33 / 45
30 ヴァル、助けて!
しおりを挟む
いよいよ結婚式当日、私は純白のウェディングドレスを身にまとう。あまりの幸福感に思わず嬉しい吐息が漏れた。ルコント王国の侯爵令嬢に生まれて、結婚とは家と家との結びつきを深めるもので、好いた男性の妻になれるなんて夢にも思わなかった。
ところが今はどう? 大好き、と思える男性に心の底から望まれているし、それが本当にありがたいことだと実感している。誰もが私にお祝いの言葉を朗らかな笑顔とともに口にするなか、執拗な粘ついた視線を最前列から感じた。ちらりとそちらを向けば、ルコント王国の国王と目があった。ニヤリと笑った顔にどう反応していいのかわからない。
「ヴァル」
今ではヴァルナス皇太子殿下のことをこう呼んでいる。バージンロードを歩きヴァルナス皇太子殿下の手を取った時に呼びかけた。
「ん? どうした? 緊張しているのか? 大丈夫だ、俺がいるからなにも心配ない」
いつもの魔法の言葉だ。『俺がいるからなにも心配ない。すべてうまくいく』これを言われただけで、私はホッとする。その自信に満ちた表情と言葉は、決して私を裏切ることがないことがわかっているから。
「えぇ。ヴァルがいれば、なにも悪いことは起こらないわ」
「もちろんだ。さぁ、誓いの言葉を」
私は彼と神様とここに居並ぶ貴族達の前で誓う。生涯、ヴァルだけを愛し彼の為に尽くし、素晴らしい家庭をつくることを。彼もまた私だけを愛し慈しみ守ることを誓った。
唇を重ね合わせると、今まで生きたなかで一番の幸せな瞬間に、ふわふわと気持ちが浮き立った。私は彼の為に生まれてきたんだ、そう心から信じられる。これがどんなに幸せなことか、貴族の私にはわかっている。だから嬉しくて涙が頬を伝わった。
「綺麗だ。その涙も愛らしい顔も綺麗な身体もぜんぶ俺のものだ」
蕩けるような笑顔でささやかれて、頬をそめてうなづいた。俺のもの、この表現を、もしヴァル以外の男性に言われたら身の毛がよだつと思う。でも彼にささやかれると、頬が緩みほっこりと心が温まる。これが愛、なんだわ。
式が終わりその後の祝饗宴では豪華な食事が振る舞われた。皆、上品にかつ優雅に会話を楽しみながら堪能していたけれど、ルコント国王のテーブルだけは悪目立ちしていた。バーバラ王太子妃の食事マナーが悪すぎたし、キャサリン王妃は終始料理に不満の声を漏らしていたからよ。それにずっと私を見つめるルコント国王の視線に、ぞくっと背筋が寒くなった。
「どうした? 気分でも悪いのか? ルコント国王か? ふむ、あいつの目つきは気に入らないな。俺のステフにあのような視線を向けるだけで万死に値する。あの目が二度とステフを汚さないように見えなくしてやろうか」
「ヴァル? 落ち着いて、私はなにもされてないわ。だから、そんな怖いこと言わないで」
「あぁ、もちろん、冗談さ」
ヴァルはたまに怖い冗談を言うけれど、私が嫌がることは決してしない。だから私は何度も彼に言った。人を罰する時には実際に許しがたい大罪を犯したときでないといけないと。彼はもちろんわかっているよ、と笑った。
それから三日間ほどルコント国王達は帝国に滞在し手厚くもてなされた。彼らが帰国する前夜、私がアデラインと宮殿内の図書室で調べ物をしていると、扉の前で争うような物音がした。
やがて図書室に入って来た人物はルコント国王とその部下達だった。扉の前で倒れているのは私の専属護衛騎士達だ。
「ふははは。ブリュボン帝国の騎士はあまりにも弱い。さぁ、ステファニー。お前は祖国に帰るのだ。儂の側妃になり子供をたくさん生め! 我が国に緑の奇跡を持つ者が増えルコント王国は栄え、この帝国をもいずれ支配するようになるのだ」
私の手をぬちゃりと湿ったルコント国王の手が触れた。
「ひっ。ヴァル! ヴァル!」
声の限りに叫んでも不思議と誰も駆けつけてこない。
おかしい・・・・・・だいたいが、私を守っていたのはこの帝国でも腕利きの騎士達だ。ルコント王国の騎士に簡単に倒されるわけがない。
ルコント国王が私を馬車に無理矢理押し込めようとしたところで・・・・・・
※お知らせ
結婚式のAIイラストが「小説登場人物の為のイラストギャラリー」に掲載されています。25から28話の部分です。ヴァルナス皇太子殿下とステファニーの花嫁花婿姿になります。よろしければ覗いてみてくださいね。
ところが今はどう? 大好き、と思える男性に心の底から望まれているし、それが本当にありがたいことだと実感している。誰もが私にお祝いの言葉を朗らかな笑顔とともに口にするなか、執拗な粘ついた視線を最前列から感じた。ちらりとそちらを向けば、ルコント王国の国王と目があった。ニヤリと笑った顔にどう反応していいのかわからない。
「ヴァル」
今ではヴァルナス皇太子殿下のことをこう呼んでいる。バージンロードを歩きヴァルナス皇太子殿下の手を取った時に呼びかけた。
「ん? どうした? 緊張しているのか? 大丈夫だ、俺がいるからなにも心配ない」
いつもの魔法の言葉だ。『俺がいるからなにも心配ない。すべてうまくいく』これを言われただけで、私はホッとする。その自信に満ちた表情と言葉は、決して私を裏切ることがないことがわかっているから。
「えぇ。ヴァルがいれば、なにも悪いことは起こらないわ」
「もちろんだ。さぁ、誓いの言葉を」
私は彼と神様とここに居並ぶ貴族達の前で誓う。生涯、ヴァルだけを愛し彼の為に尽くし、素晴らしい家庭をつくることを。彼もまた私だけを愛し慈しみ守ることを誓った。
唇を重ね合わせると、今まで生きたなかで一番の幸せな瞬間に、ふわふわと気持ちが浮き立った。私は彼の為に生まれてきたんだ、そう心から信じられる。これがどんなに幸せなことか、貴族の私にはわかっている。だから嬉しくて涙が頬を伝わった。
「綺麗だ。その涙も愛らしい顔も綺麗な身体もぜんぶ俺のものだ」
蕩けるような笑顔でささやかれて、頬をそめてうなづいた。俺のもの、この表現を、もしヴァル以外の男性に言われたら身の毛がよだつと思う。でも彼にささやかれると、頬が緩みほっこりと心が温まる。これが愛、なんだわ。
式が終わりその後の祝饗宴では豪華な食事が振る舞われた。皆、上品にかつ優雅に会話を楽しみながら堪能していたけれど、ルコント国王のテーブルだけは悪目立ちしていた。バーバラ王太子妃の食事マナーが悪すぎたし、キャサリン王妃は終始料理に不満の声を漏らしていたからよ。それにずっと私を見つめるルコント国王の視線に、ぞくっと背筋が寒くなった。
「どうした? 気分でも悪いのか? ルコント国王か? ふむ、あいつの目つきは気に入らないな。俺のステフにあのような視線を向けるだけで万死に値する。あの目が二度とステフを汚さないように見えなくしてやろうか」
「ヴァル? 落ち着いて、私はなにもされてないわ。だから、そんな怖いこと言わないで」
「あぁ、もちろん、冗談さ」
ヴァルはたまに怖い冗談を言うけれど、私が嫌がることは決してしない。だから私は何度も彼に言った。人を罰する時には実際に許しがたい大罪を犯したときでないといけないと。彼はもちろんわかっているよ、と笑った。
それから三日間ほどルコント国王達は帝国に滞在し手厚くもてなされた。彼らが帰国する前夜、私がアデラインと宮殿内の図書室で調べ物をしていると、扉の前で争うような物音がした。
やがて図書室に入って来た人物はルコント国王とその部下達だった。扉の前で倒れているのは私の専属護衛騎士達だ。
「ふははは。ブリュボン帝国の騎士はあまりにも弱い。さぁ、ステファニー。お前は祖国に帰るのだ。儂の側妃になり子供をたくさん生め! 我が国に緑の奇跡を持つ者が増えルコント王国は栄え、この帝国をもいずれ支配するようになるのだ」
私の手をぬちゃりと湿ったルコント国王の手が触れた。
「ひっ。ヴァル! ヴァル!」
声の限りに叫んでも不思議と誰も駆けつけてこない。
おかしい・・・・・・だいたいが、私を守っていたのはこの帝国でも腕利きの騎士達だ。ルコント王国の騎士に簡単に倒されるわけがない。
ルコント国王が私を馬車に無理矢理押し込めようとしたところで・・・・・・
※お知らせ
結婚式のAIイラストが「小説登場人物の為のイラストギャラリー」に掲載されています。25から28話の部分です。ヴァルナス皇太子殿下とステファニーの花嫁花婿姿になります。よろしければ覗いてみてくださいね。
10
お気に入りに追加
2,376
あなたにおすすめの小説
拝啓、婚約者様。婚約破棄していただきありがとうございます〜破棄を破棄?ご冗談は顔だけにしてください〜
みおな
恋愛
子爵令嬢のミリム・アデラインは、ある日婚約者の侯爵令息のランドル・デルモンドから婚約破棄をされた。
この婚約の意味も理解せずに、地味で陰気で身分も低いミリムを馬鹿にする婚約者にうんざりしていたミリムは、大喜びで婚約破棄を受け入れる。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。
【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!
宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。
そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。
慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。
貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。
しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。
〰️ 〰️ 〰️
中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。
完結しました。いつもありがとうございます!

婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?
鶯埜 餡
恋愛
バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。
今ですか?
めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?
我慢するだけの日々はもう終わりにします
風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。
学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。
そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。
※本編完結しましたが、番外編を更新中です。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※独特の世界観です。
※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。
しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。
それを指示したのは、妹であるエライザであった。
姉が幸せになることを憎んだのだ。
容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、
顔が醜いことから蔑まされてきた自分。
やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。
しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。
幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。
もう二度と死なない。
そう、心に決めて。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる