上 下
30 / 45

27 ヴァルナス皇太子殿下視点

しおりを挟む
 結婚式を3日後に控え、俺は上機嫌だった。なにしろ俺の可愛いステフはなにをしていても可愛いし、なにを着ても可愛いし、なにを話しても可愛い! いかん、可愛いしか感じないほど、俺の気持ちはステフに傾倒している。でもこれが恋というものだ。

「殿下、もうずーっと顔がにやけっぱなしだな」
「あぁ、あの厳しい精悍なお顔が蕩けそうな笑顔で、周りの侍女やメイド達に被害がでている。これ、しばらく続くのかな。実際のところ、昨日は3人のメイドが殿下の笑顔の流れ弾に当たり気絶したぞ」

「流れ弾? なんて恐ろしいんだ・・・・・・女でなくて良かった」

 近衛騎士達がわけのわからん会話をしながら迷惑そうに俺をじと目で見るが、俺の笑顔はすべてステフに向けられたものだ。勝手に気絶するほうが悪いだろう。

 なにしろ最愛をやっと妻に迎えることができるのだぞ。これが微笑まずにいられるか? 言葉で表すとしたら、そう、るんるんだ。異世界の辞典にあった『るんるん』、これはとても可愛い言葉で俺のステフに使うのにぴったりだ。

「はぁー、俺のステフが尊すぎてるんるんがとまらない・・・・・・」

 ラヴァーンはもう慣れっこで素知らぬふりだが、その下の弟リッキーは、俺のステフへの愛に戸惑いを隠せないでいる。

「幼い頃から憧れていたヴァルナス兄上が、あのような不可思議な言葉をつぶやき、にやけっぱなしとは・・・・・・番とは恐ろしい・・・・・・あ、いや、素晴らしいものですね。ですが、わたしは出会いたくないです。自制心がなくなって恥ずかしい生き物になりそうです」

 ここにも不敬なことを言う奴がいる。

「いいか? リッキー。これはとても尊い素晴らしい幸運なのだ。お前も番に出会ってみればわかる。この世のすべてがこの為に存在していたのかと気づくほどの感動だ」

 リッキーは首を傾げて、ため息をついた。こいつの髪は俺と同じブロンドで、瞳はラヴァーンと同じアメジストの色合いだった。リッキーは俺達とはあまり似ていない。文官達を束ねる皇室文総という職に就いている。理屈っぽくて頭脳明晰、相手を敵認定したら徹底的に理詰めで攻撃していく性格だ。妹のチェリーナはステファニーに会った途端、懐いてしまい今もべったりとくっついている。

「私、お姉様がずっと欲しかったのです。だからこのように綺麗で優しくて、それに緑の精霊王様に愛されていらっしゃるなんて最高ですわ。自慢のヴァルナスお兄様にステファニー様はぴったりだと思います」

 そう言いながらステフの行くところにどこでもついて行こうする。微笑ましくもあるが、少し二人っきりにしてほしいとも思う。そんなわけで俺の弟妹とステフの関係は良好だった。

 もちろん俺の父上も母上もステフを大歓迎した。緑の奇跡をおこす不思議な存在、俺の番でなくともこの帝国の妃に迎えたいのは当然なのだった。


❁.。.:*:.。.✽.
 

「ヴァルナス皇太子殿下、ステファニー様のご両親が到着いたしました」

 ステファニーの両親は満面の笑みで俺に臣下の礼をとった。婚礼の3日前に来るように伝えておいて良かったと思う。ステフの嬉しそうな顔を見ればもっと早くこちらに呼ぶべきだったとも思うが。
 宮殿の中には多くの応接室があり、用途別に使い分けている。もちろん、家族用のプライベートサロンでジュベール侯爵達をもてなした。

「ステフも義父上達が帝国にいたほうが心強いでしょう。こちらで叙爵しますのでどうぞ帝国に住んでいただきたい」
 俺は叙爵しようと提案したのだが、きっぱりと断られた。

「帝国になんの貢献もしていないわたし達が、皇太子妃の親ということだけで爵位をいただくのは心苦しいです。ルコント王国にある財産はすべて金に替え、私達はこの国に平民として住み、娘の顔をたまに見ることができれば充分です」

 ジュベール侯爵の意見は立派なのだが、皇太子妃の両親が平民に混じって暮らすというのも考えものだった。するとキースが妥協案を出す。

「特別に一代限りの侯爵の叙爵はいかがでしょう? 領地もなく貴族の称号のみとなりますが、王太子妃の実家としてそれ相応の屋敷を構えていただきましょう。ステファニー様は荒れ地を沃地に変え、緑の恵みをくださいました。その奇跡を生んだ方々の叙爵は妥当です」

 俺は義父上達を父上達(現皇帝)にも引き合わせた。ステフは両親の間でにこやかに微笑み、感謝の眼差しで俺を見上げる。ステフとジュベール侯爵達の抱き合い喜ぶ様子が俺には嬉しかった。ステフの喜びは俺の喜びだからな。


❁.。.:*:.。.✽.


 結婚式前日、いよいよ俺の楽しみがやって来た。あのルコント王国の愚か者達がやって来たのだ。俺は謁見の間で待ち構える。父上に母上、俺にステフ。弟のラヴァーンやリッキーも同席した。妹のチェリーナはステフからバーバラ王太子妃のことを聞いていたので、不機嫌に顔を歪めながらもなにか言ってやろうと、意気込んでいるようだった。

 そうして謁見の間にやって来たこの小国のまぬけどもは、ありきたりの挨拶を述べていく。バーバラ王太子妃がカーテシーをすると、チェリーナが予想どおりに嫌味を口にした。

「あら、びっくりしますわね。王太子妃ともあろう方がカーテシーもまともにできませんの? それに挨拶のお声がこちらまで聞こえませんわ。発音も少し変、公用語をまともに話すこともできませんの? はっきりとステファニーお義姉様の前で頭をお下げなさい」

 チェリーナはバーバラ王太子妃を冷たく見下したのだった。ステフははらはらした面持ちで俺の隣に座っていたが、俺が軽くその手を握ってやる。

「大丈夫。殺したりしないから、安心して」

 俺は密やかな声でステフにささやいた。そう、殺したりしないさ。簡単にはな・・・・・・
 
 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

【本編完結・番外編追記】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。

As-me.com
恋愛
ある日、偶然に「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言する婚約者を見つけてしまいました。 例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃりますが……そんな婚約者様はとんでもない問題児でした。 愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。 ねぇ、婚約者様。私は他の女性を愛するあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄します! あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 番外編追記しました。 スピンオフ作品「幼なじみの年下王太子は取り扱い注意!」は、番外編のその後の話です。大人になったルゥナの話です。こちらもよろしくお願いします! ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』のリメイク版です。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定などを書き直してあります。 *元作品は都合により削除致しました。

処刑される未来をなんとか回避したい公爵令嬢と、その公爵令嬢を絶対に処刑したい男爵令嬢のお話

真理亜
恋愛
公爵令嬢のイライザには夢という形で未来を予知する能力があった。その夢の中でイライザは冤罪を着せられ処刑されてしまう。そんな未来を絶対に回避したいイライザは、予知能力を使って未来を変えようと奮闘する。それに対して、男爵令嬢であるエミリアは絶対にイライザを処刑しようと画策する。実は彼女にも譲れない理由があって...

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

乳だけ立派なバカ女に婚約者の王太子を奪われました。別にそんなバカ男はいらないから復讐するつもりは無かったけど……

三葉 空
恋愛
「ごめん、シアラ。婚約破棄ってことで良いかな?」  ヘラヘラと情けない顔で言われる私は、公爵令嬢のシアラ・マークレイと申します。そして、私に婚約破棄を言い渡すのはこの国の王太子、ホリミック・ストラティス様です。  何でも話を聞く所によると、伯爵令嬢のマミ・ミューズレイに首ったけになってしまったそうな。お気持ちは分かります。あの女の乳のデカさは有名ですから。  えっ? もう既に男女の事を終えて、子供も出来てしまったと? 本当は後で国王と王妃が直々に詫びに来てくれるのだけど、手っ取り早く自分の口から伝えてしまいたかったですって? 本当に、自分勝手、ワガママなお方ですね。  正直、そちらから頼んで来ておいて、そんな一方的に婚約破棄を言い渡されたこと自体は腹が立ちますが、あなたという男に一切の未練はありません。なぜなら、あまりにもバカだから。  どうぞ、バカ同士でせいぜい幸せになって下さい。私は特に復讐するつもりはありませんから……と思っていたら、元王太子で、そのバカ王太子よりも有能なお兄様がご帰還されて、私を気に入って下さって……何だか、復讐できちゃいそうなんですけど?

婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。

三葉 空
恋愛
 ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

(完)お姉様、婚約者を取り替えて?ーあんなガリガリの幽霊みたいな男は嫌です(全10話)

青空一夏
恋愛
妹は人のものが常に羨ましく盗りたいタイプ。今回は婚約者で理由は、 「私の婚約者は幽霊みたいに青ざめた顔のガリガリのゾンビみたい! あんな人は嫌よ! いくら領地経営の手腕があって大金持ちでも絶対にいや!」 だそうだ。 一方、私の婚約者は大金持ちではないが、なかなかの美男子だった。 「あのガリガリゾンビよりお姉様の婚約者のほうが私にぴったりよ! 美男美女は大昔から皆に祝福されるのよ?」と言う妹。 両親は妹に甘く私に、 「お姉ちゃんなのだから、交換してあげなさい」と言った。 私の婚約者は「可愛い妹のほうが嬉しい」と言った。妹は私より綺麗で可愛い。 私は言われるまま妹の婚約者に嫁いだ。彼には秘密があって…… 魔法ありの世界で魔女様が最初だけ出演します。 ⸜🌻⸝‍姉の夫を羨ましがり、悪巧みをしかけようとする妹の自業自得を描いた物語。とことん、性格の悪い妹に胸くそ注意です。ざまぁ要素ありですが、残酷ではありません。 タグはあとから追加するかもしれません。

処理中です...