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9 偶然出会った美しすぎる男性
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私とアデラインはセント・ニコライ修道院に一時的に避難しているという立場だった。なので修道服は渡されたけれど、私服でいることも許されていたし、自由に外出もできた。だからお母様は動きやすいワンピースをたくさん用意してくださったんだ。
ありがたくて涙がこぼれる。なぜならそのワンピースの一枚一枚に、お母様の刺繍がほどこされていたからよ。胸のあたりだったり、袖や裾などにある気持ちのこもった刺繍が嬉しい。これを着ているとお母様に守られている、そう感じさせてくれた。
セント・ニコライ修道院での生活はとても穏やかだったけれど、土地が荒廃して農作物が全く育たない。だから修道女達は皆、帝国から支給される食料に頼り切っていたわ。
「家畜を飼ってお世話をして、少しでも自給自足の生活を目指すべきです。今は良くても、これから先もこれだけ豊富な援助が続く保証はないと思います」
私の提案に院長は快く賛同してくださった。まずは家畜小屋を自分達で作らなければならない。木材や竹などの建材が手に入りそうな街まで、私とアデラインは出向くことにした。ついでに夜会服も数着持って行き、売ることに決める。
帝都からはかなり離れた街なのに、ルコント王国の王都よりも栄えていた。大きな通りには宝石店に、豊かな平民向けの仕立て屋や雑貨屋が並び、路地にはお洒落なカフェまであり、治安のゆきとどいた場所だと思う。
馬車を停車場にとめ御者には休憩するように言うと、私達は早速初めての帝国の街を探検し始めた。通りはどこも綺麗で整備され、閉まっている商店はひとつもない。強大な経済力と軍事力を誇る帝都の底力は、このような田舎の街にいても感じられた。木材商や建材屋が並ぶ一画を見つけると、私達は勇気を振り絞って足を踏み入れる。
「家畜の小屋を作りたいのです。鶏や小さな動物を飼えるような小屋を作るためには、どの木材が適しているかしら?」
「ちょっとお待ちくださいよ。まさか、あなたが家畜小屋を作るつもりですかね?」
にやにやしながら訊ねてくる店主にぞわっと悪寒がする。私はアデラインの腕を思わず掴みながらもうなづいた。
「あっははは。そんな細腕の華奢なお嬢さんと、そちらのお姉さんじゃぁ無理ですぜ。あっしの昔からの友人で腕利きの大工がいるんで紹介してあげますよ。そいつに建てさせたほうがずっと手間が省ける」
その大工の手間賃は、およそ30万ダラ(1ダラ=1円)だった。侯爵令嬢だった頃の私にとっては気にもとめない金額だけれど、今の私は平民だし修道院にそのような余裕はない。
「それは相場なのですか? 鶏だけを飼える小さな小屋で良いのですが」
「もちろん相場はもっと高いですよ。特別に安く紹介してあげよう、というあっしの善意を疑うのですかい? それにしてもお嬢さんの真っ白い髪は珍しいですね。どこから来たのかな? このあたりじゃ拝めないほどの美人さんですなぁーー」
「おいおい。大嘘も大概にしろよ。たかが鶏小屋に三十万ダラだと? 桁が違うな、三万ダラで充分なはずだ。高くとも五万ダラが相場だろう。このブリュボン帝国で詐欺を働こうとするなど、お前、良い度胸だな?」
振り返ると、すらりと背が高く鍛えられた身体を持つ美丈夫が立っており、こちらに向かって朗らかに微笑んでいる。けれど、店主に対しては鋭い睨みをきかせ、睨まれた店主の顔はすっかり青ざめていた。光沢のあるブロンドに素晴らしく青い瞳、完璧なほどまでに整った顔立ちは彫刻のようだった。
「も、申し訳ございまんせんっ! わ、わたしはだますつもりでは決してありませんでした。どうか、どうかお見逃しください」
店主はいきなりひざまずき、頭を床にこすりつけたのだった。
この方はだぁれ?
ありがたくて涙がこぼれる。なぜならそのワンピースの一枚一枚に、お母様の刺繍がほどこされていたからよ。胸のあたりだったり、袖や裾などにある気持ちのこもった刺繍が嬉しい。これを着ているとお母様に守られている、そう感じさせてくれた。
セント・ニコライ修道院での生活はとても穏やかだったけれど、土地が荒廃して農作物が全く育たない。だから修道女達は皆、帝国から支給される食料に頼り切っていたわ。
「家畜を飼ってお世話をして、少しでも自給自足の生活を目指すべきです。今は良くても、これから先もこれだけ豊富な援助が続く保証はないと思います」
私の提案に院長は快く賛同してくださった。まずは家畜小屋を自分達で作らなければならない。木材や竹などの建材が手に入りそうな街まで、私とアデラインは出向くことにした。ついでに夜会服も数着持って行き、売ることに決める。
帝都からはかなり離れた街なのに、ルコント王国の王都よりも栄えていた。大きな通りには宝石店に、豊かな平民向けの仕立て屋や雑貨屋が並び、路地にはお洒落なカフェまであり、治安のゆきとどいた場所だと思う。
馬車を停車場にとめ御者には休憩するように言うと、私達は早速初めての帝国の街を探検し始めた。通りはどこも綺麗で整備され、閉まっている商店はひとつもない。強大な経済力と軍事力を誇る帝都の底力は、このような田舎の街にいても感じられた。木材商や建材屋が並ぶ一画を見つけると、私達は勇気を振り絞って足を踏み入れる。
「家畜の小屋を作りたいのです。鶏や小さな動物を飼えるような小屋を作るためには、どの木材が適しているかしら?」
「ちょっとお待ちくださいよ。まさか、あなたが家畜小屋を作るつもりですかね?」
にやにやしながら訊ねてくる店主にぞわっと悪寒がする。私はアデラインの腕を思わず掴みながらもうなづいた。
「あっははは。そんな細腕の華奢なお嬢さんと、そちらのお姉さんじゃぁ無理ですぜ。あっしの昔からの友人で腕利きの大工がいるんで紹介してあげますよ。そいつに建てさせたほうがずっと手間が省ける」
その大工の手間賃は、およそ30万ダラ(1ダラ=1円)だった。侯爵令嬢だった頃の私にとっては気にもとめない金額だけれど、今の私は平民だし修道院にそのような余裕はない。
「それは相場なのですか? 鶏だけを飼える小さな小屋で良いのですが」
「もちろん相場はもっと高いですよ。特別に安く紹介してあげよう、というあっしの善意を疑うのですかい? それにしてもお嬢さんの真っ白い髪は珍しいですね。どこから来たのかな? このあたりじゃ拝めないほどの美人さんですなぁーー」
「おいおい。大嘘も大概にしろよ。たかが鶏小屋に三十万ダラだと? 桁が違うな、三万ダラで充分なはずだ。高くとも五万ダラが相場だろう。このブリュボン帝国で詐欺を働こうとするなど、お前、良い度胸だな?」
振り返ると、すらりと背が高く鍛えられた身体を持つ美丈夫が立っており、こちらに向かって朗らかに微笑んでいる。けれど、店主に対しては鋭い睨みをきかせ、睨まれた店主の顔はすっかり青ざめていた。光沢のあるブロンドに素晴らしく青い瞳、完璧なほどまでに整った顔立ちは彫刻のようだった。
「も、申し訳ございまんせんっ! わ、わたしはだますつもりでは決してありませんでした。どうか、どうかお見逃しください」
店主はいきなりひざまずき、頭を床にこすりつけたのだった。
この方はだぁれ?
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