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勘違いしていくデラノ
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デラノside
デラノは痩せたことでまるで別人のようになり、黒髪に黒い瞳が際立つ、甘く色っぽい顔立ちになっていた。
(僕って、元々こんなに顔立ちが良かったんだな。特にこの斜め45度の右顔なんて、自分でも惚れ惚れするほど完璧じゃないか。まさに芸術作品だよな!)
今のデラノは学園の女の子たちの注目の的だ。以前の太っていて吹き出物だらけの姿から、笑い者にされていたとは信じられないほど、彼の周りには常に女の子が集まるようになっていた。
そんな彼はエレノアとの婚約が決まったことで、ますます助長していく。彼はエジャートン公爵令嬢の婚約者という立場に自信を持ち、すっかり優越感を抱くようになっていた。エレノアが自分に惚れているのは明らかだ、と勝手に思い込み、婚約が自分の地位を盤石にしたという錯覚に陥っていた。
エレノアが自分を見つめる瞳には確かな愛を感じたし、デラノを褒める声は甘く、心地良い。つまり、彼はすっかり調子に乗っていたのである。
ある日の放課後、デラノは学園の庭にある美しい噴水の近くに腰を下ろしていた。庭園には至る所にベンチが設けられており、学生たちはその景観を楽しみながら休憩を取ることができる。陽光が彼の黒髪を輝かせ、周囲の少女たちの視線が自分に集まっているのを感じて、デラノは心の中で誇らしさを募らせていた。
彼の隣に現れたのは、クロネリー男爵令嬢のキャリーだった。キャリーは明るく朗らかな子で、大きな瞳と可愛らしい笑顔が特徴だ。その社交的な性格と愛嬌で、男子生徒たちには特に人気があった。彼女はデラノの変貌にいち早く気づき、いつの間にか頻繁に話しかけるようになっていた。
「デラノ様、今日はまた一段と素敵ですね。エレノア様が羨ましいわ」
キャリーが甘えたように笑いかけると、デラノも満足そうに微笑んだ。デラノは軽く手を振りながら答える。
「ありがとう、キャリー。でも、エレノアはちょっと堅苦しいところがあってね。君のといたほうが……楽しいかもな」
その言葉にキャリーは笑みを深め、さらにデラノに近づく。彼女の手が軽くデラノの腕に触れると、彼は顔を赤くしながらもその行為を拒むことなく受け入れ、むしろ満更でもなさそうに見える。
「エレノア様と結婚したら、エジャートン公爵になるのでしょう? 素晴らしい出世ですわ。でも、たまには息抜きも必要ですよね?」
「そうだな。エレノアの前ではこうして自由に話せないからね」
デラノは、エレノアが目の前にいない今、自分がどれほどリラックスしているかを実感していた。公爵令嬢である彼女の前では、常に完璧であろうとしなければならないが、キャリーと一緒にいると、その重圧から解放されるようだった。
彼の心の中で、婚約者エレノアに対する敬意は次第に薄れ、彼女の存在はもはや自分の社会的地位を誇示するための道具にしか映らなくなっていた。かつては感謝していた彼女の心尽くしのランチも、今ではすっかり当たり前のものに成り下がり、ヘルシーな料理を出されるたびにもっと脂っこい料理を持ってきたらいいのに、と不満を抱くようになっていた。
「エレノア様のような美しく高貴なお方から選ばれたデラノ様は、本当に素晴らしいですわ。お二人はとてもお似合いですもの。特に、エレノア様がデラノ様をとても大切にされているのが印象的ですわね」
「エレノアか。確かに美しいし、公爵家の令嬢だけど、どこか退屈なんだよな。何かとお高くとまっているし、正直、一緒にいると気を遣って疲れることもあるんだ」
デラノは鼻で笑いながら、キャリーの前で見栄を張る。
キャリーはその言葉にふっとほほ笑み、少し視線を伏せ悲しげな表情を浮かべた。
「わかりますわ。やはり、身分の違いから起こる価値観のズレってありますよね? 私も平民出身なんです。今の身分は男爵令嬢ですけど、母は平民でした。学園入学前に父親のクロネリー男爵に引き取られたんです」
キャリーは実母の死がきっかけで、クロネリー男爵家に引き取られたが、継母からいつも虐められていると嘆いた。
デラノはキャリーの複雑な家庭の事情に深く同情した。
「ひとりで悩まなくていいよ。僕が力になる。だって、僕は将来エジャートン公爵になる立場だからね」
デラノはキャリーを救えるのは自分だけだと確信した。彼は公爵令嬢エレノアとの婚約によって、エジャートン公爵家から毎月『婚約者支援金』を受け取っていた。これは平民出身のデラノが、公爵家の婚約者としてふさわしい生活を送れるようにとの名目で支給されているものだった。娘を溺愛するエジャートン公爵は、娘の婚約者であるデラノをも自分の息子のように大切に扱い、その生活を手厚く支援していたのだ。
「お優しいのね、デラノ様って。お顔だけじゃなくて、慈悲深くて温かい心もお持ちなのね。私、甘えてもよろしいかしら?」
「もちろん! 僕にできることなら、なんでもしてあげるよ」
デラノは、自分がまるで偉大な人物になったかのような気分に浸っていた。ここが学園の庭園であることも忘れ、彼は悲しみに沈むキャリーの手を、励ますようにしっかりと握ったのだった。
そんなふたりの様子を、遠くから見つけてしまったのがエレノアである。エレノアは……
デラノは痩せたことでまるで別人のようになり、黒髪に黒い瞳が際立つ、甘く色っぽい顔立ちになっていた。
(僕って、元々こんなに顔立ちが良かったんだな。特にこの斜め45度の右顔なんて、自分でも惚れ惚れするほど完璧じゃないか。まさに芸術作品だよな!)
今のデラノは学園の女の子たちの注目の的だ。以前の太っていて吹き出物だらけの姿から、笑い者にされていたとは信じられないほど、彼の周りには常に女の子が集まるようになっていた。
そんな彼はエレノアとの婚約が決まったことで、ますます助長していく。彼はエジャートン公爵令嬢の婚約者という立場に自信を持ち、すっかり優越感を抱くようになっていた。エレノアが自分に惚れているのは明らかだ、と勝手に思い込み、婚約が自分の地位を盤石にしたという錯覚に陥っていた。
エレノアが自分を見つめる瞳には確かな愛を感じたし、デラノを褒める声は甘く、心地良い。つまり、彼はすっかり調子に乗っていたのである。
ある日の放課後、デラノは学園の庭にある美しい噴水の近くに腰を下ろしていた。庭園には至る所にベンチが設けられており、学生たちはその景観を楽しみながら休憩を取ることができる。陽光が彼の黒髪を輝かせ、周囲の少女たちの視線が自分に集まっているのを感じて、デラノは心の中で誇らしさを募らせていた。
彼の隣に現れたのは、クロネリー男爵令嬢のキャリーだった。キャリーは明るく朗らかな子で、大きな瞳と可愛らしい笑顔が特徴だ。その社交的な性格と愛嬌で、男子生徒たちには特に人気があった。彼女はデラノの変貌にいち早く気づき、いつの間にか頻繁に話しかけるようになっていた。
「デラノ様、今日はまた一段と素敵ですね。エレノア様が羨ましいわ」
キャリーが甘えたように笑いかけると、デラノも満足そうに微笑んだ。デラノは軽く手を振りながら答える。
「ありがとう、キャリー。でも、エレノアはちょっと堅苦しいところがあってね。君のといたほうが……楽しいかもな」
その言葉にキャリーは笑みを深め、さらにデラノに近づく。彼女の手が軽くデラノの腕に触れると、彼は顔を赤くしながらもその行為を拒むことなく受け入れ、むしろ満更でもなさそうに見える。
「エレノア様と結婚したら、エジャートン公爵になるのでしょう? 素晴らしい出世ですわ。でも、たまには息抜きも必要ですよね?」
「そうだな。エレノアの前ではこうして自由に話せないからね」
デラノは、エレノアが目の前にいない今、自分がどれほどリラックスしているかを実感していた。公爵令嬢である彼女の前では、常に完璧であろうとしなければならないが、キャリーと一緒にいると、その重圧から解放されるようだった。
彼の心の中で、婚約者エレノアに対する敬意は次第に薄れ、彼女の存在はもはや自分の社会的地位を誇示するための道具にしか映らなくなっていた。かつては感謝していた彼女の心尽くしのランチも、今ではすっかり当たり前のものに成り下がり、ヘルシーな料理を出されるたびにもっと脂っこい料理を持ってきたらいいのに、と不満を抱くようになっていた。
「エレノア様のような美しく高貴なお方から選ばれたデラノ様は、本当に素晴らしいですわ。お二人はとてもお似合いですもの。特に、エレノア様がデラノ様をとても大切にされているのが印象的ですわね」
「エレノアか。確かに美しいし、公爵家の令嬢だけど、どこか退屈なんだよな。何かとお高くとまっているし、正直、一緒にいると気を遣って疲れることもあるんだ」
デラノは鼻で笑いながら、キャリーの前で見栄を張る。
キャリーはその言葉にふっとほほ笑み、少し視線を伏せ悲しげな表情を浮かべた。
「わかりますわ。やはり、身分の違いから起こる価値観のズレってありますよね? 私も平民出身なんです。今の身分は男爵令嬢ですけど、母は平民でした。学園入学前に父親のクロネリー男爵に引き取られたんです」
キャリーは実母の死がきっかけで、クロネリー男爵家に引き取られたが、継母からいつも虐められていると嘆いた。
デラノはキャリーの複雑な家庭の事情に深く同情した。
「ひとりで悩まなくていいよ。僕が力になる。だって、僕は将来エジャートン公爵になる立場だからね」
デラノはキャリーを救えるのは自分だけだと確信した。彼は公爵令嬢エレノアとの婚約によって、エジャートン公爵家から毎月『婚約者支援金』を受け取っていた。これは平民出身のデラノが、公爵家の婚約者としてふさわしい生活を送れるようにとの名目で支給されているものだった。娘を溺愛するエジャートン公爵は、娘の婚約者であるデラノをも自分の息子のように大切に扱い、その生活を手厚く支援していたのだ。
「お優しいのね、デラノ様って。お顔だけじゃなくて、慈悲深くて温かい心もお持ちなのね。私、甘えてもよろしいかしら?」
「もちろん! 僕にできることなら、なんでもしてあげるよ」
デラノは、自分がまるで偉大な人物になったかのような気分に浸っていた。ここが学園の庭園であることも忘れ、彼は悲しみに沈むキャリーの手を、励ますようにしっかりと握ったのだった。
そんなふたりの様子を、遠くから見つけてしまったのがエレノアである。エレノアは……
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