（完結）そんな理由で婚約破棄？ 追放された侯爵令嬢は麗しの腹黒皇太子に溺愛される

18 サスペンダー公爵令嬢にほだされる私

　赤い髪の公爵令嬢だわ。名前はなんだったかしら？　なぜ、ここに来たのかわからないけれど、私の姿を見つけるとにらみつけながらこちらに向かってきた。

　今まで姿が見えなかったのに、あっという間に私の周りを皇家の護衛騎士と聖騎士の合計10人ほどが取り囲んむ。

「サスペンダー公爵令嬢、どのようなご用でこちらにいらっしゃいましたか？　このような修道院にいらっしゃるなど珍しいですね？」

　皇家の騎士で一番風格のある男性が訊ねる。

「ブルーノー。なんで第一皇家騎士団長のあなたがここにいるのよ。ヴァルナス皇太子殿下はだまされているのよ。こいつはきっと悪い魔女だわ。だってこの気味の悪い緑の髪を見てよ。前に見た時はおばあさんみたいな白髪だったのよ」

「口を慎め！　サスペンダー公爵令嬢だからといってなんでも言っていいわけではない。この方は緑の精霊王の加護を受けているのだ」

「聖騎士までいるの？　これじゃぁ、皇妃殿下をお守りするみたいな警護だわ。あなた、本当は魔女なのでしょう？　絶対そうよ。だって、私がヴァルナス皇太子と結婚することになっていたのに、あなたが現れた途端に冷たくなったのよ。私はね、幼い頃から彼しか見ていなかった。それをいきなり現れて横からさらっていくなんて･･････酷いと思わないの？」
　サスペンダー公爵令嬢の勝ち気な顔が歪み、涙がぼろぼろとこぼれていく。他の女性に心を奪われてしまった男性を追いかけ続ける気の毒な女性。

「あなたは本当に心からヴァルナス皇太子殿下を愛しているの？　そうじゃないなら身を引いてよ。私は命をかけて愛しているわ。私には彼しかいない。あなたは出会ったばかりなのでしょう？　私は4歳の頃から彼に恋をしてきたわ。ただ番ということだけで、私が彼を想ってきた長い歳月を奪わないで！」

　泣き崩れて地面に座り込んだ。彼女の気持ちを考えると辛い。騎士達は彼女を無理矢理馬車に乗せて帰していく。
私はなんともいえない複雑な気持ちだった。

　それからヴァルナス皇太子殿下がいらっしゃったけれど、サスペンダー公爵令嬢の件が気になってしかたがなかった。

「もしヴァルナス皇太子殿下が私に出会えなかったら、サスペンダー公爵令嬢と結婚していた可能性はありますか？」

　私は意を決して訊ねてみた。

「ん？　もし会えなかったらか？　確かに身分的にも立場的にも彼女が妻になる可能性はあったかもな。しかし、それは仮定の話だ」

　やはり、そうなんだ。

　次期皇帝になるのにいつまでも独身でいられるはずもない。だとしたら、サスペンダー公爵令嬢の気持ちもわかる。もう少し待てば自分の夫になったかもしれないと思う切ない気持ち･･････私が番だからというだけの理由で彼女の思いが否定されるのは、どうなのだろう？




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「お嬢様、このようなことはおやめください。あのヴァルナス皇太子殿下から逃げられると思いますか？」
「私は他の女性を犠牲にしてまで、自分が幸せにはなりたくないのよ」
「お嬢様･･････」　
「どちらにいらっしゃるのですか？　ここを出てはいけませんよ」

　男性の声が私達を引き留めた。

「お願いします。見逃してください。サスペンダー公爵令嬢からヴァルナス皇太子を取るなんてできない。私だって、かつては他の女性に婚約者を奪われた立場なのです。私は、番だから愛されるのではなくて、私だから愛してくださる方と一緒にいたいの」

「ふぅーー、困りましたね。兄上に逆らうと、わたしはきっと処刑されてしまうかもしれませんよ」

　胸元にはブリュボン帝国聖騎士団長のバッチが煌めいていた。そうして顔をみると、ヴァルナス皇太子殿下に良く似た顔がこちらを面白そうにみていたのだった。夜風の吐息が銀髪を揺らし紫水晶の瞳で笑う美丈夫だった。




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※「魔法量はマイナス3000！落ちこぼれ令嬢の私が大魔法使いの嫁に選ばれました」連載中です。

※本日、エッセイの「小説登場人物の為のイラストギャラリー」で猫耳（ライオン耳）ヴァルナス皇太子特集をします。

※ヴァルナス皇太子を狼獣人から獅子獣人に変えました。すみません。