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5 レオナード王太子殿下にすがってしまう私

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 私のゴールデンブロンドの髪が白くなっていった。色あせた花のように艶がなくなる。明るい青の瞳が暗い緑に変わっていくと、学園で親しくしていた友人達があからさまに避けだした。それはね、積極的な意地悪ではないわ。無為の嫌がらせ? 話しかけても聞こえないふりをされ、気づかないふりをされるの。
 無視という行為はとても傷つくけれど、された私は声を大にしてそれを抗議できない。だって、自分があまりにも惨めだもの。それに、もし私が面と向かって、その思いを訴えてもきっと上手にかわされてしまうわ。

「あら、私は本当に気がつかなかったのよ」って。
「神経質ね。考えすぎだわ」と、きっとあの子達は、柔らかな笑顔を浮かべて口先だけの上手な嘘を言うのよ。

 私はすっかり学園で孤立していくのに、それをかばうどころか助長させたのは、他でもない私の婚約者のレオナード王太子殿下だった。

「ねぇ、今のステファニーの立場をわかっている? 今の君では到底王太子妃の地位に相応しくないと思わないかな? いっそ辞退してくれれば良いのにねぇ」
 あれほど優しかったレオナード王太子殿下は、手のひらを返したように学園内でおっしゃるようになったのよ。

 嘘よ、絶対本心じゃないわ。だって、あれほど優しかったのに。これは夢よ、悪夢なのよ。きっと一晩寝て起きれば、また優しいレオナード王太子殿下に会えるはず。けれど、何日経っても彼の態度は冷たくて、学園内で王太子殿下にさげすまれた私は、男爵令嬢にすらばかにされた。

 こんな時にアデラインがいてくれたら、どんなに心強かったか。
 なぜ、黙って故郷に帰ってしまったの?
 学園に私の居場所がどんどんなくなっていくのよ・・・・・

 王立貴族学園の卒業記念パーティまで、あと半年という頃になって、また私の周りで異変が起こる。なんと、私がバーバラ・ゲルレーリヒ男爵令嬢に、嫌がらせをしているという噂がたったのよ。そう言えば、このところレオナード王太子殿下は彼女と一緒にいることが多かった。
 彼女はかつての私と同じゴールデンブロンドに青い大きな瞳が特徴的だった。今の私は白い髪に暗い緑の瞳で、この国の価値観から言えば、かなり疎まれる存在になっていた。こうなって初めて、髪や瞳の色に優劣をつけるこの国の文化を、間違っていると感じた。



❁.。.:*:.。.✽.


 
 いつもの王宮内の庭園で向かい合って飲む紅茶のかぐわしさは変わらないのに、その先にいるレオナード王太子殿下の顔付きも態度も声音もなにもかもが変わった。

 まるで悪い魔法にかけられているみたい。
 ねぇ、お願い。元のレオナード様に戻ってよ。
 いつも私の頭を撫でてほめてくださったあなたに戻ってよ!

 心の中でどんなに願っても返ってくるのは冷めた目つきに、退屈そうなため息ばかり。でも、私はレオナード王太子殿下を諦めたくない。嫌いになんかなれない。婚約してから6年間の二人の思い出が、あっさりと消滅するなんて思いたくない。

「ねぇ、いい加減に婚約は解消しないかい? ジュベール侯爵家から辞退してくれれば誰も傷つかない」
「嫌です。私はレオナード王太子殿下のお側にいたいのです。たくさん勉強して必ず殿下を支えますから」

 涙を流してレオナード王太子殿下を見つめる。以前なら、抱きしめて、慰めて、私が泣き止むまで寄り添ってくださっていたのに。今は微動だにせず私を見つめる。

「可愛い女性の涙は真珠だけれど、今のステファニーだと見苦しいだけさ。白い髪も老人のようだし、その沼底のような緑の瞳は不気味だよ」
「そのような悲しいことをおっしゃらないでくださいませ。きっと前のように戻るとお医者様もおっしゃってくださいました。だってどこにも異常がないのです」

 私は泣きながらすがっていた。いっそ、大嫌いになりたいのに、どうしてもなれないの・・・・・・レオナード王太子殿下がいなくなってしまったら、自分が信じていたことがすべて崩れ落ちていくわ。

「でも、ステファニーはバーバラを虐めていたのだろう?」
 まさか、レオナード王太子殿下までそんな噂を信じていたの?



୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧

※バーバラさんの髪色と瞳色をピンクブロンドからゴールデンブロンドに変えました。この方が説得力がある気がしたので。
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