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15 悪夢を見たアリアナ
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「アリアナ。なにか欲しいものはないか? 不便なことは?」
魔王はアリアナを見かけるたびに声をかけた。庭園でもサロンでも廊下でも。『魔王妃の間』にまでやって来て尋ねることもある。あまりにしつこく聞いてくるので、アリアナはどうしたものかと、ジョアンナに相談した。
「魔王は恋愛には奥手なのよ。察してあげてね。アリアナの優しさに、ときめいちゃったのよ」
「ときめくようなことを、した覚えはないわよ・・・・・・」
「魔力の暴走を止めたじゃない? お陰で夜はぐっすり眠れて、魔王の顔は天使みたいに輝いているわ。目の下にクマがないと、若々しく見えるわね」
「あぁ、それは確かに睡眠はとても大事だものね。よく眠れるということは、人生における最高の幸せのひとつだわ」
「だから、その最高の幸せをアリアナは魔王にプレゼントしたってわけ。これから猛烈に愛されるから覚悟しといてね」
「ふふっ、まさか、そんなことあるはずがないわ。あんなに麗しい魔王様が人間の私を愛するなんて、きっと一生ないことよ」
今のアリアナにとって、毎晩の質の高い睡眠は当たり前になっていた。かつては、自らも睡眠不足に悩まされ、辛い思いをした経験がある。しかし、魔界に来てからは十分な睡眠時間を確保できるようになり、その幸福を心から感じていた。そのため、夜毎に悪夢にうなされる魔王を見ては、自然と気の毒に思う心の余裕が生まれていた。ただそれだけのことなので、大層なことをしたという自覚もなかった。
「それがあるのよ。それにアリアナの一生は魔王や私と同じぐらい長くなったのを忘れていない? きっと、うっとうしいぐらいまとわりつかれるわよ。永遠に」
ジョアンナはコロコロと笑ったのだった。
☆彡 ★彡
ある晩、『魔王妃の間』にアリアナが悪夢にうなされる声が響いた。ジョアンナは飛び起きてアリアナを揺り起こそうとする。魔王は隣の部屋で、寝る前の読書を楽しんでいたところだった。当然、魔王はアリアナのもとに駆けつけた。
「アリアナ! 大丈夫か? 起きるんだ! ずいぶん、うなされていたようだ」
「・・・・・・はい。なぜか、レオナルド王太子に追いかけ回される夢を見ました。大臣たちにもです。また、レオナルド王太子の代わりに休み無く働かされるのかと思うと、怖くて・・・・・・恐ろしくて・・・・・・」
「大丈夫だ、アリアナ。私が君を守ると約束する。私に安らかな眠りをもたらしてくれたアリアナを、苦しめる者は一切許さない」
「夢のなかのお話ですから、気になさらないでください。そう言えば、お母様もお父様も夢にでてきました。相変わらずエリナばかりを可愛がり、私を無視する姿に思わず涙がでました。なぜ、幼い頃の思い出は、あれほど鮮明なのかしら」
それを聞いた魔王はアリアナを強く抱きしめた。
「夢のなかにまで出てきて、アリアナを苦しめるとは……万死に値する。不届き者めらがっ! どうしてくれようか……レオナルドめっ、クレスウエル公爵夫妻めっ!」
凄まじい怒りがあたりの気温をグッとさげた。思わず、アリアナが身震いする。
「えっと、魔王様。なにか急に寒くなりました? これらの夢はすべて過去の出来事で、今の私は充分幸せです。なので、魔王様がお怒りになることはありませんわ」
「うん、もちろんアリアナがそう言うなら済んだ話だ。私は別になにもしないよ」
「そうよ、アリアナ。心配しないで。私たちは何もしないわ。本当よ」
「ふふっ。わかっているわ。ふたりとも、とても優しいものね」
アリアナは花のように微笑むのだった。
魔王はアリアナを見かけるたびに声をかけた。庭園でもサロンでも廊下でも。『魔王妃の間』にまでやって来て尋ねることもある。あまりにしつこく聞いてくるので、アリアナはどうしたものかと、ジョアンナに相談した。
「魔王は恋愛には奥手なのよ。察してあげてね。アリアナの優しさに、ときめいちゃったのよ」
「ときめくようなことを、した覚えはないわよ・・・・・・」
「魔力の暴走を止めたじゃない? お陰で夜はぐっすり眠れて、魔王の顔は天使みたいに輝いているわ。目の下にクマがないと、若々しく見えるわね」
「あぁ、それは確かに睡眠はとても大事だものね。よく眠れるということは、人生における最高の幸せのひとつだわ」
「だから、その最高の幸せをアリアナは魔王にプレゼントしたってわけ。これから猛烈に愛されるから覚悟しといてね」
「ふふっ、まさか、そんなことあるはずがないわ。あんなに麗しい魔王様が人間の私を愛するなんて、きっと一生ないことよ」
今のアリアナにとって、毎晩の質の高い睡眠は当たり前になっていた。かつては、自らも睡眠不足に悩まされ、辛い思いをした経験がある。しかし、魔界に来てからは十分な睡眠時間を確保できるようになり、その幸福を心から感じていた。そのため、夜毎に悪夢にうなされる魔王を見ては、自然と気の毒に思う心の余裕が生まれていた。ただそれだけのことなので、大層なことをしたという自覚もなかった。
「それがあるのよ。それにアリアナの一生は魔王や私と同じぐらい長くなったのを忘れていない? きっと、うっとうしいぐらいまとわりつかれるわよ。永遠に」
ジョアンナはコロコロと笑ったのだった。
☆彡 ★彡
ある晩、『魔王妃の間』にアリアナが悪夢にうなされる声が響いた。ジョアンナは飛び起きてアリアナを揺り起こそうとする。魔王は隣の部屋で、寝る前の読書を楽しんでいたところだった。当然、魔王はアリアナのもとに駆けつけた。
「アリアナ! 大丈夫か? 起きるんだ! ずいぶん、うなされていたようだ」
「・・・・・・はい。なぜか、レオナルド王太子に追いかけ回される夢を見ました。大臣たちにもです。また、レオナルド王太子の代わりに休み無く働かされるのかと思うと、怖くて・・・・・・恐ろしくて・・・・・・」
「大丈夫だ、アリアナ。私が君を守ると約束する。私に安らかな眠りをもたらしてくれたアリアナを、苦しめる者は一切許さない」
「夢のなかのお話ですから、気になさらないでください。そう言えば、お母様もお父様も夢にでてきました。相変わらずエリナばかりを可愛がり、私を無視する姿に思わず涙がでました。なぜ、幼い頃の思い出は、あれほど鮮明なのかしら」
それを聞いた魔王はアリアナを強く抱きしめた。
「夢のなかにまで出てきて、アリアナを苦しめるとは……万死に値する。不届き者めらがっ! どうしてくれようか……レオナルドめっ、クレスウエル公爵夫妻めっ!」
凄まじい怒りがあたりの気温をグッとさげた。思わず、アリアナが身震いする。
「えっと、魔王様。なにか急に寒くなりました? これらの夢はすべて過去の出来事で、今の私は充分幸せです。なので、魔王様がお怒りになることはありませんわ」
「うん、もちろんアリアナがそう言うなら済んだ話だ。私は別になにもしないよ」
「そうよ、アリアナ。心配しないで。私たちは何もしないわ。本当よ」
「ふふっ。わかっているわ。ふたりとも、とても優しいものね」
アリアナは花のように微笑むのだった。
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