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1 継承の刻
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父が亡くなった。
オルディアーク公爵家の当主、ギルベルト・フォン・オルディアーク。
俺の父であり、尊敬すべき人物だった。
その死は、あまりにも突然だった。
葬儀の日、教会の祭壇前には父の棺が安置され、多くの人々が集まっていた。
皆、黒い喪服に身を包み、沈痛な面持ちで祈りを捧げている。
俺もその中にいたが、心の中は――思いのほか、静かだった。
予期せぬ死ではあったが、感情に流されることなく、俺はその現実を受け入れていた。
十七歳でオルディアーク公爵家の当主となることに、特別な重圧を感じることはなかった。
この責務を引き受けるのは、当然の流れ。
父の遺志を継ぎ、家族と領地を守る覚悟は、すでに俺の中にあった。
葬儀が終わると、すぐに正式な当主就任の手続きが進められた。
国王の承認を受け、俺はオルディアーク公爵家の新たな当主として認められる。
そして、ようやく屋敷に戻る頃には、次の出来事が待っていた。
――父の遺言書があったのだ。
落ち着く間もなく、家令が俺と母上に父の遺言を読み上げた。
我が死後、以下の事項を遺志として記す。
一、アメリアと名付けられた少女は、我が血を引く実子である。
一、アメリアの母は平民の女性であり、彼女との間に生まれた子である。
一、アメリアをオルディアーク公爵家に迎え、適切な教育と生活を保障すること。
以上、我が遺志として厳守されることを望む。
――ギルベルト・フォン・オルディアーク公爵
母上と父上は、貴族では常識とされる政略結婚だった。
互いの家の利を考えて結ばれたに過ぎず、夫婦というよりは同盟関係のようなものだった。
この国の貴族社会において、恋や情に流されて結ばれる婚姻は、むしろ“不見識な結婚”とされてしまう。
“家の存続と勢力拡大のために結婚する”――それが、当たり前の価値観だ。
当然、貴族には正妻の他に愛人や側室が存在することもある。
そうした関係から生まれる庶子もまた、決して珍しい存在ではなかった。
とはいえ、多くの場合その存在は裏で処理される。
母親に金銭的援助をするか、どこかの施設に預けるのが通例で、
“家族”として迎え入れるなど、極めて稀だった。
この家も、貴族として例外ではないと思っていた。
だが、父の遺言は――この世界の貴族社会の常識から、明らかに逸脱していた。
それでも、俺は眉をひそめただけで、感情的な反応は示さなかった。
どう対処すべきか。ただ、それだけを淡々と考える。
オルディアーク公爵家の嫡男として育った俺にとって、感情を表に出すことなど無意味だったからだ。
――あの頃の俺は、まだこの世界の「常識」に疑いを持つことすらなかったのだから。
オルディアーク公爵家の当主、ギルベルト・フォン・オルディアーク。
俺の父であり、尊敬すべき人物だった。
その死は、あまりにも突然だった。
葬儀の日、教会の祭壇前には父の棺が安置され、多くの人々が集まっていた。
皆、黒い喪服に身を包み、沈痛な面持ちで祈りを捧げている。
俺もその中にいたが、心の中は――思いのほか、静かだった。
予期せぬ死ではあったが、感情に流されることなく、俺はその現実を受け入れていた。
十七歳でオルディアーク公爵家の当主となることに、特別な重圧を感じることはなかった。
この責務を引き受けるのは、当然の流れ。
父の遺志を継ぎ、家族と領地を守る覚悟は、すでに俺の中にあった。
葬儀が終わると、すぐに正式な当主就任の手続きが進められた。
国王の承認を受け、俺はオルディアーク公爵家の新たな当主として認められる。
そして、ようやく屋敷に戻る頃には、次の出来事が待っていた。
――父の遺言書があったのだ。
落ち着く間もなく、家令が俺と母上に父の遺言を読み上げた。
我が死後、以下の事項を遺志として記す。
一、アメリアと名付けられた少女は、我が血を引く実子である。
一、アメリアの母は平民の女性であり、彼女との間に生まれた子である。
一、アメリアをオルディアーク公爵家に迎え、適切な教育と生活を保障すること。
以上、我が遺志として厳守されることを望む。
――ギルベルト・フォン・オルディアーク公爵
母上と父上は、貴族では常識とされる政略結婚だった。
互いの家の利を考えて結ばれたに過ぎず、夫婦というよりは同盟関係のようなものだった。
この国の貴族社会において、恋や情に流されて結ばれる婚姻は、むしろ“不見識な結婚”とされてしまう。
“家の存続と勢力拡大のために結婚する”――それが、当たり前の価値観だ。
当然、貴族には正妻の他に愛人や側室が存在することもある。
そうした関係から生まれる庶子もまた、決して珍しい存在ではなかった。
とはいえ、多くの場合その存在は裏で処理される。
母親に金銭的援助をするか、どこかの施設に預けるのが通例で、
“家族”として迎え入れるなど、極めて稀だった。
この家も、貴族として例外ではないと思っていた。
だが、父の遺言は――この世界の貴族社会の常識から、明らかに逸脱していた。
それでも、俺は眉をひそめただけで、感情的な反応は示さなかった。
どう対処すべきか。ただ、それだけを淡々と考える。
オルディアーク公爵家の嫡男として育った俺にとって、感情を表に出すことなど無意味だったからだ。
――あの頃の俺は、まだこの世界の「常識」に疑いを持つことすらなかったのだから。
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