上 下
22 / 23

IF 後悔するデラノ

しおりを挟む
※こちらは、強制労働の場に行かなかった場合のデラノの展開です。
•───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•

 

 「デラノ、エレノア嬢への20万ダリア(1ダリア=1円)の慰謝料の支払いを命ずる。また、これまでエジャートン公爵家から提供されていた援助金は、利息を含めて返済するように」

 国王の言葉に、王家主催の学期末パーティに参加していた貴族たちは、互いに頷き合った。この国では、婚約破棄による慰謝料は通常さほど高額にはならない。ましてやデラノとキャリーの場合は、確かな証拠がある肉体関係もなく、キスに手繋ぎと腕を組む程度だ。そのため、20万ダリアという比較的低額な慰謝料が提示された。

 しかし、国王の裁断を聞いたデラノは、悔しげに唇を噛んだ。王立学園に通う学生にすぎない彼にとって、20万ダリアでさえ大金なのだ。

 文官である父が立て替えることとなったが、今後の生活に与える影響は計り知れない。なぜなら、彼が公爵家から婚約者として受け取っていた援助金は、月に50万ダリアにもなったからだ。これを数ヶ月にわたって受け取っていたため、総額は膨大だ。

 デラノの父は「少しずつでいいから返済するように」と、淡々とデラノに言った。つまり、デラノは学園を卒業した後、何らかの職に就いて父に借金を返さねばならない。公爵家の婚約者として贅沢に慣れていたデラノにとって、働いて借金を返済する生活など想像もつかない苦痛だったが、もはや逃げ道はないのだ。

 これまで自分が威張り散らしていた兄弟からは冷ややかな視線を向けられ、周囲の生徒たちからも軽んじられるようになってしまった。自分の立場が一瞬で変わってしまったことを実感し、デラノはますます心が沈んでいく。

 デラノの成績も下降の一途をたどっていた。キャリーと付き合い始めてから彼女との遊びに夢中になり、勉学がおろそかになっていたが、エレノアが食事や生活を支えてくれていた時はまだ持ちこたえていた。しかし、エレノアからのサポートを失って以来、集中力はさらに散漫となり、体も徐々に緩んでいった。

 クラスメイトからの嘲笑が増す中で、デラノはやがて食べることだけが楽しみとなり、身体はますます大きくなるばかりだ。もはや彼に憧れる女生徒はひとりもいなくなった。

「お前のこのままの成績では、文官にはなることなど、到底無理だ。かといって、騎士団に入れるような腕も体力もない。この先どうやって生きていくつもりなんだい?  学園を卒業すれば、もう誰も甘やかしてくれないぞ」

 兄の冷たい言葉が胸に突き刺さる。今の自分は、かつてエレノアが支えてくれていた時とはまるで違う。エレノアに守られ、何不自由なく過ごしていた日々がどれほど恵まれていたか、今になってようやく思い知らされたのだ。

 エレノアの優しさに包まれていた頃、僕は大きな愛で守られていたんだ。なんで、それを当たり前だと思ってしまったんだろう?

 何度も思い返しては後悔の念が押し寄せる。それでも現実は容赦なく、今やエレノアの隣にはベッカムがいる。お似合いの二人に、自分の居場所がないことを痛感した。もうエレノアの瞳に自分が映ることは二度とない。彼女の心の中にはもはや自分は存在しないのだ。

 ふと、かつての彼女の声が耳に蘇る。
 「デラノ、あなたの未来はあなた次第よ」
 あの言葉は真理だったと思う。あの時、彼女の言葉をもっと真剣に受け止めていれば、今の自分は違ったのかもしれない。

 デラノは心の底から後悔し、深いため息をついたのだった。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

誰でもよいのであれば、私でなくてもよろしいですよね?

miyumeri
恋愛
「まぁ、婚約者なんてそれなりの家格と財産があればだれでもよかったんだよ。」 2か月前に婚約した彼は、そう友人たちと談笑していた。 そうですか、誰でもいいんですね。だったら、私でなくてもよいですよね? 最初、この馬鹿子息を主人公に書いていたのですが なんだか、先にこのお嬢様のお話を書いたほうが 彼の心象を表現しやすいような気がして、急遽こちらを先に 投稿いたしました。来週お馬鹿君のストーリーを投稿させていただきます。 お読みいただければ幸いです。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

公爵様は幼馴染に夢中のようですので別れましょう

カミツドリ
恋愛
伯爵令嬢のレミーラは公爵閣下と婚約をしていた。 しかし、公爵閣下は幼馴染に夢中になっている……。 レミーラが注意をしても、公爵は幼馴染との関係性を見直す気はないようだ。 それならば婚約解消をしましょうと、レミーラは公爵閣下と別れることにする。 しかし、女々しい公爵はレミーラに縋りよって来る。 レミーラは王子殿下との新たな恋に忙しいので、邪魔しないでもらえますか? と元婚約者を冷たく突き放すのだった。覆水盆に返らず、ここに極まれり……。

【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。

曽根原ツタ
恋愛
 ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。  ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。  その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。  ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?  

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

処理中です...