4 / 45
3 王太子に質問するアデライン
しおりを挟む
ところが私の専属侍女アデラインは思いがけない言葉を口にした。それは帰りの馬車の中で、先ほどのキャサリン王太子殿下の口ぶりを非難し始めたのよ。
「ステファニーお嬢様はけっして物覚えが悪いわけではありませんよ。全てを完璧にこなすなど、希代の天才でなければできません。教師の皆さんは意地悪ですよ。いつだって誰かと比べます。ですが、こう申し上げてはなんですが、その先生がたや奥様に王妃殿下だって、全てを完璧にはできませんよ? あの王妃殿下のおっしゃり方は酷いですわ」
「まぁ、アデライン。あなたってば、そんなことを言ったら不敬罪になるわよ」
私はアデラインが大好きなの。私の為に怒ってくれるし、悲しい時には一緒に泣いてくれるのよ。
幼い頃の苦い出来事を思い出す。あれはお母様のお誕生日に、必死で練習した曲を弾いた時だった。お母様の大好きな曲を毎日練習して、きっと喜んでくださると思ったの。でも・・・・・・
「とても上手に弾けましたね。ですが、オーデン侯爵令嬢は有名なピアノコンテストで一位だったらしいわよ」
私の気持ちが一気にしぼんでいったわ、オーデン侯爵令嬢より自分が劣っている、そう言われた気がしたの。その時に慰めてくれたのはアデラインだった。
「ステファニーお嬢様のピアノは世界一ですよ。なにより心がこもっておいででした」
そう言って抱きしめてくれた。だから、レオナード王太子殿下と同じぐらい大事な人はアデラインだったの。
❁.。.:*:.。.✽.
「今日も頑張ったね。おいで」
いつもの王太子妃教育の講義の後に、腕を広げて待っていてくれるレオナード王太子殿下に、ほんの一瞬抱きしめられるだけで、その一日の辛いことが吹き飛ぶ。いつもの王宮の庭園のガゼボ。講義が終わると必ずそこで彼がお茶を飲みながら待っていてくれるのよ。
異文化を学ぶ講義の先生に、国際法ぐらいはすべて暗記するものだと言われたことも一瞬忘れられたわ。あれは分厚い辞書並みのテキストで、きっと寝る時間も相当削らなければならないと覚悟していた。
「レオナード王太子殿下、私がお話をさせていただく許可をくださいませ。殿下は国際法をすべて暗記なさっていますか?」
私を抱きしめて、よしよしと頭を撫でるレオナード王太子殿下に、少しこわばった声で質問したアデライン。私とレオナード王太子殿下が一緒にいるときには、必ずアデラインが側に控えていた。もちろん王太子妃教育の場でもアデラインは私の側を離れない。
「国際法だって? あれほどの条文をすべて暗記なんてできると思うかい? 主要なところだけは覚えておかなければならないが、枝葉の部分なんてわざわざ暗記する必要もないだろう? それに法律は改正されることもあるし、その時々で調べれば良いと思うのだが」
意外な返答にびっくりした。てっきりレオナード王太子殿下も同じような指導を受けていると思っていたのよ。
「あのぉーー、私はすべてを暗記するように言われたのですが・・・・・・」
「あらあら、まぁまぁ。そんなことは当たり前のことですよ。王太子を支える王太子妃は、博識でなければいけません。レオナードは座学の他にもたくさんのお勉強があるのです。そのぶんステファニーが、がんばるのは当然ですわ」
その声はキャサリン王妃殿下で、私は慌てて振り返りカーテシーをした。
「そうなのだよ。僕は戦略や戦術、兵法なども学んだり、剣の稽古もあるからね」
あぁ、確かにそうよね。将来的には王立騎士団を指揮することになるのだから、きっと大変なことに違いないのよ。レオナード王太子殿下の方がよほど辛い特訓を受けているはずだわ。
「申し訳ありません。私の専属侍女が余計な質問をしました」
「いいわ、全く気にしていませんよ」
にこにこと穏やかな笑みを浮かべたキャサリン王妃殿下にほっとしたけれど、その翌日、アデラインは姿を消してしまった。
「お母様、朝からアデラインがいませんわ」
「あぁ、アデラインは・・・・・・」
私はお母様の返答に裏切られた気がした。だってアデラインは・・・・・・
「ステファニーお嬢様はけっして物覚えが悪いわけではありませんよ。全てを完璧にこなすなど、希代の天才でなければできません。教師の皆さんは意地悪ですよ。いつだって誰かと比べます。ですが、こう申し上げてはなんですが、その先生がたや奥様に王妃殿下だって、全てを完璧にはできませんよ? あの王妃殿下のおっしゃり方は酷いですわ」
「まぁ、アデライン。あなたってば、そんなことを言ったら不敬罪になるわよ」
私はアデラインが大好きなの。私の為に怒ってくれるし、悲しい時には一緒に泣いてくれるのよ。
幼い頃の苦い出来事を思い出す。あれはお母様のお誕生日に、必死で練習した曲を弾いた時だった。お母様の大好きな曲を毎日練習して、きっと喜んでくださると思ったの。でも・・・・・・
「とても上手に弾けましたね。ですが、オーデン侯爵令嬢は有名なピアノコンテストで一位だったらしいわよ」
私の気持ちが一気にしぼんでいったわ、オーデン侯爵令嬢より自分が劣っている、そう言われた気がしたの。その時に慰めてくれたのはアデラインだった。
「ステファニーお嬢様のピアノは世界一ですよ。なにより心がこもっておいででした」
そう言って抱きしめてくれた。だから、レオナード王太子殿下と同じぐらい大事な人はアデラインだったの。
❁.。.:*:.。.✽.
「今日も頑張ったね。おいで」
いつもの王太子妃教育の講義の後に、腕を広げて待っていてくれるレオナード王太子殿下に、ほんの一瞬抱きしめられるだけで、その一日の辛いことが吹き飛ぶ。いつもの王宮の庭園のガゼボ。講義が終わると必ずそこで彼がお茶を飲みながら待っていてくれるのよ。
異文化を学ぶ講義の先生に、国際法ぐらいはすべて暗記するものだと言われたことも一瞬忘れられたわ。あれは分厚い辞書並みのテキストで、きっと寝る時間も相当削らなければならないと覚悟していた。
「レオナード王太子殿下、私がお話をさせていただく許可をくださいませ。殿下は国際法をすべて暗記なさっていますか?」
私を抱きしめて、よしよしと頭を撫でるレオナード王太子殿下に、少しこわばった声で質問したアデライン。私とレオナード王太子殿下が一緒にいるときには、必ずアデラインが側に控えていた。もちろん王太子妃教育の場でもアデラインは私の側を離れない。
「国際法だって? あれほどの条文をすべて暗記なんてできると思うかい? 主要なところだけは覚えておかなければならないが、枝葉の部分なんてわざわざ暗記する必要もないだろう? それに法律は改正されることもあるし、その時々で調べれば良いと思うのだが」
意外な返答にびっくりした。てっきりレオナード王太子殿下も同じような指導を受けていると思っていたのよ。
「あのぉーー、私はすべてを暗記するように言われたのですが・・・・・・」
「あらあら、まぁまぁ。そんなことは当たり前のことですよ。王太子を支える王太子妃は、博識でなければいけません。レオナードは座学の他にもたくさんのお勉強があるのです。そのぶんステファニーが、がんばるのは当然ですわ」
その声はキャサリン王妃殿下で、私は慌てて振り返りカーテシーをした。
「そうなのだよ。僕は戦略や戦術、兵法なども学んだり、剣の稽古もあるからね」
あぁ、確かにそうよね。将来的には王立騎士団を指揮することになるのだから、きっと大変なことに違いないのよ。レオナード王太子殿下の方がよほど辛い特訓を受けているはずだわ。
「申し訳ありません。私の専属侍女が余計な質問をしました」
「いいわ、全く気にしていませんよ」
にこにこと穏やかな笑みを浮かべたキャサリン王妃殿下にほっとしたけれど、その翌日、アデラインは姿を消してしまった。
「お母様、朝からアデラインがいませんわ」
「あぁ、アデラインは・・・・・・」
私はお母様の返答に裏切られた気がした。だってアデラインは・・・・・・
17
お気に入りに追加
2,376
あなたにおすすめの小説

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました
八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」
子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。
失意のどん底に突き落とされたソフィ。
しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに!
一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。
エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。
なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。
焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──
居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?
gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。
みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。
黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。
十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。
家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。
奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

婚約破棄をしてくれた王太子殿下、ありがとうございました
hikari
恋愛
オイフィア王国の王太子グラニオン4世に婚約破棄された公爵令嬢アーデルヘイトは王国の聖女の任務も解かれる。
家に戻るも、父であり、オルウェン公爵家当主のカリオンに勘当され家から追い出される。行き場の無い中、豪商に助けられ、聖女として平民の生活を送る。
ざまぁ要素あり。
我慢するだけの日々はもう終わりにします
風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。
学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。
そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。
※本編完結しましたが、番外編を更新中です。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※独特の世界観です。
※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
冤罪を受けたため、隣国へ亡命します
しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」
呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。
「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」
突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。
友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。
冤罪を晴らすため、奮闘していく。
同名主人公にて様々な話を書いています。
立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。
サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。
変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。
ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます!
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります

婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?
鶯埜 餡
恋愛
バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。
今ですか?
めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる