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1 格上貴族に嫁ぎます

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「まぁ。ウィンザー侯爵家に嫁ぐなんて、私に務まるでしょうか?」

「父上。なぜイレーヌ姉様をそのような高位貴族に嫁がせるのですか? 当家は男爵家です。イレーヌ姉様があちらに侮られ、辛い思いをするかもしれませんよ?」

「大丈夫だろう。イレーヌはとても賢く美しい。きっとエリック様も一目惚れなさるよ。それにあちらには我がラエイト商会に莫大な借金があるからね。イレーヌを粗末に扱うなんてできないはずだよ」

 私とマルテスはお父様の執務室に呼ばれ、いきなりこのお話を聞かされている。ちなみに、お父様は少々親バカな部分がある。私が賢いことは認めるが、美しいかといえば不細工ではないが、至って平凡だ。栗色の髪と同じ色合いの瞳、顔立ちもあまり人の印象に残るほうではない。

 目立たなくて気が弱そうに見える私は、小説で言えばズバリ脇役そのものよ。でも、そのお陰で良いこともある。私を見た人は皆、私を見くびるからだ。

『反論もできないおとなしそうな女性。従順で控えめで弱々しいイメージ』それはわたしにとっては武器でもある。相手は安心して本性を見せてくれるから、こちらも対処の仕方を間違えないのですむのよ。

「私の愛娘には侯爵夫人の地位が相応しいと思ったからね。それに亡くなったマドレーヌも、イレーヌには最高の人生を与えてあげたいと思っているだろう」

 マドレーヌというのは私のお母様のことよ。お父様の価値観はかなり問題がある。人は身分を得たからといって、必ずしも幸せにはなれない。けれど、お父様なりに私の幸せを考えてくださっているから、私はなにも言わなかった。

 ラエイト男爵家の主要事業は、貴族や王侯たちのためのアパレル産業である。美しい絹織物、繊細な刺繍、高品質の衣服を製造し、それらを市場で販売している。ラエイト男爵家は原材料の調達、生産、販売戦略を的確に計画し、顧客たちの要望に合致した製品を提供することで、事業を急成長させてきた。

 私はラエイト男爵家の1人娘のイレーヌで、私には養子になった弟であるマルテスがいる。彼は二歳年下だけれど、まるで私の兄であるかのように、私を守ろうとする優しい子よ。

 ちなみにこのポスルスウェイト国では女性は爵位を継ぐことはできず、その役割は男子が担うことが求められていた。そのため、ラエイト男爵家も遠縁にあたる男子を養子として迎え入れた。それが弟のマルテスで、私達の仲は良好だった。私のお母様は既に病死しており再婚する気もないお父様は、マルテスを養子に迎え爵位は彼に継がせ、私を高位貴族に嫁がそうと計画したのだった。


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