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16 魔王をダリと呼ぶアリアナ

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 こちらは人間界である。アリアナに罪を着せたレオナルドは、エリナと結婚したが、すでに蜜月は過ぎていた。魔法の果実を独り占めしたあげく身体の大きさが2.5倍に膨れ上がったエリナに、レオナルドはなんの魅力も感じなくなっていた。おまけに、自分にも増して怠け者で、アリアナ・スクプリタムがなければなにもできない。

「やはり、エリナを妃に迎えたのは間違いだった。我が儘だし、この私より威張っている。いつだって、アリアナは私を立ててくれていたのに」
 王太子宮で小さくつぶやく。

「きさまのようなゲスに、アリアナの名前を呼ばせたくない。図々しいにもほどがあろう? 自分で偽りの罪に陥れたくせに」

「だ、誰だ? ひっ、お前はどこから入ってきたんだ? 見たこともない顔だぞ」

「私は魔王だ。アリアナの名を呼べる男は私だけだ。その汚らわしい舌を引き抜いてくれるわ」

 大きなハサミがポワンと空中に浮かび上がる。今、まさにそのハサミがレオナルドの舌を切ろうとしたその瞬間、アリアナがジョアンナ妖精とともに姿を現した。

「魔王様! だめです! 無意味な殺生はいけません。レオナルド王太子殿下はもう私には関係ない人です 」
「アリアナ。こいつはアリアナの名を独り言で呼んだ。それにアリアナの夢にまで出てきて安眠を妨げた。到底許すことなどできない。ジョアンナ妖精、なぜアリアナを連れてきたんだ?」

「だって、魔王。私はアリアナに嘘はつけないもん。『魔王様の姿が見えないけれど、どこにいるのかしら?』とアリアナに聞かれたら正直に言うしかないわ。アリアナから『魔王様のところに連れていって』と懇願されたら、拒めないわ」
「むぅ、まぁ、確かにそれはそうだな。アリアナのお願いは、誰だって無視できん」

「魔王様、レオナルド王太子の舌を切ってはいけません」
「しかし、こいつは絶対に許せない」
「ダリ、お願い」
「えっ? 今、私のことをダリと呼んだか?」
「はい、魔王様が数日前からそう呼んで欲しいとおっしゃったでしょう? だから、今からそう呼ぶことにしました」
 ちなみに、魔王の名前はダリオンである。

「ぐはっ……破壊力がすごいな。唯一無二のアリアナから『ダリ』と呼ばれるこの無情の喜び!」
「ダリ。一緒に魔界に帰りましょう。こんな者を殺めたらダリの価値が下がります。尊い御身が汚れますわ」
「う、うん。そうなのだが……しかし、こいつはアリアナの夢で追いかけ回していたのだろう? 足だけでも切り落としてよいか? 死なないようにするから」
 魔王は上目遣いにアリアナを見た。まるで、忠実な犬が主人に許しを請うような眼差しだ。

「いけません。だって、レオナルド王太子殿下の足を切ったダリに抱きしめられるのは嫌ですもの。私の大事なダリに不浄の血がつきます。そして、ダリの手を通して、私にもレオナルド王太子殿下の血がつくのですわ」
「ん? それはいかん、いかん。大事なアリアナに愚か者のクズの血などつけては大変だ。確かに、どんなに浄化魔法で清めようとも、クズの血はくさいかもしれん。わかったよ、アリアナ、魔界へ帰ろう」
「はい、ダリ」
 アリアナはすっかり魔王の操縦をマスターしたようだった。魔王は満面の笑みで、アリアナをお姫様だっこして魔界に帰るのだった。 
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