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図に乗るデラノ

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「まぁ、こんなに大きなルビーの指輪を買ってくださるんですか?」
「うん、キャリーにはぴったりだろう? 本当は僕の瞳の色を身につけてほしいけど、黒い瞳だとブラックダイヤとかオニキスになってしまう。可愛くないから」

 三連休の二日目、デラノとキャリーは薄暗い街路にある小さな宝石店に来ていた。ふたりとも貴族の知り合いに見られるとまずいので、貴族が足を踏み入れることは稀な目立たない店にしたのだ。

 しかし、ショーケースに並べられた宝石は品質の良い物で、値段も良心的であると、庶民のあいだでは評判の店だった。

 「でも……この指輪、かなりお高いですよ。デラノ様、大丈夫ですか?」
 「あぁ、その点なら気にしないでいいよ。エジャートン公爵家から、お小遣いを毎月もらっているんだ。なんでも好きなことに使えるお金さ。公爵家ともなると、気前がいいんだよね」
 「すごい! お小遣いでこれが買えるなんて……エジャートン公爵になったら、いったいどんなものが買えるようになるのかしら?」
 「そうだな。もっと高価な宝石に贅沢なドレス、豪華な屋敷に最新のピカピカの馬車、そして……あぁ、考えるだけで楽しみだな。公爵になったら、僕は何不自由なく暮らせる身分になる」
 
 デラノはそう言いながら、ルビーの指輪をキャリーの前に置く。彼の指はエレノアの父エジャートン公爵から渡されたお金が入っている袋を無造作に撫でた。

 キャリーはその様子を見て、目を輝かせた。彼女は贅沢な生活を想像しながら、指先でリングをはしゃいだように転がす。

「今はこれで我慢するけど、エジャートン公爵夫人になったら、エレノア様が持つ全てが私のものになるのね。楽しみだわ!」

 デラノは軽く笑いながら、「エレノアはしっかりしているが、所詮お堅いだけの女さ。僕には退屈すぎる。キャリーといるほうがずっと楽しいよ」と甘い声で囁いた。

 キャリーはそれを聞いて満足げに頷き、リングを指にはめる。
「デラノ様、このルビーとお揃いのネックレも欲しいわ」

 デラノはうなずきながら、また袋の中からコインを取り出す。
 「もちろんさ、キャリー。僕たちの未来は輝いてる。こんなのはほんの始まりに過ぎない。もっとたくさん、もっと派手に……これからは、なんでも手に入るさ」

 キャリーはそれを聞いて、さらに大胆になった。
 「ああ、楽しみね。デラノがエジャートン公爵になったら、早くエレノアなんか追い出して、私たちの本当の生活を始めましょうね」

 二人は互いに甘い言葉を交わしながら、小さな宝石店で自分たちの未来を夢見ていた。しかし、その無分別さは、いずれ彼らを破滅へと導く。

 

 その店にはさきほどから、エジャートン公爵家の侍女とフットマンがおり、彼らの会話をひと言も漏らさず聞いていた。彼らは仲の良い夫婦に扮して、エレノアのためにデラノたちを尾行していたのだ。侍女たちは忠実なエジャートン公爵家の使用人で、エジャートン公爵夫妻を敬愛し、エレノアに心から仕えていた。

 デラノたちが帰ると、侍女たちは宝石店の店主に、話を持ちかける。
 「王宮内の大広間に行ってみたいと思いませんか? あのふたりがルビーの指輪を買ったと、証言してくださればありがたいのですが……私はエジャートン公爵家の侍女で、こっちはフットマンですわ」

 ひと月後の『王家主催の学期末祝賀パーティ』は、王宮の大広間で開かれる。このパーティは学園の学期末を祝うとともに、優秀な生徒や高位貴族の子弟たちの社交デビューを後押しする重要な場である。王家が主催し学園内での功績が披露されるため、多くの注目を集める。若い貴族たちが社交界に出る準備をし、王家が次世代の有望な若者を見定める名誉ある舞台でもあるのだ。



 連休三日目のデラノはエジャートン公爵家に招かれていた。満面の笑みで迎えてくれるエジャートン公爵夫妻に頭をさげる。
 
 「デラノ君、勉学に励んでいるかね? 最近はカフェテリアで食事をしているそうだな。そのせいか、少しふっくらしてきたような気がするぞ」

 心配するような口調で言うエジャートン公爵からは、愛娘の婚約者としてデラノを大事に扱っていることがよくわかる。
 
 「えっ? そうでしょうか……でしたら、またエレノア様にヘルシーなランチを持ってきてもらいます。ねっ、エレノア様。脂っこいカフェテリアの食事もそろそろ飽きてきたから、いつものヘルシーな食材を持ってきてほしいなぁ」
 
 てっきり、同意してくれると思っていたエレノアは、にっこりと微笑みながら首を横に振る。
 
 「むしろ、前よりも健康的で素敵ですわ。以前は少し痩せすぎていたのかもしれません。私の食事管理が厳しすぎたせいでしょう。ごめんなさいね」

 デラノはエレノアにそう言われて、内心がっかりしていた。カフェテリアでの食事に飽きてきたというのは事実で、エジャートン公爵家のあっさりとした味が恋しくなってきたのだ。薄味ながらも手が込んだ料理は、学園内のカフェテリアでは決してだされることはない。
 しかし、デラノのためにエレノアがランチを持ってくることは二度となかった。

 やがて、迎えた王家主催の学期末祝賀パーティでは……
 
 
 
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