18 / 45
16 甘い甘いヴァルナス皇太子殿下
しおりを挟む
私の雪のように白かった髪が緑に変わっていく。少しずつ濃くなっていくその緑は艶やかな輝きを増し、さわやかな新緑の色に染まった。ヴァルナス皇太子殿下はこの不思議を見ても不気味がるどころか、私を抱きかかえながら心底心配している。
「痛いところはないか? 気分は大丈夫か? すぐに医者を呼ぶ。大丈夫だ、俺がついている」
修道院長室に私を抱きかかえたまま入室すると、呆気にとられている院長にキッパリと宣言した。
「俺の最愛を見つけた。しばらくはここで預かってくれ。それから医者を至急呼ぶんだ。髪が緑に変わった。こんなことがあるのか? 大神官も呼べ。俺の大事な女性になにかあったら、生きていられん!」
え? そこまでなの? 番って・・・・・・怖い?
私はまだこのヴァルナス皇太子にそこまでの気持ちはない。綺麗で優しい男性だとは思うけれど、さきほど会ったばかりだから、気持ちの温度差が凄まじい。
「大丈夫だ。こんな現象は初めて見たが体調に変化がないなら、さなぎが蝶になったり蛇の脱皮のようなものだろう」
蛇の脱皮? 私は思わず笑ってしまう。小さな蛇が懸命に脱皮するところが頭に浮かんだから。
「ヴァルナス皇太子殿下、私のお嬢様を蛇に例えるのはお止めください!」
アデラインはかなりグロテスクな蛇を想像したみたい。不服そうに顔をしかめた。ヴァルナス皇太子殿下は不敬なアデラインに怒るどころか、申し訳なさそうに私に謝ってきた。
「確かにこんな可愛いステフを蛇に例えるなんて俺としたことが迂闊だった。すまない、ステフ。君はなにに例えたら良いだろう」
本気で悩むヴァルナス皇太子殿下が不思議だった。レオナード王太子殿下からは、このように謝られたことなど一度もなかった。
「私は可愛くなんてないです。だって婚約者に捨てられたのですから」
つい愚痴めいた言葉が口からこぼれる。
「ほぉーー。婚約者がいたのか? そいつを好きだったのか? 今でも好きか?」
室内の気温が急激に下がったかのように、ピリピリとした空気に包まれる。
「好き・・・・・・いっときはそう思っていましたが、今は好きではありません」
「そうか、それなら良い。今が好きではないなら、その男を思い出すことはやめろ。考えても時間の無駄だ。ステフは俺のことだけを考えていればいい」
険しい顔付きでいた彼が、穏やかに微笑んで頭を優しく撫でる。こんなにもストレートに好意を表現してくださる男性が初めてで、わかりやすい心の動きに少しだけ安堵する。レオナード王太子殿下はなにを考えていらっしゃるのかわからないことがよくあった。いつもこちらが機嫌を損ねないように気を配っても、気づかぬところで怒っているのよ。
でも、このヴァルナス皇太子殿下は違うみたい。
「私がすることで、ヴァルナス皇太子殿下のご機嫌が悪くなることってあるのかしら」
心の声がうっかり口をついてでた。
「それはひとつしかないな。他の男と浮気をすることだ。話やダンスや社交界での常識の範囲内なら問題ない。しかし、愛人関係とか恋人関係なんてものを認めるつもりはないぞ。俺も絶対にしないと約束する」
「愛人関係・・・・・・そのようなものは必要ありません。私は心から愛してくださる男性が一人いれば、それで充分幸せなのです」
「そうか。だったら俺の答えはいつでも上機嫌だ。ステフがなにをしても、いつも笑っていられるさ。俺達は価値観があうし相性は最高だ」
喜びに満ちた表情で笑いかけられて思わずコクリとうなづけば、抱きしめられて子供をあやすように背中をポンポンと撫でられた。この広くてたくましい腕のなかはとても居心地が良い。
やがて、大神官様がいらっしゃり、続々と皇家の騎士達や侍女達が到着する。
そうして、私を見た大神官様は・・・・・・膝をつき頭を床にこすりつけたのだった。
❁.。.:*:.。.✽.❁.。.:*:.。.✽.❁.。.:*:.。.✽.
※AIイラストに抵抗のない方へのお知らせ
「小説登場人物の為のイラストギャラリー」をエッセイで投稿しています。この小説の主人公達のいろいろなタイプがそこで見られます。推しを見つける感覚で覗いてみませんか?
※本日18時以降にエッセイを更新予定です。ステファニーの幼少期イラストになると思います。
「痛いところはないか? 気分は大丈夫か? すぐに医者を呼ぶ。大丈夫だ、俺がついている」
修道院長室に私を抱きかかえたまま入室すると、呆気にとられている院長にキッパリと宣言した。
「俺の最愛を見つけた。しばらくはここで預かってくれ。それから医者を至急呼ぶんだ。髪が緑に変わった。こんなことがあるのか? 大神官も呼べ。俺の大事な女性になにかあったら、生きていられん!」
え? そこまでなの? 番って・・・・・・怖い?
私はまだこのヴァルナス皇太子にそこまでの気持ちはない。綺麗で優しい男性だとは思うけれど、さきほど会ったばかりだから、気持ちの温度差が凄まじい。
「大丈夫だ。こんな現象は初めて見たが体調に変化がないなら、さなぎが蝶になったり蛇の脱皮のようなものだろう」
蛇の脱皮? 私は思わず笑ってしまう。小さな蛇が懸命に脱皮するところが頭に浮かんだから。
「ヴァルナス皇太子殿下、私のお嬢様を蛇に例えるのはお止めください!」
アデラインはかなりグロテスクな蛇を想像したみたい。不服そうに顔をしかめた。ヴァルナス皇太子殿下は不敬なアデラインに怒るどころか、申し訳なさそうに私に謝ってきた。
「確かにこんな可愛いステフを蛇に例えるなんて俺としたことが迂闊だった。すまない、ステフ。君はなにに例えたら良いだろう」
本気で悩むヴァルナス皇太子殿下が不思議だった。レオナード王太子殿下からは、このように謝られたことなど一度もなかった。
「私は可愛くなんてないです。だって婚約者に捨てられたのですから」
つい愚痴めいた言葉が口からこぼれる。
「ほぉーー。婚約者がいたのか? そいつを好きだったのか? 今でも好きか?」
室内の気温が急激に下がったかのように、ピリピリとした空気に包まれる。
「好き・・・・・・いっときはそう思っていましたが、今は好きではありません」
「そうか、それなら良い。今が好きではないなら、その男を思い出すことはやめろ。考えても時間の無駄だ。ステフは俺のことだけを考えていればいい」
険しい顔付きでいた彼が、穏やかに微笑んで頭を優しく撫でる。こんなにもストレートに好意を表現してくださる男性が初めてで、わかりやすい心の動きに少しだけ安堵する。レオナード王太子殿下はなにを考えていらっしゃるのかわからないことがよくあった。いつもこちらが機嫌を損ねないように気を配っても、気づかぬところで怒っているのよ。
でも、このヴァルナス皇太子殿下は違うみたい。
「私がすることで、ヴァルナス皇太子殿下のご機嫌が悪くなることってあるのかしら」
心の声がうっかり口をついてでた。
「それはひとつしかないな。他の男と浮気をすることだ。話やダンスや社交界での常識の範囲内なら問題ない。しかし、愛人関係とか恋人関係なんてものを認めるつもりはないぞ。俺も絶対にしないと約束する」
「愛人関係・・・・・・そのようなものは必要ありません。私は心から愛してくださる男性が一人いれば、それで充分幸せなのです」
「そうか。だったら俺の答えはいつでも上機嫌だ。ステフがなにをしても、いつも笑っていられるさ。俺達は価値観があうし相性は最高だ」
喜びに満ちた表情で笑いかけられて思わずコクリとうなづけば、抱きしめられて子供をあやすように背中をポンポンと撫でられた。この広くてたくましい腕のなかはとても居心地が良い。
やがて、大神官様がいらっしゃり、続々と皇家の騎士達や侍女達が到着する。
そうして、私を見た大神官様は・・・・・・膝をつき頭を床にこすりつけたのだった。
❁.。.:*:.。.✽.❁.。.:*:.。.✽.❁.。.:*:.。.✽.
※AIイラストに抵抗のない方へのお知らせ
「小説登場人物の為のイラストギャラリー」をエッセイで投稿しています。この小説の主人公達のいろいろなタイプがそこで見られます。推しを見つける感覚で覗いてみませんか?
※本日18時以降にエッセイを更新予定です。ステファニーの幼少期イラストになると思います。
10
お気に入りに追加
2,376
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?
鶯埜 餡
恋愛
バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。
今ですか?
めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?
【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す
おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」
鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。
え?悲しくないのかですって?
そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー
◇よくある婚約破棄
◇元サヤはないです
◇タグは増えたりします
◇薬物などの危険物が少し登場します
拝啓、婚約者様。婚約破棄していただきありがとうございます〜破棄を破棄?ご冗談は顔だけにしてください〜
みおな
恋愛
子爵令嬢のミリム・アデラインは、ある日婚約者の侯爵令息のランドル・デルモンドから婚約破棄をされた。
この婚約の意味も理解せずに、地味で陰気で身分も低いミリムを馬鹿にする婚約者にうんざりしていたミリムは、大喜びで婚約破棄を受け入れる。

公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる