詳しくは近況ボードをご確認くださいm(_ _)m
☆10万文字前後完結予定です
さようなら、私の初恋
しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」
物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。
だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。
「あんな女、落とすまでのゲームだよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる