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2 お互いが不幸な関係 ワガママーナside / ソラside
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🍀ワガママーナside
「ソラ、あなたは髪の結い方が雑なのよ? 本当に不器用な人ねぇ! だから子爵令嬢なんて嫌だったのよ! あなたがベントレー様に側にいたいからと頼んだのでしょう? どこまで図々しいのかしら」
ワガママーナはソラがベントレーの婚約者だったことを知りながらも自らの侍女にすることを承諾したが、それは決して優しい気持ちからではなかった。美しいけれど身分の低いソラを侍女として置いておけばいつでも貶めることができるからであった。
(これほどの美貌だもの。王都にでも行って高位貴族の侍女にでもなられたら玉の輿に乗って幸せな結婚をしちゃうわ。私の夫の元婚約者が私より幸せになるなんて許せないわよ! ソラは私の侍女として一生飼い殺してやる!)
どす黒い意地の悪い気持ちがこみ上げてくるワガママーナにとってソラはなにをしても気にくわない侍女なのである。
「ねぇ、子爵令嬢って惨めよね? そんなに綺麗でも好きな男性は王女である私に取られて、おまけに私の侍女になるなんて女としてのプライドもないのね」
「辺境伯家のご命令ですから子爵令嬢の私が逆らえるはずもありません。両親にも逆らえませんし・・・・・・」
「嘘をおっしゃい! ソラがベントレー様を諦められなくてここにいるのでしょう? ソラが泣いて頼むから仕方なくとスノーホワイト辺境伯様はおっしゃっていたわ。私は心の広い優しい王女だから承諾してあげたのよ。でも実際は貴方の性根はあさましいし反吐がでるわよ。きっとベントレーを誘惑しようとして私の侍女になりたがったのでしょう?」
容赦なく扇で手を叩かれ、赤く染まった手の甲に血が滲む。扇の飾りのサファイアが凶器となってソラの皮膚を裂いたからである。
血が流れた手の甲を意地悪く眺めて思いっきり高笑いをするワガママーナはさらにソラに言葉を投げつけた。
「私の扇を血で汚した罰だわ。今日の夕飯は水だけよ。下がりなさい」
「かしこまりました。ですが私はそのような気持ちは全く持っておりません」
気丈にもそう答えたソラの頬を思わず叩きそうになりグッと堪えた。
(顔に傷をつけるのは目立ちすぎてまずいわ。それにしても侍女の質素な服を着ていながら私より美しいなんて癪に障るわ。あの悲しげな顔だってわざとらしいのよっ! ベントレー様はソラをチラチラと見ることをやめないし・・・・・・あぁ、いらつく!)
ワガママーナは腹いせに固い定規を手に持ちソラの背中に向かって振り下ろした。愛しい夫の心に少しでも居座っている女の存在は許せないけれど、それを手元に置いて痛めつけるのも一興なのだった。そんなドロドロの感情に支配されていたワガママーナが囚われていたのは恋する女の猛烈な嫉妬心だけである。
(ふん! 背中なら服をきていれば痣になってもわからないわよね)
🍀ソラside
ソラは天空から雪が舞う窓の外を見やりながらあの幼い頃を思い出していた。あの三日間はベントレーと仲良く雪の上を転がり回り心の底から笑うことができたのに・・・・・・今はほんの少し微笑む為に口角をあげることすら難しいのだった。
「かしこまりました。ですが私はそのような気持ちは全く持っておりません」
ベントレーを誘惑する気など毛頭ないソラは丁重にそう答えたが、余計にワガママーナを怒らせたようであった。
背中に鋭い痛みが走り、長く固い定規で叩かれたと知る。
(いっそのこと剣で刺し殺してくれればいいのに・・・・・・)
毎日が地獄のようなソラにとってもうこの世界にいるべき理由は見いだせないのだった。
ソラに割り当てられた部屋の暖炉には薪もなく、家具は古びたベッドとライティングデスクと固い椅子のみ。
侍女というよりは下女の部屋で生活をし、毎回ワガママーナに嫌みを言われ時には折檻まで受けるのだ。
ベントレーがワガママーナと仲睦まじく時を過ごす様を見るにつけ、ソラの心に雪が少しづつ降り積もっていく。それは氷の塊になり冷たく心の底に積まれていき、もう溶けることは決してないに違いない。
「おめでとうございます! ご懐妊です」
ワガママーナに子供ができたことが判明した瞬間の医師の言葉は、ソラには遠い異国の言葉のように無機質に響いたのだった。
「ソラ、あなたは髪の結い方が雑なのよ? 本当に不器用な人ねぇ! だから子爵令嬢なんて嫌だったのよ! あなたがベントレー様に側にいたいからと頼んだのでしょう? どこまで図々しいのかしら」
ワガママーナはソラがベントレーの婚約者だったことを知りながらも自らの侍女にすることを承諾したが、それは決して優しい気持ちからではなかった。美しいけれど身分の低いソラを侍女として置いておけばいつでも貶めることができるからであった。
(これほどの美貌だもの。王都にでも行って高位貴族の侍女にでもなられたら玉の輿に乗って幸せな結婚をしちゃうわ。私の夫の元婚約者が私より幸せになるなんて許せないわよ! ソラは私の侍女として一生飼い殺してやる!)
どす黒い意地の悪い気持ちがこみ上げてくるワガママーナにとってソラはなにをしても気にくわない侍女なのである。
「ねぇ、子爵令嬢って惨めよね? そんなに綺麗でも好きな男性は王女である私に取られて、おまけに私の侍女になるなんて女としてのプライドもないのね」
「辺境伯家のご命令ですから子爵令嬢の私が逆らえるはずもありません。両親にも逆らえませんし・・・・・・」
「嘘をおっしゃい! ソラがベントレー様を諦められなくてここにいるのでしょう? ソラが泣いて頼むから仕方なくとスノーホワイト辺境伯様はおっしゃっていたわ。私は心の広い優しい王女だから承諾してあげたのよ。でも実際は貴方の性根はあさましいし反吐がでるわよ。きっとベントレーを誘惑しようとして私の侍女になりたがったのでしょう?」
容赦なく扇で手を叩かれ、赤く染まった手の甲に血が滲む。扇の飾りのサファイアが凶器となってソラの皮膚を裂いたからである。
血が流れた手の甲を意地悪く眺めて思いっきり高笑いをするワガママーナはさらにソラに言葉を投げつけた。
「私の扇を血で汚した罰だわ。今日の夕飯は水だけよ。下がりなさい」
「かしこまりました。ですが私はそのような気持ちは全く持っておりません」
気丈にもそう答えたソラの頬を思わず叩きそうになりグッと堪えた。
(顔に傷をつけるのは目立ちすぎてまずいわ。それにしても侍女の質素な服を着ていながら私より美しいなんて癪に障るわ。あの悲しげな顔だってわざとらしいのよっ! ベントレー様はソラをチラチラと見ることをやめないし・・・・・・あぁ、いらつく!)
ワガママーナは腹いせに固い定規を手に持ちソラの背中に向かって振り下ろした。愛しい夫の心に少しでも居座っている女の存在は許せないけれど、それを手元に置いて痛めつけるのも一興なのだった。そんなドロドロの感情に支配されていたワガママーナが囚われていたのは恋する女の猛烈な嫉妬心だけである。
(ふん! 背中なら服をきていれば痣になってもわからないわよね)
🍀ソラside
ソラは天空から雪が舞う窓の外を見やりながらあの幼い頃を思い出していた。あの三日間はベントレーと仲良く雪の上を転がり回り心の底から笑うことができたのに・・・・・・今はほんの少し微笑む為に口角をあげることすら難しいのだった。
「かしこまりました。ですが私はそのような気持ちは全く持っておりません」
ベントレーを誘惑する気など毛頭ないソラは丁重にそう答えたが、余計にワガママーナを怒らせたようであった。
背中に鋭い痛みが走り、長く固い定規で叩かれたと知る。
(いっそのこと剣で刺し殺してくれればいいのに・・・・・・)
毎日が地獄のようなソラにとってもうこの世界にいるべき理由は見いだせないのだった。
ソラに割り当てられた部屋の暖炉には薪もなく、家具は古びたベッドとライティングデスクと固い椅子のみ。
侍女というよりは下女の部屋で生活をし、毎回ワガママーナに嫌みを言われ時には折檻まで受けるのだ。
ベントレーがワガママーナと仲睦まじく時を過ごす様を見るにつけ、ソラの心に雪が少しづつ降り積もっていく。それは氷の塊になり冷たく心の底に積まれていき、もう溶けることは決してないに違いない。
「おめでとうございます! ご懐妊です」
ワガママーナに子供ができたことが判明した瞬間の医師の言葉は、ソラには遠い異国の言葉のように無機質に響いたのだった。
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